父親として

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
裕二(ゆうじ) 38歳
優実(ゆうみ) 8歳
家政婦 45歳
母親 62歳
父親 65歳
医師

■台本

病院。

美嘉「……裕二さん。優実をお願いね」
裕二「美嘉……。美嘉!」
優実「うわーん。お母さーん!」

場面転換。
ガチャリとドアが開く。

裕二「ただいまー……」

家政婦がやってくる。

家政婦「お帰りなさい」
裕二「あ、すいません。残ってくれてたんですか?」
家政婦「ああ、いえいえ。いいんですよ。どうせ、帰ってもすることないですから」
裕二「……いつも助かります。で、優実は?」
家政婦「さっきまで起きてたんですけど……」
裕二「……もう10時ですからね」
家政婦「もう少し、早くお帰りになることは難しいですか?」
裕二「……ちょうど、忙しい時期でして……」
家政婦「そうですか……。あ、お食事、どうします? 用意してますけど」
裕二「あ、お願いできますか?」
家政婦「じゃあ、温め直しますね」

場面転換。
裕二の部屋。
キーボードを打っている音。

裕二「はあ……。こりゃ、徹夜だな」

ドアが開く音。

優実「……お父さん?」
裕二「お? 優実、どうした?」
優実「まだ、寝ないの?」
裕二「(微笑んで)お父さんのことは気にしないでいいから、優実は寝てなさい」
優実「……ねえ、ここで絵本読んでてていい?」
裕二「もう深夜の2時だぞ。布団で寝なさい」
優実「……」
裕二「……毛布持ってきて読みなさい」
優実「う、うん!」

場面転換。
優実が寝ている。裕二は仕事をしている。

優実「すーすー」
裕二「……寝ちゃったか。よっと」

裕二が優実を抱え上げる。

裕二「……少し、重くなったな」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。

裕二「……ただいまー」

そこに家政婦がやってくる。

家政婦「……あの」
裕二「あれ? 今日もいてくれたんですか? ……いつも、本当にすみません」
家政婦「それより、その……」
裕二「どうしました?」
家政婦「優実ちゃん、泣いてましたよ」
裕二「え? どうして?」
家政婦「……心当たりありませんか?」
裕二「……あっ!」
家政婦「優実ちゃん、ずっと待ってたみたいですよ。……親が来なかったのは優実ちゃんだけだったみたいです」
裕二「……はあ。くそ! 完全に忘れてた」
家政婦「あの……。もう少し、優実ちゃんの方を見てあげれらませんか?」
裕二「俺もそうしたいんですけど……。優実をちゃんと育てるためには、お金が必要なんです」
家政婦「……差し出がましいことを言ってすいませんでした」
裕二「いえ……」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。

裕二「……優実、起きてるか?」
優実「……」
裕二「寝ちゃったか」
優実「……」
裕二「ごめんな。今日、授業参観に行けなくて。……ダメだな、父さんは。お前のために、何もできない」

場面転換。
部屋で裕二が仕事をしている。
手を止めて。

裕二「……はあ」

裕二(N)「美嘉。……俺、ちゃんと父親やれてるかな? 俺……俺……。美嘉。……会いたいよ」

場面転換。
部屋で仕事をしている裕二。

裕二「……」

ドアが開く音。

優実「……お父さん?」
裕二「え? 優実? あっ! もうこんな時間か! ちょっと待ってろ。今、朝ごは……」

立ち上がった裕二がフラリと眩暈がする。

裕二「あれ……?」

倒れる裕二。

優実「お父さん! お父さん!」

場面転換。
病院の病室内。

医師「……過労ですね。1週間くらい、休んで行くといいでしょう」
裕二「はは。さすがにそんなに休めませんよ」
医師「……責任は持てませんよ」

医師が行ってしまう。
代わりに母親と父親が入ってくる。

母親「裕二……。大丈夫なの?」
裕二「母さん……」
父親「すごいな。優実は。あんなに小さいのに、すぐに家政婦さんに連絡したみたいだぞ」
裕二「そっか。……偉かったな」
父親「少し、仕事を休めんのか?」
裕二「……今はちょっと無理かな」
母親「ねえ、裕二。優実ちゃん。うちで預かろうか?」
裕二「え?」
父親「家政婦さんから話は聞いた。優実をこれ以上、寂しい思いをさせるな」
裕二「……」
母親「別にずっとじゃなくて、仕事が落ち着くまで、どう?」
裕二「……でも」
父親「お前が美嘉さんのこともあって、一人で育てたいという思いはわかる。だが、それで優実を不幸にしたら意味ないだろ」
裕二「っ!?」
母親「このままじゃ、裕二も体を壊しちゃうわ」
裕二「……少し、考えさせてくれ」

場面転換。
夜の病室。

裕二(N)「美嘉……。お前との約束にこだわって、優実のことを蔑ろにしてた。結局、俺の独りよがりだったんだな……」

場面転換。
裕二の家。

優実「え? おじいちゃんの家に?」
裕二「ああ。おじいちゃんとおばあちゃんはずっと家にいるから、寂しくないぞ」
優実「……」
裕二「お父さんも時々、会いに行くから」
優実「……私、寂しくないよ」
裕二「え?」
優実「お父さんと一緒なら、優実、全然、寂しくない!」
裕二「……でも」
優実「私、お父さんと一緒にいたい!」

優実が裕二に抱き着く。

裕二「……優実」

裕二(N)「美嘉。やっぱり、俺、ちゃんと優実のこと見れていなかった。何が、優実のためか、わかったなかったみたいだ」

場面転換。
ドアが開く音。

裕二「ただいまー」
優実「お帰りなさい―!」
裕二「今日は野菜が安かったから、ちょっと多めに買ってきたんだ。野菜が続くけど、大丈夫か?」
優実「私、野菜好きだよ!」
裕二「そっかそっか。あ、そうだ。明日の授業参観だけど、休み取れたから行けるぞ」
優実「ホント! やったー!」

裕二(N)「この先、優実にはお金の面で色々と苦労させるかもしれない。でも、俺はちゃんと優実と一緒に歩いていくつもりだ」

終わり。

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