将来の夢
- 2023.06.15
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
浩平(こうへい)
父親
■台本
浩平が5歳の頃。
父親とキャッチボールをしている浩平。
浩平がボールを投げて、ズバンと良い音をさせて父親のグローブに収まる。
浩平「どう? お父さん?」
父親「おお! すごいぞ、浩平。いい球だ」
浩平「えへへへ。そうかな?」
父親「いやいや。5歳でこれだけ投げれたら大したもんだ」
浩平「じゃあ、僕、将来、野球選手になるよ」
父親「はははは。うんうん。浩平ならなれる。頑張れよ」
浩平「うん!」
場面転換。
浩平が10歳の頃。
庭でバットを振っている浩平。
浩平「やっ! やっ! やっ!」
父親「おお、浩平。素振りか。頑張ってるな」
浩平「もちろんだよ。僕は将来、野球選手になるんだからね」
父親「その調子だ。頑張れよ!」
浩平「……あ、でも、ちょっと休憩する。疲れた」
父親「そ、そうか。まあ、休息も大事だからな」
浩平「そうだよね」
場面転換。
浩平が15歳の頃。
テレビで野球中継を見ている浩平。
浩平「よっしゃー! 打ったー! 入れ、入れ、入ったー! 逆転ツーランホームラン、すげー!」
そこに父親がやってくる。
父親「浩平。お前、今日、部活じゃないのか?」
浩平「ん? ああ、ちょっとねん挫したから、今日は休むんだ」
父親「そ、そうか……。大丈夫なのか、そんなんで?」
浩平「何言ってるのさ。練習できない分、プロの試合を見て、勉強してるだから」
父親「ああ……。まあ、確かに、見て勉強するのは必要だな」
浩平「でしょ? 見ててよ! 俺、絶対に将来は、プロ野球選手になるからさ」
父親「……が、頑張れよ」
場面転換。
浩平が17歳。
部屋で寝転がって漫画を読んでいる浩平。
浩平「あはははは」
ガチャリとドアが開く。
父親「浩平。部活行かなくていいのか?」
浩平「いや、今日、雨だから」
父親「けど、体育館で練習するって監督、言ってたぞ?」
浩平「ああ、それ、強制じゃないんだよね。やりたい人だけやるってやつ」
父親「……やらないのか?」
浩平「体育館で練習しても、あんまり効果ないんだよね。だから、体を休めることにしたんだよ」
父親「せめて、野球の試合を見て、勉強するとかしないのか?」
浩平「あのねぇ。ちゃっとやってるよ。イメージトレーニング! こうやって、目を瞑ってイメージするってやつ」
父親「……大丈夫なのか? そんなんで?」
浩平「当たり前でしょ! いいから心配しないで黙ってて。今年、うちの学校、甲子園に行けそうだし、将来は絶対にプロになるからさ」
父親「……その前に、レギュラーにならないとな」
場面転換。
浩平が20歳の頃。
部屋でゲームをする浩平。
浩平「あー、くそ、やられた!」
ガチャリとドアが開く。
父親「なあ、浩平」
浩平「んー? なにー?」
父親「なんで、大学の野球チームに入らないんだ?」
浩平「え? だって、大学の試合で肩を消費したら勿体ないでしょ」
父親「いや、消費もなにも、高校の頃からもほとんど使ってないじゃないか」
浩平「大丈夫、大丈夫。その分、プロで使うからさ」
父親「練習不足じゃないのか? 結局、高校でもレギュラーになれなかったし」
浩平「何言ってんだよ、父さん! 大学卒業したら、プロの入団テスト受けるから」
父親「……」
浩平「見ててよ。俺、絶対、将来、プロ野球選手になるからさ」
父親「そ、そうか……」
ゲームを再開する浩平。
浩平「よっと! わ、危ない!」
ゲームの効果音。
父親「……」
場面転換。
浩平が24歳の頃。
リビングでソファーに座っている浩平。
浩平「……」
そこに父親がやってくる。
父親「何やってるんだ、浩平」
浩平「入団テストの結果待ち。合格したら今日、電話かかってくるんだ」
父親「……もう夜の11時だぞ? さすがにもう落ちたんじゃないのか?」
浩平「何言ってるのさ。今日ってことは、まだ1時間あるでしょ」
父親「そ、そうだな……」
浩平「まだかな? 今回は自信あるんだよね」
父親「……なあ、浩平。一旦、その……就職したらどうだ? 大学卒業したんだしさ」
浩平「冗談じゃないよ! 仕事なんてしてたら、練習する時間なるなるでしょ!」
父親「いや、それはそうなんだが……」
浩平「見ててよ、父さん。俺、将来、プロ野球選手になるからさ」
父親「……」
場面転換。
浩平が32歳の頃。
ガチャリとドアが開いて、浩平が入ってくる。
浩平「ふえー! 疲れたー!」
父親「……何してたんだ?」
浩平「何って、見てわかんない? ランニングだよ、ランニング」
父親「なんで、ランニングなんかしてるんだ?」
浩平「今度の日曜、入団テストがあるんだよ。少しでも体力つけたくてさ」
父親「……一日じゃ、体力はつかないだろ。それに、その腹。野球選手どころか、スポーツマンですらないだろ」
浩平「はあ……。わかってないな、父さんは。俺、バッター目指してるから、別にいいんだって」
父親「……」
浩平「見ててよ、父さん。俺、将来、プロ野球選手になるからさ」
父親「……はあ(ため息)」
場面転換。
浩平が35歳の頃。
庭でバットを振っている浩平。
バットの音がブオンと、ショボい。
浩平「はあ、はあ、はあ、はあ……」
父親「お? 運動不足解消か?」
浩平「何言ってるんだよ。今度の入団テストに向けての練習!」
父親「……入団テスト? いや、浩平、お前もう35じゃないか!」
浩平「だからなに? トライアウトに年齢制限はないんだからさ」
父親「……」
浩平「俺、今年は本気なんだ。たぶん、いけると思う」
父親「そ、そうか……?」
浩平「見ててよ、父さん。俺、将来、絶対にプロ野球選手になって見せるから!」
父親「……なあ、浩平」
浩平「なに?」
父親「今がもう、その将来なんだよ」
浩平「……え?」
父親「夢はもう、無謀になってしまったんだ」
浩平「……意味わかんねぇ」
浩平が再び、ショボい音を出しながら、バットの素振りを始める。
終わり。
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