憧れのお姫様になるために

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、中世ファンタジー、コメディ

■キャスト
ローラ 5歳、17歳
母親
テオドール 65歳
王子 21歳
アレフ 19歳

■台本

ローラが5歳の頃。

町の中で結婚のパレードが行われている。

歓声と「おめでとう」という声がしている。

ローラ「……うう。見えないよー」

母親「ああ……。いいわね。私の時もあんな素敵な結婚式がしたかったわ」

ローラ「お母さんとお父さんの結婚式のときは違ったの?」

母親「あのときは、国の経済がガタガタでね。そんな中、王様の結婚式といっても、盛大にできなくて……」

ローラ「そうだったんだ……」

母親「ローラの時は、ちゃんと盛大にやろうね」

ローラ「うん!」

そのとき、町からワーッと歓声が上がる。

母親「わああ。やるわね」

ローラ「え? なになに? どうしたの?」

母親「お姫様抱っこしたのよ」

ローラ「お姫様抱っこ?」

母親「そう。いいわね。やっぱり、お姫様の憧れよね」

ローラ「……憧れ」

母親「ローラもお姫様抱っこが似合う、素敵なお姫様になってちょうだいね」

ローラ「うん!」

場面転換。

ローラが17歳の頃。

山の近くで特訓をしているローラ。

腕立て伏せをしている。

ローラ「198……199……200!」

バッと立ち上がるローラ。

少し歩いて、立ち止まる。

深呼吸をするローラ。

ローラ「はあああああああ!」

岩を砕く音。

ローラ「ふう。よし、次は……」

そのとき、馬が掛けてくる音。

テオドール「姫。ここにいましたか」

ローラ「あら、ジイ、どうしたの?」

テオドール「どうしたのではありません。あなたは一国の姫なのですぞ。一人でフラリと出ていかれても困ります」

ローラ「あははは。大丈夫だって」

テオドール「姫、そういう気の緩みが……」

ローラ「……私に勝てる人間なんて、いる?」

ローラの威圧感のある声。

テオドール「うっ……。確かにそうなのですが……」

ローラ「……ふふ。ごめんなさい。今度からはちゃんと言ってから城を出るようにするわ」

テオドール「……よろしくお願いいたします」

ローラ「で? 単に私を呼びに来ただけ?」

テオドール「あ、そうでした。王妃様が縁談を決めてきましたぞ」

ローラ「ホント!? すぐ行く。今度こそ、素敵な男性だったらいいなぁ」

場面転換。

城の中庭。

ローラと王子が歩いている。

王子「……というわけで、戦場では先頭に立って、突撃したんですよ」

ローラ「そうですか……」

王子「俺が王になれば、民のために必死に働きます。後の世で名君と呼ばれるように、ね」

ローラ「……あの、一つ聞いてもいいですか?」

王子「なんでしょう?」

ローラ「女性に力が劣る男性のことをどう思いますか?」

王子「あはははは。あり得ませんね。男は女を守るものです。女に力負けする男なんて、風上におけないですね」

ローラ「……そうですか」

場面転換。

城の中。

母親「……ローラ。どうして、断るの? とてもいい人だと思うのに」

ローラ「ごめんなさい、お母様。私の理想のためなんです。ここだけは絶対に譲れないわ」

母親「もう。理想が高すぎると行き遅れるわよ」

ローラ「……」

場面転換。

山の近くで特訓をしているローラ。

ローラ「298……299……300!」

立ち上がるローラ。

テオドール「お疲れ様です、姫。さ、タオルです」

ローラ「ありがとう」

テオドール「あの、姫。縁談を断られたと聞きましたが?」

ローラ「しょうがないじゃない。理想と程遠いんだからさ」

テオドール「……あの王子でもダメとなると、もう、姫のお眼鏡にかかる者はいないかと」

ローラ「そうかしら? 私はそんなに理想が高いとは思わないんだけなー」

テオドール「……」

そのとき、暴れ馬が掛けてくる。

それに乗っている、アレフ。

アレフ「うわああああ! だ、誰か、と、止めてください―!」

ローラ「ん?」

テオドール「暴れ馬でございます。姫、御下がりください」

ローラ「……」

テオドール「姫!」

馬が迫る。

ローラ「はっ!」

ローラの声でビビって、馬が止まる。

アレフ「ふー。ビックリした―。あ、馬を止めていただいて、ありがとうございます」

ローラ「どういたしまして」

テオドール「おや? あなたはアレフ様では?」

アレフ「は、はい。そうですけど」

テオドール「なぜ、隣国の王子であるあなたがここに?」

アレフ「それが……お母様に、あんたはへなちょこすぎる! 少しはローラ姫を見習いなさいって言われまして……」

テオドール「なるほど。それで、姫に会いに来たと?」

アレフ「は、はい……」

ローラ「へー。あなた、王子なの?」

テオドール「(小声で)姫。アレフ様は、大陸でも有名な気弱で情けない王子です。このような者に時間をかけること自体、無駄でございます」

ローラ「……ふーん。情けない、ね」

アレフ「え? あ、あの、なんでしょう?」

ローラ「あなた、女性に守られる男性ってどう思うかしら?」

アレフ「え? べ、別にどうも思いませんけど」

ローラ「……」

テオドール「なんと、嘆かわしい。王子ともあろうものが、そのような発言を……」

アレフ「でも、人には得手不得手があります。別に女の人の方が力が強くてもよくないですか?」

テオドール「……(絶句)」

ローラ「じゃあ、男性が女性に抱っこされるのに抵抗はない?」

アレフ「はい。ありませんよ。というより、それをしてくれる女性が理想です」

ローラ「っ!? ジイ! 決めたわ!」

テオドール「な、なにをですか?」

場面転換。

町で結婚式のパレードが行われている。

主賓はローラとアレフ。

オープンにされた馬車に乗っているローラとアレフが歓声に向けて手を振っている。

その横には母親もいる。

母親「まさか、あなたがアレフ王子と結婚するなんてね。ビックリだわ。一番ないかとおもっていたのに」

ローラ「え? そうかしら? アレフは私の理想の人よ」

アレフ「え? そ、その……恥ずかしいですが、嬉しいです」

母親「アレフ王子のどこが好きなの?」

ローラ「だって、私が憧れのお姫様になるための条件を満たしているから」

母親「……条件?」

ローラ「そ! これよ!」

アレフ「わわっ!」

ワッと歓声がする。

ローラ「お姫様抱っこ! どう? お母様、私、お姫様抱っこが似合うお姫様になれたかしら?」

母親「……ローラ」

ローラ「なに?」

母親「お姫様抱っこは、お姫様が抱っこされる側よ」

ローラ「……え?」

終わり。

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