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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ドラマ・舞台、現代、シリアス

■キャスト
中山 響(なかやま ひびき)
下田 巧(しもだ たくみ)
彩桜 洋一(さいおう よういち)
先輩1~3
監督

■台本

〇体育館
バスケットボールの試合をしている。
星城が51点で、岳戸が53点。
響(15)がドリブルして、対戦相手を抜いていく。
そして、スリーポイントシュートを放つ。
パサッとリングに入ると同時に、歓声が沸き奢る。
ピーっと審判が笛を吹くと、響とチームメイトが抱き合う。

〇高校・体育館
高校生になっている響と、新1年生が並んでいる。

響「星城中の中山響です」
先輩1「おおー! 中山くん、去年の活躍は聞いてるよ。期待してるから」
響「はい! 頑張ります!」
先輩2「次」
洋一「高原中の彩桜洋一です」
先輩3「うおー! 高原中の彩桜か! 去年はベスト16だっけ?」
洋一「はい」
先輩1「今年はすげー、戦力の補強ができたな」
先輩2「次」
巧「坂城中の下田巧です。よろしくお願いします」
先輩1「さかじょう? どこ?」
先輩3「ポジションは?」
巧「あ、僕は未経験なんです」
先輩1「ああ……。そう」
先輩2「次」

新1年生が次々と自己紹介をしていく。

〇同
バスケットボールの練習をしている響達。
響はレギュラーに混じって、練習している。
3年にも引けを取らない技術。
周りから、響のプレイに感嘆の息が漏れる。
そんな中、体育館の隅でドリブルの練習をしている巧。

〇同
部活が終わり、響と洋一が部室に向かって行く。

響「あー、完全燃焼だわー」
洋一「嘘つけ。最後、流してただろ」
響「あ? バレた?」
洋一「……レギュラーは楽勝だな」
響「ああ」

後ろからダムダムとドリブルの練習をしている巧。
振り返って、巧を見る響。

響「……」

〇体育館
バスケの練習をしている響達。
ディフェンスしている洋一をドリブルで抜く響。

洋一「あっ!」

ニヤリと笑い、そのままシュートする響き。

〇体育館
試合会場。
ピーっと審判が笛を吹き、試合が終了する。
先輩たちが頷く中、響と洋一が目を合わせて肩をすくめる。

〇高校・体育館
ストレッチをしている響と洋一。

響「まさか、県大会で負けるなんてな」
洋一「まあ、今年からでしょ。雑魚い先輩たちもいなくなったし」
響「だな。これで、ようやく本気出せるよ」
洋一「先輩たちに気を遣うのも疲れるよな」

響と洋一が笑う。
そんな中、ガンとリングにボールが当たり、シュートを外す、巧。

洋一「……なんだ、あいつ?」
響「まあ、ヘタが練習できるなんて、部活始まる前くらいだからな」
洋一「ヘタ?」
響「あいつ、下田って名前だろ? で、下って、下手の『へ』で、ヘタ」
洋一「ははっ! 最低なあだ名付けるな、お前」

汗びっしょりの巧がシュートの練習をしている。

〇同
部員たちが練習をしている。
響と洋一が笑いながら話している。

監督「中山! 彩桜! 真面目にやれ!」
響「はーい」
洋一「はーい」

響が鋭いドリブルで、部員を抜いてシュートを決める。

監督「……」

〇同
練習後、部室へ向かう響と洋一。

響「洋一、帰り、ラーメン食ってかね?」
洋一「おおー! いいね」

後ろからダムダムという音が聞こえる。
響が振り向くと、巧がドリブルの練習をしている。
大量の汗。
足がもつれて倒れる巧。

響「はっ! さすがヘタ」
洋一「あいつ、なんで、あんなに必死に練習してるんだ?」
響「さあ。ヘタがレギュラーになんてなれるわけねーのにな」
洋一「あははは。ああいうのが、無駄な努力っていうんだよな」
響「あははは。だな」

巧が立ち上がる。

巧「……もう少し」

フラフラしながらも、ドリブルの練習をする巧。

〇体育館
部員たちが練習している。
そこに談笑しながらやってくる響と洋一。

監督「お前ら! なにやってんだ! もう練習始まってるぞ!」
響「さーせん」
洋一「すぐ参加しまーす」

響がコートに入る。
するとそこには巧がいる。

響「あれ? ヘタ。お前、コートで練習してんの?」
巧「え? あ、うん。まあ……」
洋一「なになに? 無駄な努力が実っちゃった感じ?」
巧「……」
響「んー。無駄な努力には変わらないと思うけどな」

不機嫌そうな顔をする巧。

響「あのさぁ、ヘタ。お前が最近、努力してるのはわかる。けどさ、俺らは小学のときからスゲー努力してきたんだよ。それを1年で追いつこうとか、逆に舐めてるだろ」
洋一「あー、まあ、そうだよな。少なくとも、俺たちはお前の100倍は努力してきたから」

ピッと監督が笛を吹く。
同時に、巧のボールを奪い、軽やかにドリブルで抜き去っていく。

響「無駄な努力、ごくろうさまー」

〇同
誰もいない体育館で練習している巧。
汗だくの巧がフラフラして、倒れる。
だが、起き上がる。

巧「……もう少しだけ」

再び練習を再開する巧。

〇同
部活の練習。
ダラダラと練習している響と洋一。
必死に練習している巧。

巧「もう少しだけ……」

全力で練習をしている巧。

〇同
部活の練習。
ダラダラと練習している響と洋一。
必死に練習している巧。

巧「もう少しだけ……」

全力で練習をしている巧。

〇同
部員たちが並んでいる。

監督「じゃあ、最後のレギュラーを発表する」
響「……(余裕の笑み)」
監督「下田」
巧「え?」
響「は?」
監督「聞こえなかったのか? 下田。お前がレギュラーだ」

響が詰め寄る。

響「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なんで、俺じゃなくて、ヘタなんですか!?」
監督「ん? 実力が上だからだ」
響「はあ? んなわけねーだろ! 俺がヘタより下だってのか!?」
監督「ああ」
響「ふざけんな!」
監督「じゃあ、やってみるか?」
響「……はあ?」

〇同
響と巧がコート内で、一対一で向かい合っている。
響がドリブルしている。
巧を抜こうとするが、阻止される。

響「ちっ……」

隙をついて、巧が響のボールを弾く。

響「なっ!?」

〇同(時間経過)
巧がドリブルで、響を抜く。

響「っ!?」

〇同
一人、呆然としている響。

監督「ショックか?」
響「なんで……。俺、あんなに努力してきたのに、ヘタが1年間練習しただけで抜いたってのかよ!?」
監督「いや、お前が努力してきた量は、確かに下田のものよりも多いだろう」
響「……」
監督「中学のときのお前に、下田は追いついてない」
響「ちょ、ちょっと待てくれよ。じゃあ、俺」
監督「ああ。お前は下手になってる」
響「そんな!?」
監督「お前らは、ずっと練習を流していた。だが、下田はいつも、もう少しだけと練習を続けてきた。どっちが上達するかは、お前でもわかるだろ?」
響「……」
監督「下田はずっと上を見ていた。自分の限界をいつも超そうとしていたんだ」

二人の後ろで、必死に練習している巧。

終わり。

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