かたたたきけん

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ドラマ・舞台、現代、シリアス

■キャスト
宮川 尚也(みやかわ なおや)
母親
人事担当

■台本

〇尚也の部屋(昼)

汚い部屋。物が散乱している。

尚也(36)は無精ひげ姿で頭はボサボサのスエット姿。

ベッドの上で寝転びながら、テレビをぼんやりと見ている。

尚也「……」

そこにドアがノックされる。

ドアの向こう側から声がする。

母親「尚也。ご飯できたんだけど……」

尚也「ドアの前に置いておいて」

母親「ねえ、たまには一緒に食べない?」

尚也「いや、いい」

母親「たまには部屋から出ないと……」

尚也「いいから、いつも通り、置いておいてよ!」

母親「ご、ごめんね」

尚也「……」

尚也がイライラしながら、テレビのリモコンを切り替え、ゲームをやり始める。

〇同(夜)

ゲームをしている尚也。

そこにドアがノックされ、ドアの向こうから声がする。

母親「ねえ、尚也。今日なんだけど、たまには外食しない?」

尚也「……するわけないだろ! 部屋から出ることもできないのにさぁ!」

母親「そ、そうだよね。ごめんない……」

尚也「……んだよ! 今日はやけに絡んでくるな。うぜぇ」

〇同(深夜)

尚也がガチャリと部屋のドアを開ける。

すると、部屋の前にお盆に乗ったご飯が置かれている。

尚也は周りを見渡した後、お盆を持って、部屋に戻る。

〇同

机の上にお盆を乗せて、ご飯を食べようとする。

だが、お盆の上に、なにやら紙が一枚乗っている。

尚也「なんだ、こりゃ?」

紙を掴んで見ると、そこには手書きで『かたたたきけん』と書いてある。

尚也「なんだよ、こりゃ」

紙を掴んで破ろうとする。が、手を止める。

尚也「……これって」

〇リビング(回想)

尚也が4歳の頃。

尚也が母親に抱き着いて、泣いていつおる。

尚也「お母さん、これから、僕たち、どうなるの?」

母親「大丈夫よ。お父さんがいなくたって、尚也は私が守ってあげるからね」

尚也「うん……」

〇同

机で、家計簿を書いている母親。

母親「うーん。私の化粧品をこっちの安いのにすれば、尚也の遠足のお菓子代を……」

そこに尚也がやってくる。

尚也「お母さん! 誕生日プレゼント!」

母親「え? プレゼントなんていいのに」

尚也「本当は何か買いたかったんだけど……」

尚也がそう言って渡したのは、手書きで『かたたたきけん』と書いた紙だった。

母親「尚也……」

尚也「これ! ずーっと! 使えるから! 期限はないから!」

母親が尚也を抱きしめる。

母親「尚也……。ありがとう。お母さん、頑張るからね」

〇リビング

社会人になった尚也。背広を着ている。

母親「似合うわよ、尚也」

尚也「……ありがとう、お母さん」

母親「立派になったわね」

尚也「これからは、僕が母さんを支えていくから」

母親「(涙ぐんで)ありがとう、尚也」

〇リビング

テーブルの上にはご飯が用意されている。

椅子に座っている母親が時計を見る。

時刻は深夜1時。

心配そうな表情の母親。

そのときガチャっとドアが開く音。

立ち上がり、リビングを出て行く母親。

〇玄関

背広姿の尚也。げっそりとやつれている。

靴を脱いでいるところに母親がやってくる。

母親「おかえりなさい、尚也」

尚也「……まだ起きてたの?」

母親「ご飯、用意しているから」

尚也「いらない」

母親「このところ、ずっと夜ご飯食べてないじゃない。そんなんじゃ、体壊すわよ」

尚也「食べるより、寝たい」

母親「でも……」

尚也「いいから、放っておいてよ!」

母親「ご、ごめんなさい……」

尚也「うっ!」

尚也が口を押えて、トイレに駆け込んでいく。

トイレの中から、尚也の嘔吐の声が聞こえる。

心配そうにドアを見ている母親。

ここからはドア越しの会話。

母親「ねえ、尚也」

尚也「……」

母親「仕事、辞めたら?」

尚也「……で、でも」

母親「お母さん、尚也の体の方が心配よ」

尚也「……」

母親「いいじゃない。仕事なんて。お母さんと一緒にやり直そ?」

ガチャリとドアが開くと、涙を流している尚也。

尚也「……お母さん」

母親が尚也を抱きしめる。

母親「大丈夫。尚也のことはお母さんが守ってあげるから」

尚也「う……うう……」

泣く尚也。

回想終わり。

〇尚也の部屋

『かたたたきけん』をジッと見ている尚也。

尚也「……そっか。今日は、母さんの誕生日だったんだ」

〇リビング

机の前で家計簿をつけている母親。

母親が手を止めて、肩を手で押さえる。

すると、横から、『かたたたきけん』が置かれる。

ビックリして振り向く母親。

そこには尚也の姿が。

母親「……尚也」

尚也「……」

母親「まだ使えるの?」

尚也「……期限はないから」

尚也が母親の肩を揉む。

ニッコリとほほ笑んで、肩を揉んでもらう母親。

〇会社の会議室

ドアがノックされる。

人事担当「どうぞ」

尚也の声「失礼します」

ドアを開き、尚也が部屋に入って来る。

尚也の髪は整えられ、背広を着ている。

きびきびと歩き、椅子に座る。

尚也「宮川尚也です。よろしくお願いします」

終わり。

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