お触り厳禁

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ドラマ・舞台、現代、コメディ

■キャスト
正輝(まさき)
神田 孝雄(かんだ たかお)
ミヤビ
店長

■台本

〇町・道路(夜)

スーツ姿の孝雄(36)と正輝(28)が酔って、フラフラと歩いている。

正輝「神田さん、明日って何か予定あるんですか?」

孝雄「ん? そうだな。明日は朝から飲もうと思ってるんだ」

正輝「……たった今、飲んで、そのセリフが出るなんてすごいですね。肝臓大丈夫なんですか?」

孝雄「平気だ。健康診断の結果は見ないことにしてるから」

正輝「それ、全然、大丈夫じゃないですよ」

孝雄「俺は医者に酒か命を選べと言われれば、酒を選ぶ」

正輝「……死んだら、酒は飲めないですよ」

孝雄「うっ!」

正輝「明日、暇なら、もう一軒行きません?」

孝雄「お? いい店知ってるのか? いい酒、置いてるんだろうな?」

正輝「……さっきの会話の流れから、そんなわけないじゃないですか」

孝雄「なんだよ。酒がないなら、付き合わんぞ」

正輝「まあまあ。お酒を忘れるくらい楽しみましょうよ」

孝雄「酒がなくて、なにを楽しめって言うんだよ」

正輝「それはもちろん、お、ん、な、です!」

孝雄「ほう?」

正輝「キャバクラとガールズバーの間のようなお店なんですけど、どうですか?」

孝雄「いいね。いい酒が飲めそうだ」

正輝「……だから、飲まない方がいいですって」

〇店内

ガチャリとドアが開く。

正輝と孝雄が店に入って来る。

店長「いらっしゃいませ。お二人ですか?」

正輝「は、はい」

店長「では、こちらへどうぞ」

店長に連れられて、2人が席に向かう。

ちょっとしたボックス席に案内される。

店長「こちらへどうぞ」

正輝「はい」

正輝と孝雄が席に座る。

店長「こちらのお店は初めてですか?」

正輝「はい」

孝雄「おい、初めてかよ。てっきり常連なのかと思ったぞ」

正輝「ネットで見て、行きたいって思ってたんですよ」

孝雄「……まあ、いいけど」

店長「では、こちらが当店のメニューになります」

店長がメニュー表を孝雄たちに渡す。

店長「お料理を持ってきた女の子へ声をかけるのは自由です。ただ、それ以外の女の子に声をかけたりするのはお止めください」

孝雄「あー。なるほど……」

メニューを見ながら孝雄が頷く。

店長「あと、最後に一点だけ、ご注意を。ここは『そういう』お店ではありませんので、節度を守って、お楽しみください」

店長がぺこりと頭を下げて、行ってしまう。

正輝「変わったお店ですね。女の子を付けてくれないなんて」

孝雄「いや、付くよ。周りを見てみろよ」

正輝「え?」

正輝が周りを見渡すと、席には客と女の子が楽しそうに話しているのが見える。

正輝「どういうことなんでしょう?」

孝雄「あの人が言ってただろ。料理を運んできた女の子は口説いて良いって」

正輝「……なんか、まどろっこしいですね。指名させてくれればいいのに」

孝雄「今どきの店って感じだな」

正輝「というと?」

孝雄「つまり、女の子側……店員側の方にも選択権があるってことさ。キャバクラとかだと指名されたら、嫌でもその客と話さないといけないだろ? だけど、このシステムなら、嫌な客だと感じたら、接客しなくていいんだよ。これなら、募集もしやすいだろうな」

正輝「でも、それだと客側が満足できないんじゃないですか?」

孝雄「メニューを見てみろよ。指名料とかが全くないし、値段も安めだ」

正輝「……ホントだ。お酒の高いのでも1万くらいですね」

孝雄「金がない奴とか、口説くのに自信がある奴なら、この店に来るだろうな。女の子と話すことができるのは、自分の腕次第ってわけだ」

正輝「なるほど……」

孝雄「あとは……あれだな」

孝雄がある張り紙を指差す。

正輝「あれ?」

首を傾げながら、孝雄の指差す方を見る。

その張り紙には『お触り厳禁。罰金1万円』と書かれている。

正輝「……もしかして」

孝雄「ああ。わざと触らせて、罰金と取るという方式かもな」

正輝「……絶対、触っちゃダメですよ」

孝雄「……お前の方が心配だよ」

〇同

飲み物とおつまみを持って、ミヤビがやってくる。

ミヤビ「お待たせしましたー! ミヤビでーす」

ミヤビが孝雄と正輝の前に飲み物を置き、二人の間にちょこんと座る。

孝雄「あれ?」

ミヤビ「どうかしましたー?」

孝雄「てっきり、一回目の注文くらいじゃ、持ってきて終わりだと思ったよ」

ミヤビ「あははは。他の子はそうしてるみたいですね。でも、私は成績悪いから、もう、気に入った人なら、一回目で座っちゃうんです」

孝雄「いやいや。成績が悪いわけないでしょ。ミヤビちゃんならトップ狙えるんじゃない?」

ミヤビ「そうですかあ? 嬉しいな」

ミヤビが胸元が空いた服で、孝雄に寄り掛かる。

孝雄「うっ!」

正輝「神田さん、ダメですからね」

孝雄「わ、わかってるよ。とにかく、ミヤビちゃんもなんか飲みなよ」

ミヤビ「いいんですかぁ? うれしいですー」

〇同

大分酔っぱらっているミヤビと楽しそうに話している正輝と孝雄。

ミヤビ「あははは。神田さん、冗談、おもしろーい」

孝雄「いやいや、本当なんだって!」

正輝「信じられないですよ。昔、アメフトやってたなんて。今、ヒョロガリじゃないですか」

孝雄「ちげーって。実はこう見えて、まだ筋肉残ってるんだぞ」

ミヤビ「ホントですかぁ?」

ミヤビが孝雄の胸をさわさわと触る。

ミヤビ「ホントだー。かたーい!」

孝雄「うっ!」

正輝「ダメですからね!」

正輝が親指で『お触り厳禁』の張り紙の方を指す。

孝雄「わ、わかってるって」

ミヤビ「あれぇ? もしかして、あっちもガチガチになっちゃったんじゃないんですかぁ?」

ミヤビが孝雄の内ふとももを撫でる。

孝雄「う、うう……」

正輝「我慢ですよ、我慢」

孝雄「……っ!」

ミヤビ「ねえ、私って、魅力ないですかぁ?」

胸元の空いた服の隙間から、ブラが見える。

孝雄「うぐぅ……」

正輝「ダメですよ! ダメですから!」

ミヤビ「あれぇ? でも、神田さんの乳首はビンビンですぅー」

ミヤビがシャツの上から孝雄の乳首を撫でる。

孝雄「――っ!」

正輝「ダメですってばー!」

〇同・レジ前

孝雄が虚ろな目をしている。

正輝が店長に伝票を渡している。

店長「……ああ。お触り厳禁って言ってるのに。こりゃ罰金だね」

孝雄「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は耐えたぞ! ギリギリだったけど、耐えたんだ……」

ミヤビ「ごめんなさい、店長」

正輝「え?」

店長「すみませんねぇ。この子、酔うと、すぐお客さんにお触りしちゃって」

正輝「お触り厳禁って……」

孝雄「店員の方かい!」

終わり。

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