拳で語り合う
- 2023.11.13
- 映像系(10分~30分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
翔(かける)
啓介(けいすけ)
紬(つむぎ)
稔(みのる)
浩平(こうへい)
■台本
〇小学校のグラウンド
向かい合って立ち、睨み合う翔と稔。
翔「……」
稔「……」
翔と稔が拳を振り上げる。
翔「やああああ!」
稔「うわあああ!」
だが、二人とも、殴るときに目を瞑っているので、あらぬ方向に拳が空を切る。
翔「えい! やあ!」
稔「とお! はあ!」
目を瞑ったまま、何度も拳を振るう二人。
だが、やがて疲れて、座り込む。
翔「はあ、はあ、はあ……」
稔「はあ、はあ、はあ……」
翔「きょ、今日はこの辺で勘弁してやる」
稔「こっちのセリフだ」
〇翔の家
リビングで、紬が啓介に勉強を教えている。
啓介は明らかにヤンキーの風貌。
紬「だーかーら、ここは、3だってば」
啓介「え? そうなのか?」
紬「はあ……。もう、留年しちゃえば?」
啓介「冗談じゃねーよ!」
そこにドアが開き、翔が入って来る。
翔「おねーちゃん! 喧嘩の仕方、教えて―」
紬「はあ……。もう、問題児ばっか!」
啓介「おう、翔、なんだ? 喧嘩に負けたのか?」
翔「あ、啓介お兄ちゃん、いらっしゃい」
啓介「何があったんだ?」
翔「実は……」
暗転。
翔「……というわけで、なんでか知らないけど、決着が着かないんだ」
啓介「ふーむ。なるほど。よし、お前のねーちゃんに勉強を教えてもらっている分、俺がお前に喧嘩の仕方を教えてやる」
翔「ホント!?」
啓介「礼はそれでいいよな?」
紬「良くない。雁屋(かりや)のケーキって話でしょ」
啓介「お前なぁ。弟が困ってるんだぞ。姉として助けてやりたいと思わないのか?」
紬「そんなの、喧嘩しなけりゃいいだけでしょ」
啓介「チッチッチ。甘いな。男には引いたらダメなときがあるんだよ」
翔「そうだよね!」
紬「煽ってどうするの。仲直りする方法を教えた方がいいに決まってるでしょ」
啓介「お? お前にしては良いこと言うな」
紬「……喧嘩売ってる?」
啓介「おい、翔」
翔「なに?」
啓介「男の仲直りはな、拳で語り合えばいいんだ」
紬「……さっきと話が変わってないけど」
翔「拳で語り合う……」
啓介「ああ。そうすれば、どんなやつだろうと、仲良くなれるんだ」
紬「……あんただけだから」
翔「……うん! やってみる」
啓介「よし、外に出るぞ」
〇翔の家の庭
啓介と翔が向かい合い、それを縁側で座って見ている紬。
啓介「よし、翔。まずはパンチを撃ってみろ」
翔「うん!」
翔が拳を振り上げる。
翔「えい!」
目を瞑って拳を振る。
紬「……当たらないわけだ」
啓介「翔。お前の欠点はわかった。特訓するぞ」
翔「わかった!」
〇同 時間経過
翔「やあ!」
翔がパンチをするがまだ目を瞑ってる。
啓介「まだ、目を瞑ってるぞ。ちゃんと前を見てパンチを出せ」
翔「うん!」
今度は薄めでパンチを撃つ翔。
啓介「お、いいぞ。少しずつでいい。目を開けたまま、打てるように、何度も練習だ」
翔「わかった!」
〇同(日にち経過)
パンチの練習をする翔。
それを見ている啓介。
まだ、薄目でしか打てない。
〇同(日にち経過)
パンチの練習をする翔。
それを見ている啓介。
今度は目を大きく開いたままパンチを打つ翔。
翔が振り返り、啓介を見る。
啓介が親指を立てる。
〇公園
翔と稔が向かい合っている。
翔の後ろには啓介と紬が、稔の後ろには浩平が立っている。
翔「今日こそ、お前をぶっ飛ばしてやる」
稔「ふん。こっちのセリフだ」
翔「僕は特訓してきたんだ」
稔「俺だって!」
翔「いくぞ! やあ!」
翔がパンチを繰り出す。
もちろん、目は開けたまあ。
啓介「よし、いいぞ!」
だが、稔はサッと避ける。
翔「え?」
稔「今度はこっちの番だ!」
啓介「やばい。翔には攻撃しか教えてなかった」
紬「ちょっと、どうするのよ!」
稔「やあああ!」
稔が拳を振り上げる。
そして、パンチを打つが、目を瞑っている。
翔「え?」
稔が目を瞑っているせいで、稔のパンチはあらぬ方向で、空を切る。
浩平「しまった! あいつには防御しか教えてなかった」
翔「へへ! 今度はこっちの番だ1」
翔がパンチを繰り出すが、稔がサッと避ける。
稔「今度はこっちだ!」
稔がパンチするが、あらぬ方向を打つ。
翔「やあ!」
稔「てや!」
交互にパンチを打つが、どっちも当たらない。
紬「……どうなの? あれ? 分かり合えてるの?」
啓介「……」
何度もお互いがパンチを打つが、当たらない。
やがて、二人とも疲れてへたり込む。
翔「はあ、はあ、はあ……」
稔「はあ、はあ、はあ……」
翔「……やるな」
稔「……お前こそ」
二人が立ち上がり、握手をする。
紬「あっ!」
啓介「ふふ。だから言っただろ。男の仲直りは拳で語り合うことだって」
紬「いや、一度も当たってないでしょ、拳」
啓介「……」
翔と稔が握手しながら、どこか満足そうな表情をしている。
終わり。