■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
和臣(かずおみ) 22歳
千沙都(ちさと) 17歳
父親 47歳
誠一(せいいち) 22歳
母親 25歳
■台本
和臣が4歳の頃。
母親「……和臣。千沙都をお願いね」
和臣「うん、わかった! 千沙都は僕がずっとずっと守るから」
母親「ありがとう。あのね、和臣。千沙都は……」
場面転換。
和臣が22歳になっている。
和臣(N)「思えば母さんの記憶はあのときのものしかない。千沙都を生んでから、すぐに死んでしまった。だから、俺が千沙都の親代わりとしてしっかりとしよう。そう決意した。千沙都は俺の、たった一人の妹なのだから」
場面転換。
キッチンで料理している和臣。
千沙都「おはよー、お兄ちゃん」
和臣「おう。今日はパンだから、適当に焼いてくれ」
千沙都「あいー。お兄ちゃんは何枚食べる?」
和臣「2枚」
千沙都「あいあい」
千沙都がトースターにパンを入れて、セットする。
千沙都「おベントーは?」
和臣「今できた。ほら」
千沙都「うげー。野菜、多くない?」
和臣「アホ。これでも大分、減らしてる」
千沙都「むう……」
和臣「嫌なら、自分で作れ」
千沙都「ごめんごめん。これからもお願いしますー」
和臣「ったく」
そこに父親が入って来る。
父親「おはよー。俺のベントーは?」
和臣「……ないよ」
父親「なんでっ!?」
和臣「オヤジ、いつも会社の人と外で食ってくんだろ?」
父親「あー、いや、そのときは晩飯で食べればいいし」
和臣「それじゃ食いすぎだっつーの。また、健康診断で引っかかるぞ」
父親「うう……。酷い。千沙都、なんか言ってやれ」
千沙都「お兄ちゃんが正しい」
父親「はあ……。酷い子供たちだ。父親を虐めて楽しいのか?」
和臣「別に虐めてねーって」
千沙都「そうそう。お父さんなんて、虐める価値もないんだから」
父親「もっと酷いっ!」
場面転換。
大学の学食内。
和臣がソバを食べている。
そこに誠一がやってくる。
誠一「おいおい。またかけそばだけか?」
和臣「うるさいな。別にいいだろ」
誠一「そんなんで、腹減らねーの?」
和臣「金無いから仕方ないだろ」
誠一「あん? バイト代入ったんじゃねーの?」
和臣「使う予定があるんだよ」
誠一「お前が高額のもの買うなんて珍しいな……ん? ちょっと待てよ。あー、わかった。もうすぐ、千沙都ちゃんの誕生日だもんな」
和臣「……なんで、お前が千沙都の誕生日、知ってるんだよ」
誠一「可愛いよなー。千沙都ちゃん。次で18歳だっけ? 成人じゃん!」
和臣「だから何だ? そもそも、お前には絶対に千沙都はやらんぞ。近づくことも許さん」
誠一「はー。相変わらず、兄バカだねえ。にしても、ホント、千沙都ちゃんとお前って似てねえよな。あんなに可愛い千沙都ちゃんと仏頂面のお前が兄妹なんて。世の中間違ってるぜ」
和臣「黙れ」
場面転換。
部屋で課題をしている和臣。
ドアがノックされる。
千沙都「お兄ちゃん、いる?」
和臣「おう」
ガチャリとドアが開いて、千沙都が入って来る。
千沙都「お父さんが、今日、遅くなるから先にご飯食べててくれって」
和臣「ああ。わかった。……って、もうこんな時間か。待ってろ。すぐ飯の準備するから」
千沙都「……」
和臣「どうした?」
千沙都「あーあ。お兄ちゃんが完璧だから、どんどん、私が堕落してくなーって」
和臣「そんなことないだろ」
千沙都「お兄ちゃんは勉強もできて、運動もできて、家事も完璧でしょ。なんだかなーって思って」
和臣「お前だって、いつも体育の成績はいいじゃねーか」
千沙都「……そこしかないじゃん。しかもそこって、女の子としてアピールできるとこじゃないし」
和臣「料理、教えてやろうか?」
千沙都「……お兄ちゃんができるのに、私ができるようになっても意味ないじゃん」
和臣「……意味ないってことはないだろ」
千沙都「このままじゃ、私、お嫁に行けないかも」
和臣「嫁って……早すぎるだろ」
千沙都「でも、もうすぐ18だよ?」
和臣「いや、だから早いって」
千沙都「そんなこと言って、私が行き遅れたらどうするの?」
和臣「……」
いきなり、千沙都が抱き着いてくる。
和臣「千沙都……?」
千沙都「もしさ、もし……私が行き遅れたら、お兄ちゃんが責任取ってくれる?」
和臣「ば、バカ言うな。俺たち……兄妹、だろ?」
千沙都「……うん、そうだね」
場面転換。
千沙都の部屋で和臣が勉強を教えている。
和臣「で、ここの値をかければ、答えが出るんだよ」
千沙都「なるほどー」
和臣「わかったか?」
千沙都「もう一回、お願い」
和臣「……」
千沙都「あー、もう。大学受験、やめようかなー」
和臣「何言ってるんだよ。やめてどうするんだ?」
千沙都「お兄ちゃんに養ってもらう」
和臣「アホ。俺だって、まだ学生だっつーの」
千沙都「じゃあ、お兄ちゃんが大学卒業するまでは私が働くから」
和臣「そういうことを言ってるんじゃねーよ」
千沙都「ねえ、お兄ちゃん」
和臣「ん?」
千沙都「なんで、兄妹って結婚できないんだろうね?」
和臣「法律でそう決まってるからな」
千沙都「もし……法律でそう決まってなかったら、お兄ちゃん、私と結婚してくれた?」
和臣「……そんな仮定の話、意味ないだろ」
千沙都「……そういう答え、ズルいよ」
和臣「……」
そのとき、玄関のドアが開く音がする。
父親「おーい! 帰ったぞー」
和臣「父さんだ」
千沙都「……あの声は酔っぱらってるね」
和臣「ったく」
場面転換。
和臣と千沙都が玄関に向かう。
和臣「また、飲んできたの?」
父親「ん? んー。まあ、ちょっとだけ。それより、ほら、これ買ってきたぞ」
千沙都「……ケーキ? なんで、ケーキ?」
父親「なんでって、そりゃ、お前。今日は千沙都の誕生日だろ」
和臣「……千沙都の誕生日は来週だよ」
父親「へ? あー、えっと、そうだっけ」
千沙都「……今月、誕生日って覚えててくれただけで上出来だよ」
場面転換。
リビング。
父親「いやー、そっかそっか。来週かー」
千沙都「相変わらずいい加減なんだから」
父親「千沙都、今年で何歳だっけ?」
千沙都「18」
父親「あー、そっか。もう18か。18と言えば、成人だっけか?」
千沙都「うん、まあ……そうだね」
父親「じゃあ、そろそろ言ってもいいかなぁ。いいよな? な?」
千沙都「何の話?」
父親「和臣―。ちょっと、来い」
和臣がやってくる。
和臣「なに?」
父親「これから重大発表をする」
千沙都「……どうせ、くだらないことでしょ?」
父親「実は父さんと千沙都は血が繋がっていない」
千沙都「……は?」
父親「千沙都は、母さんの連れ子だったんだよ」
和臣「……え?」
父親「でもな、これだけは覚えててくれ。たとえ、血が繋がっていなかったとしても、父さんは、千沙都の父……」
千沙都「そんなのどうでもいいから!」
父親「え? どうでもいい?」
千沙都「それより……その……じゃあ、私とお兄ちゃんって血が繋がってないの?」
父親「ま、まあ、そうなるな。でもな。これだけは覚えててくれ。家族と言うのは血の繋がりよりも……」
和臣「父さん、ちょっと黙ってて。今、頭の中を整理するから」
父親「……父さん、これから良いこと言おうとしたんだけどな」
千沙都「……お兄ちゃん。さっきの質問……答えてくれる?」
和臣「……えっと、まあ、その」
千沙都「……」
和臣「……もし、千沙都が行き遅れたら、な」
千沙都「……もう!」
和臣(N)「母さん。俺はこの先もずっと千沙都を守り続けようと思う。もしかしたら、妹としてじゃないかもしれないけど……」
終わり。