■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
リョウ
カイル
ミーナ
■台本
リョウ(N)「俺は昔から運がなかった。どんなに努力しても、どんなに準備を万端にしていても、その日の運の悪さに、全てが失敗に終わっていた。17歳という年齢でこの世を去ることになったのも、結局、運が悪かったからだ。だから、女神に異世界に転生できると言われた時、ステータスやスキルなんかは、全て運に振ったのだった」
場面転換。
魔物に追いかけられて、逃げる3人の足音。
カイル「うわああ! リョウ、助けてくれ!」
リョウ「何言ってんだ、カイル。魔物と戦うのは、戦士のお前の役目だろ!」
カイル「ミーナ! 魔法! 魔法を使ってくれ!」
ミーナ「はあ? あたし、回復系なんだけど!」
カイル「攻撃魔法だって使えるだろ!」
ミーナ「急に言われても、呪文、忘れちゃったわよ!」
カイル「かー、役に立たねー!」
ミーナ「あんたが言うな! なんでゴブリン一匹相手に逃げなきゃならないのよ!」
場面転換。
パチパチとたき火の音。
カイル「あー、疲れた」
ミーナ「ったく、さんざんだったわよ!」
リョウ「けど、まあ、お宝も手に入ったし、襲われたのも、この辺にしては弱い魔物だったし、ラッキーだったんじゃないか?」
カイル「まあ、確かにな」
ミーナ「けどさー、リョウと出会ってから、なんか運が向いてきたって感じよねー」
カイル「あー、それは俺も思った」
ミーナ「あんたには感謝してるわ。拾ってくれてありがとね」
カイル「俺も俺も。前のパーティーじゃ、お荷物って言われて捨てられてたからな」
ミーナ「それは今も変わらないけどね」
カイル「お前が言うな!」
ミーナ「なによ!」
カイル「なんだよ!」
リョウ「まあまあ。いいじゃん、上手くいってるんだからさ」
カイル「まーな。俺達、底辺パーティとしちゃ、上出来だよな」
ミーナ「そうよね」
リョウ「……」
リョウ(N)「確かに、2人が言うように、俺達は底辺パーティだ。そんな俺達が、まだ誰も見つけていないお宝を探し当てているという時点で、上出来と言っていい。けど、それは俺の強運があるからだろう。それは別にいい。お宝を独り占めしたいわけじゃないし、3人で旅をするのも楽しい。だけど、ずっと引っかかっていることがある。……それは、この2人を仲間にした経緯だ。ちょうど目の前で、パーティから捨てられていたカイルとミーナ。成り行きで仲間にしたのだけど、正直に言って、俺から見ても2人は才能があるとは言えない。……俺の強運があれば、もっとすごい仲間に巡り合えると思ったんだけどな……」
場面転換。
ミーナ「えーっと……福音に……選ばれし……神々の……。あー、もう! 覚えれない!」
カイル「なにやってんだ?」
ミーナ「……呪文、覚えてんのよ。この前、すぐに魔法、使えなかったからさ」
カイル「ふーん。これが魔法の呪文が載ってる古文書か」
ペラペラとめくる音。
カイル「福音に選ばれし神々の子らが天の御霊へと……」
ミーナ「ちょ、ちょっと! あんた、なんで読めるのよ!」
カイル「は? なんでって言われても……」
ミーナ「それ、古代文字よ」
カイル「あー、そうだったんだ。家に、こういう本がたくさんあってさ、暇つぶしでよく読んでたんだよ」
ミーナ「暇つぶしって……」
カイル「なあ、他にもこういう本あるか? ちょっと読んでみたい」
ミーナ「あるけど……読んでも面白くないと思うわよ」
カイル「そうか? 詩みたいで面白いけどな」
ミーナ「変わってるわね、あんた」
場面転換。
ゴゴゴと地鳴りの音。
リョウ「うわあ、地震だ! 落石に注意しろよ」
ミーナ「あ、あそこ! 洞窟があるわ」
カイル「よし、洞窟に逃げ込むぞ!」
3人が走り出す。
場面転換。
リョウ「はあ、はあ、はあ……。これで一安心かな」
ミーナ「……おさまったかな?」
カイル「じゃあ、出るか……」
そのとき、ドーンと岩が落ちる音。
カイル「うおっ! ビックリした! 何の音だ? っていうか、何も見えなくなったぞ!」
ミーナ「入り口が岩で塞がれたのかも」
リョウ「まさか、閉じ込められたのか?」
ミーナ「そうみたいね」
場面転換。
カンカンと剣で岩を叩く音。
カイル「くそ! 全然ダメだ!」
ミーナ「岩を剣で斬れるくらいなら、弱い魔物相手に逃げないからね」
リョウ「ミーナ、魔法でなんとかならないか?」
ミーナ「無理。呪文、忘れちゃったし」
リョウ「そ、そうか……」
カイル「これ、俺達、終わったということか?」
リョウ(N)「おかしい。強運の俺がこんなことになるなんて……。これから、何かの強運が発動するのか?」
ミーナ「……しょうがないなぁ。久しぶりに本気出すか」
カイル「何の話だ?」
ミーナ「ちょっと、離れてて。はあああああ!」
岩を殴るミーナ。
バコッという物凄い音がする。
カイル「お、おい! 岩を素手で殴るなんて、正気か?」
ミーナ「……さすがに無理かな?」
するとピシピシピシとヒビが入る音。
リョウ「へ?」
カイル「う、嘘だろ……」
全体にヒビが入り、轟音を立てて岩が砕ける。
カイル「……いやいや。素手で岩を砕くとかありえないだろ」
ミーナ「はは。意外とできるもんね。……って、痛っ!」
リョウ「大丈夫か、ミーナ。その右手……」
ミーナ「さすがに砕けちゃったかも。けど、まあ、あのまま閉じ込められたままになるよりかはマシでしょ」
カイル「ミーナ。ちょっと、手を出せ」
ミーナ「なによ?」
カイル「いいから」
ミーナ「はいはい」
カイル「神々の息吹により、森羅万象の全てを癒せ……」
パーっと光をイメージする音。
ミーナ「……へ? なんで、あんたが回復魔法を使えるのよ? しかも、さっきの呪文は上位魔法で、あたしが持ってる古文書には載ってなかったはずだけど」
カイル「やっぱり、回復魔法だったか。昔、家にあった古文書の内容、覚えててよかったぜ」
ミーナ「覚えてたって……何年前の話?」
カイル「10年以上前かな」
ミーナ「信じらんない。上級の魔術師でもそこまで覚えている人はいないし、ましてや一発で成功させるなんて」
カイル「はは。意外とできるもんだな」
リョウ「なあ、ミーナ」
ミーナ「なに?」
リョウ「なんで、ミーナは魔術師の職業を選んだんだ?」
ミーナ「え? だって、女の子って言ったら魔術師でしょ。格好いいし」
リョウ「カイル。お前はなんで、戦士を選んだんだ?」
カイル「え? 男と言えば戦士だろ。格好いいし」
リョウ「お前ら、ジョブチェンジしろよ」
カイル・ミーナ「あっ……」
リョウ(N)「この後、カイルは魔術師に、ミーナは戦士にジョブチェンジをした。それから、数年後。俺たちのパーティは魔王討伐を果たし、俺は伝説の勇者と言われるようになったのだった」
終わり。