女神の羽

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
魁人(かいと) 18歳
祐樹(ゆうき) 18歳
母親 43歳
男子生徒 小学1年生

■台本

ラグビーの試合。
グラウンドを走り抜ける魁人。

魁人「うおおおおおおおおお!」

ズサーっと倒れこむ魁人。

審判「トライ!」

同時に試合終了の笛が鳴る。
ワーッと歓声が上がる。

魁人「よし!」
祐樹「ナイス、魁人!」

場面展開。
魁人と祐樹が並んで歩いている。

祐樹「さすが魁人だな。これで3回戦突破だ」
魁人「次は強豪の麗江(れいこう)か……」
祐樹「この辺じゃ、ラグビーっていえば、麗江だからな」
魁人「ま、今のうちの勢いなら、いけるんじゃないか?」
祐樹「ああ。けど、それにはエースのお前にかかってるからな」
魁人「あんま、プレッシャーかけんなよ」
祐樹「けど、魁人はスゲーよな」
魁人「何がだ?」
祐樹「あの突進力だよ。才能ってやつだよな」
魁人「……」
祐樹「ん? すまん。気に障ったか?」
魁人「いや、そうじゃなくてさ。俺が、よくラグビーなんて激しい運動ができる上に、エースになんてなれたよなぁって思ってさ」
祐樹「どういうことだ?」
魁人「俺さ、実は小学校の頃はヒョロガリだったんだよ」
祐樹「うっそだぁ!」
魁人「マジ、マジ。あの頃はランドセルも重くてなぁ……」

場面転換。※回想。魁人が小学1年生。
魁人の家のリビング。

魁人「お母さん! 無理だよー」
母親「何言ってるの。みんなちゃんとランドセルを背負って学校に行くのよ。魁人だけできないわけないじゃない」
魁人「でも、重いよ。こんなのもって学校になんか行けない」
母親「うーん。困ったわね。……あ、そうだ! ねえ、魁人」
魁人「なに?」
母親「お母さんが、魔法をかけてあげようか?」
魁人「魔法? なにそれ?」
母親「このランドセルはね。女神の羽っていう名前なの」
魁人「……女神の羽?」
母親「そうよ。魔法を使うと、すっごく軽くなるの」
魁人「……ホントに?」
母親「じゃあ、やってあげるね」
魁人「う、うん……」
母親「いくよー。えい!」

ズンという重さを感じさせるような音。

魁人「うっ! 重いよ!」

そのあと、パッと手を放すような音。

母親「どう?」
魁人「あっ! ホントだ! 軽い!」
母親「でしょ?」
魁人「すごーい!」
母親「ふふふ」

場面転換。
小学校の教室内。

男子生徒「うそだー! 魔法のカバンなんてあるわけないじゃん」
魁人「ホントだって! すっごく軽くなるんだよ」
男子生徒「じゃあさ、明日は全部の教科書を入れてこいよ」
魁人「え? い、いいよ!」

場面転換。
魁人のリビング。

魁人「ねえ、お母さん。また魔法をかけて」
母親「はいはい。いいわよ。でも、あんまり無理しちゃだめだからね」
魁人「早く―」
母親「いくよー。えい!」

ズンという重さを感じさせるような音。

魁人「うっ! 重いよ!」

そのあと、パッと手を放すような音。

母親「どう?」
魁人「軽い! 軽いよ!」

場面転換。
教室内。
ガラガラとドアが開く。

魁人「はあ、はあ、はあ……。見て! これ、全部の教科書を持ってきたよ」
男子生徒「おおおー! すげー!」
魁人「へへへへ」
男子生徒「じゃあ、次はさー」

場面転換。1年後。
教室内。

男子生徒「魁人、魁人! ちょっと来てくれ」
魁人「なに?」
男子生徒「見ろよ、この辞典。重いだろ?」
魁人「……ホントだ。すごい重い」
男子生徒「さすがに、これはお前でも無理だろ? これもって学校に行ったり、帰ったりするのはさ」
魁人「そんなことないよ!」

場面転換。
リビング。

魁人「お母さん。また、魔法、お願い!」
母親「はいはい。……にしても、あんた、ずいぶん力ついてきたみたいね」
魁人「違うよ。魔法で軽くなってるからだよ」
母親「はいはい。じゃあ、いくよー。えい!」

ズンという重さを感じさせるような音。

魁人「うっ! 重いよ!」

そのあと、パッと手を放すような音。

母親「どう?」
魁人「うわー。軽い! これなら、明日も大丈夫だよ!」

場面転換。回想終わり。
道を歩いている魁人と祐樹。

魁人「……って、感じでさ。同級生の要求がドンドン大きくなっていったんだよ。俺も、調子に乗って、その要求を受けてたんだけど」
祐樹「じゃあ、魁人は小学校の頃から、ずーっと、重いものを背負って登下校してたってこと?」
魁人「そうそう。たぶん、そのときに足腰が強くなったんだと思う」
祐樹「でもさ、おばさん、どんな魔法を使ったんだ? 本当に魔法じゃないんだろ?」
魁人「ああ。あれはさー。あとで、母さんが聞いたんだけど。一回、思い切りランドセルに体重をかけるんだよ」
祐樹「ん? それだと、逆に重くなるだろ」
魁人「そうそう。だけどさ、重くなった後、体重をかけるのを止めたらどうなる?」
祐樹「そりゃ、軽くなる……あっ!」
魁人「そういうこと。軽くなる感覚がするから、それで魔法がかかったって思い込んでたんだよ」
祐樹「あははは。おばさんの作戦勝ちだな」
魁人「ああ。今考えると馬鹿馬鹿しいけど、思い込みって、それくらい重要なんだよな」
祐樹「じゃあ、4回戦も勝てるって思い込まないとな」
魁人「そうだな。俺たちなら、絶対優勝できる。そうだろ?」
祐樹「お前にそう言われると、そんな気がしてきたよ」
魁人「ははは。思い込みは大事だからな」

2人が笑いながら歩いていく。

終わり。

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