思い出の人

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
玲一(れいいち)
清風(きよか) 
清香(きよか)
清嘉(きよか)
友人

■台本

玲一(N)「それはいつの頃だったろうか。たぶん、小学校に入ってすぐだった頃だと思う。俺はそのときクラスに全然友達ができなくて、授業が終わったらすぐに帰っていた」

玲一が小学校1年生の頃。
ナレーションの玲一のみ、40歳の声。
真夏。セミの鳴く声。

玲一「……あれ? ここ、どこだろ?」

玲一(N)「その頃は帰るときに色々と探検していた。わざと遠回りしたり、反対方向に行ったり。今考えると、なんでそんな馬鹿なことをしていたのかと恥ずかしくなる。でも、その時は楽しかったんだ」

ジリジリと強い日差しが降り注ぐ。
そんな中、道を歩く玲一。

玲一「……やっぱり、戻ろっと」

立ち止まったときに、グニャという音。

玲一「あ、あれ……?」

ドサッと倒れる音。

場面転換。
清風の家。
ソファーに寝かされている玲一。

玲一「……あれ?」

ガバっと起きる玲一。

清風「あら、起きたのね」
玲一「えっと、僕……」
清風「熱中症かもしれないわね。家の前で倒れてたのよ」
玲一「……あ、そういえば、フラッとしたんだった」
清風「気を付けなきゃダメよ。私の家の前で死なれても困っちゃうわ」
玲一「ごめんなさい……」
清風「ふふ。冗談よ。でも、本当に気を付けなさい。私が見つけなかったら、危なかったのよ」
玲一「はい……」
清風「はい、これで反省は終わり。それじゃ、おやつタイムにしましょうか」

玲一(N)「その後、俺はその女の人……清風さんにクッキーとオレンジジュースを出して貰った。それがすごく美味しかったのを、今でも覚えている」

清風「ふふ。気にし過ぎ。友達なんて、一緒にいれば自然とできるものよ」
玲一「そうかなぁ……」
清風「そうよ。思い切って、やってみて」
玲一「うーん」
清風「まあ、いきなり言われても難しいわよね」

玲一(N)「この後、俺は清風さんの家に通うことになった。優しく、少し不思議な感じがした清風さんに、俺は夢中になっていた。毎日、清風さんの家に通うようになった。それから3ヶ月が経った頃、父親が転勤になり、それに家族でついて行くことになり、俺は強制的に清風さんとお別れすることになったのだ」

場面転換。
時間が経ち、玲一が高校1年生になっている。
※ナレーションの玲一は40歳の声。
友達と歩いている玲一。

玲一「……で、ここを曲がれば、大通りに出るんだよ」
友達「おお! すげー近道じゃん。よく、こんな道、知ってるな」
玲一「昔、この辺に住んでたんだよ。小学校の頃だったかな」
友達「へー。じゃあ、高校でこの町に戻ってきたってことか」
玲一「そうそう」
友達「それって、この辺に戻ってきたいからわざわざこの高校を選んだとか?」
玲一「いや、ホント、たまたま」
友達「そうなんだ。まあ、小学校なら、そこまで思い出とかはあんまないか」
玲一「当時の友達も連絡取ってないからな。……てか、友達いなかったわ」
友達「なんだよ。小学の頃はボッチだったのか?」
玲一「いや……仲いい人はいたんだよ」
友達「へー。その人とは連絡取ってみたのか?」
玲一「んー。連絡先は知らないからなぁ。てか、10年くらい前だからな。まだ、そこに住んでるかわからんし」
友達「そっか。まあ、あんまり昔のことに気を取られるのもなんだしな。せっかく高校に入ったんだから、高校で友達作った方がいいよな」
玲一「ああ。そうだな……」

玲一(N)「そう。この会話まで、俺は清風さんのことを忘れていた。あんなに夢中で通っていたのに。……そして、たぶん、俺の初恋の人だった。だから、俺はふと気になって、清風さんに会いたいと思ったんだ」

場面転換。
道を歩く玲一。

玲一「……たしか、この辺だと思ったんだけどな……あっ」

玲一(N)「見つけた。その頃の記憶が一気に戻ってくる」

玲一「……まだ、いるのかな?」

インターフォンを押す玲一。
するとガチャリとドアが開く。

清香「はーい」
玲一「あ、あの、覚えてますか? 俺、その玲一です」
清香「玲一? ……ああ、あの、玲一くん!?」
玲一「は、はい。ご無沙汰してます」
清香「……ふふ。懐かしいわね。上がっていく?」
玲一「え? あ、はい……」

場面転換。

玲一(N)「全く変わりのない姿だった。俺の初恋の人。あのときの記憶のまま、目の前に座っている。俺はしゃべった。あのときのこと。引っ越した後のこと。……そして、あなたに会いたくて、この高校に入ったと、嘘を言ったこと」

場面転換。
玄関先。

清香「……それじゃね」
玲一「あの……また来ていいですか?」
清香「うん。いいわよ」
玲一「また来ます」

場面転換。

玲一(N)「その後、俺は清香さんの家に通った。でも、あるとき、清香さんが高校生活の方を満喫した方がいいと言って、やんわりと家に行くことを窘められた。確かに、ずっと清香さんの家に通っていれば、俺の高校生活は違うものになっていただろう」

場面転換。
玲一が40歳になっている。
家の前で立ち止まる。

玲一「……あれから20年か。さすがにもう住んでないよな」

そのとき、ガチャリとドアが開く。

玲一「……え?」

玲一(N)「驚いた。家から出てきたのは、あのときと全く同じ姿だった」

清嘉「……どうかしましたか?」
玲一「あー、いえ、その……俺のこと、覚えてますか?」
清嘉「……え?」
玲一「玲一です。小学校の頃と、高校の頃に……」
清嘉「……ああ! 玲一くん!」
玲一「お、覚えてくれてたんですね」
清嘉「……ふふ。懐かしいわね」

玲一(N)「それから家に上げてもらい、俺は色々と話した。懐かしくて、嬉しくて。色々と。そして、俺はあることに気づいた」

玲一「あ、あの……」
清嘉「なに?」
玲一「……どうして、きよかさんは年を取らないんですか?」
清嘉「ふふ。どうしてだと思う?」

玲一(N)「妖艶な笑み。俺の背筋が一気に冷えた」

玲一「お、俺、もう帰ります」
清嘉「あら、残念」

玲一(N)「俺は慌てて、きよかさんの家を出て、慌て帰った」

場面転換。
電話のコール音。

清嘉「あ、お母さん? あのね、来たよ。玲一さん。……うん。うん。ふふ。私のことおばあちゃんだって勘違いしてたみたいだよ。おばさんのときと同じように」

終わり。

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