スパイの心得
- 2023.08.04
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
リアム
ヘンリー
リンダ
おじいさん
■台本
一室。
リアムがヘンリーに対して講義をしている。
リアム「ヘンリー。一流のスパイになるために、一番大切なものはなんだと思う?」
ヘンリー「えーっと……。どんな困難なミッションもクリアすること……ですかね」
リアム「ふむ。まあ、間違いではないな。では、2番目に必要なことはなんだと思う?」
ヘンリー「2番目? そうですね……。んー。あっ! 異性を虜にするスキル! ……ですかね?」
リアム「ふふ。007に影響を受け過ぎだ」
ヘンリー「えへへ。すみません」
リアム「だが、まあ、それも実は重要なスキルだな。……よし、一つ、面白い話をしてやろう。あれは、俺がまだ新人だったときのことだ……」
回想。
公園のベンチに座っているリアム。
そこにおじいさんが歩いてきて、横に座る。
おじいさん「隣、いいかね?」
リアム「ええ、どうぞ」
おじいさん「よっこらしょ」
おじいさんが椅子に座る。
おじいさん「この公園にはよく来るのかね?」
リアム「いえ、たまたま通りかかって、休んでるだけですよ」
おじいさん「そうかそうか。なら、あそこで遊んでいるちび助には注意するんだな」
リアム「青い帽子の?」
おじいさん「その隣の緑の帽子だ」
リアム「悪さでもするんですか?」
おじいさん「公園の水飲みの水を出しっぱなしにするんだよ」
リアム「それはいけませんね」
おじいさん「いつも決まって、この時間だよ。まったく、何を考えているんだか」
リアム「今度、見つけたら注意しておきますよ」
おじいさん「ほっほ。滅多には来ないんだろう?」
リアム「そうでした」
おじいさん「さてと、そろそろ行こうかな」
リアム「気を付けてください」
おじいさん「お主もな。雨が降るかもしれんぞ」
リアム「そうですね」
おじいさんが行ってしまう。
リアム「……はあ。ショボい任務だな」
回想終わり。
ヘンリー「ちょっと待ってください。今のの、どこが任務の内容だったんですか?」
リアム「ああ、これはちょっとした暗号だよ。今は関係ないから、進めるぞ」
ヘンリー「は、はい……」
リアム「俺がそのとき受けた任務というのが、ある書店に、仲間が置いたデータ情報を持って帰るというものだった」
ヘンリー「書店に、データ、ですか?」
リアム「正確に言うと、データが入ったUSBのパスだな」
ヘンリー「……なんで、そんな遠回しなことを?」
リアム「スパイなんてそんなものだよ。何が起こるかわからないからな。注意するに越したことはない」
ヘンリー「なるほどですね」
リアム「俺は任務の内容通り、その書店に向かった……」
回想。
自動ドアが開き、書店の中に入るリアム。
歩いて、棚を見て回る。
リアム「えーっと、お、これだな……」
スッと手を伸ばす。
すると、他の人の手も伸びてくる。
リンダ「あっ!」
リアム「あっ!」
回想終わり。
リアム「なんと、任務で取って来るように言われた本を、他の女も買おうとしてバッティングしたんだ」
ヘンリー「ということは、あれですか? 同じ本を手に取ろうとして手が当たったとか、そういう感じですか?」
リアム「ああ。まさしく、そんな感じだ」
ヘンリー「おおー。これは恋の予感ですね!」
リアム「……俺はスパイだぞ?」
ヘンリー「あ、そうでした。ということは、ここで先生の異性を虜にする技が発動するというわけですね」
リアム「話を戻そう」
回想
リアム「悪いな。俺の方が先だ」
リンダ「……私の方が先ですわよ」
リアム「だとしても、譲ってくれないか? どうしても欲しいんだ」
リンダ「私だって、5軒も回ってやっと見つけた本なんですよ。譲れません」
リアム「うるさい。俺が買うんだ」
リンダ「はあ?」
回想終わり。
ヘンリー「まったく、ムードがないですね」
リアム「話の腰を折るんじゃない。ここからスパイとしての業の見せ所だ」
ヘンリー「ああ! 最初の印象はあえて悪くして、ギャップで落とすわけですね」
回想。
リアム(N)「悪いが眠ってもらう」
シュッと手刀を繰り出すリアム。
回想終わり。
ヘンリー「えええー! そっちですか! 強引ですよ!」
リアム「黙れ。一発で仕留めるにはかなりの高いスキルが必要なんだぞ」
ヘンリー「それで眠らせて、ゲットしたんですか?」
リアム「それが……その女。躱したんだ」
ヘンリー「躱した……ですか?」
回想。
バサバサっと本が落ちる音。
リンダ「あ、本が……」
リンダが屈んだことで、リアムの手刀が空振りに終わる。
リアム(N)「躱しただと!」
リンダ「あれ? どうかしました?」
リアム「いや……別に」
リアム(N)「仕方ない。痺れ薬を使うか」
回想終わり。
ヘンリー「いやいや。一般人にやり過ぎですよ」
リアム「まあ、俺も当時はそう思ったんだがな。だが、その考えは甘かった。俺は見えないほどの細い針の先端に痺れ薬を塗ったものを、相手の女の手に刺したんだ」
回想。
リンダ「……」
リアム「じゃあ、この本は俺が貰っていく」
リンダ「何言ってるのよ。ダメに決まってるでしょ」
リアムの腕を掴むリンダ。
リアム「……お前、なんとないのか?」
リンダ「このくらいの薬、プロなら、余裕で耐えられるわよ」
リアム「貴様、まさか……」
リンダ「やっぱり、同業者ってわけね」
回想終わり。
ヘンリー「ええ? 相手もスパイだったってことですか?」
リアム「ああ。そうだ。大体、あんなマニアックな本を5軒も回って欲しがる奴なんていないからな」
ヘンリー「まあ、人の趣味はそれぞれだと思いますけど」
回想。
リアム「なら、容赦はいらないというわけだ」
リンダ「そうね」
その場で格闘が繰り広げられる。
回想終わり。
ヘンリー「書店内ですよね? 無茶しますね」
リアム「もちろん、他の客にわからないように、地味な感じの戦いだ」
ヘンリー「地味って言われても……」
回想。
バトルが繰り広げられるが、手が止まる。
リアム「はあ、はあ、はあ……」
リンダ「はあ、はあ、はあ、やるわね」
リアム「お前こそな」
リンダ「でも、私の勝ちよ」
リアム「なんだと? ……あっ! いつの間に!?」
リンダ「じゃあ、この本は貰っていくわ!」
リアム「待て!」
リンダ「は、放しなさい!」
リアム「放すか!」
ビリビリと本が破れる音。
回想終わり。
リアム「俺はなんとか、半分だけ本を持って帰った。苦肉の策だったがな」
ヘンリー「それで、無事に任務達成となったんですか?」
リアム「……それは」
回想。
おじいさん「……よく半分でも持って帰ってきたな」
リアム「はい」
おじいさん「だが……」
リアム「……」
おじいさん「これ、任務の本じゃないぞ」
リアム「え?」
回想終わり。
リアム「つまり、最初に言った、2番目に重要なこと。それは……情報の正確さだ」
ヘンリー「そ、そうですか……」
終わり。