横顔
- 2023.08.17
- 映像系(10分~30分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
実写ドラマ・漫画原作、現代、コメディ
■キャスト
奏斗(かなと)
明日架(あすか)
耕三(こうぞう)
浩太(こうた)
■台本
〇画廊
多くの絵が飾られている。
客入りはそこまで多くない。
〇絵画
女の子(6)の横顔の絵のアップ。
〇画廊
女の子の絵の前で、呆然としている奏斗(6)。
奏斗(N)「僕はこの日、恋をした」
〇秋山書店・外観
個人でやっている、古そうな書店。
自動ドアに『秋田書店』の文字が貼られている。
そこに誰かが走って来て、自動ドアが開く。
〇同・店内
奏斗(16)が制服の状態で入って来る。
そのままレジへと向かう。
レジでは耕三(53)が雑誌を読んでいる。
そこに駆け寄ってくる奏斗。
奏斗「おじさん! 現代絵画カタログ!」
耕三「ああ、今月のね」
奏斗「そう」
奏斗が金額ピッタリのお金をレジに置く。
同時に耕三が下に取り置きしていた本を出す。
耕三「はい」
奏斗「ありがと!」
すぐに手に取り開く奏斗。
耕三は特にお金を確認せずにレジに入れていく。
奏斗がカタログ本をペラペラとめくる。
ページに女性(16)の横顔の絵が載っているところで手を止める。
奏斗「やっぱり! そろそろ新作、出ると思ったんだよね」
耕三「奏斗くんは、相変わらず、開山の絵が好きなんだねぇ」
だが、奏斗は夢中になって聞いていない。
耕三「はあ……」
奏斗「え? おじさん、なんか言った?」
耕三「いや。なんにも。……それより、奏斗くんは絵を描かないのかい?」
奏斗「いやあ、俺は見る専門だからさ」
耕三「そのわりには開山の絵しか興味なさそうだけど」
奏斗「そ、そんなことないよ。色々な作家の絵も見るよ」
耕三「例えば?」
奏斗「……おっと、もうこんな時間だ。じゃあね、おじさん」
奏斗が走って、店を出て行く。
〇道路
カタログを眺めながら歩いている奏斗。
開いているのは横顔の女の子の絵が載っているページ。
奏斗「……」
明日架「奏斗!」
奏斗「うわあっ!」
慌てて本を閉じる奏斗。
後ろに立っているのは明日架(17)。
明日架は左の目から頬にかけて火傷の痕があり、右目には眼帯をしている。
明日架「何見てたの?」
奏斗「あー、いや、なんでもない」
明日架がチラリと奏斗が持っている本の表紙を見る。
明日架「あ、現代絵画カタログ」
奏斗「え? 明日架、知ってんの?」
明日架「あー、うん。時々、買うよ」
奏斗「へー。明日架は絵に興味あるのか?」
明日架「まあ、ちょっとだけ、ね」
奏斗「けど、描いたりはしてないよな?」
明日架「ああ、私はモ……見る専門だから」
奏斗「ふーん。どの作家の絵が好きなんだ?」
明日架「おじ……じゃくて、えーっと、開山……先生のかな」
奏斗「えー! マジか! 明日架も開山先生の絵、好きなんだな!」
明日架「も、ってことは奏斗も?」
奏斗「ああ。子供の頃からファンなんだよ」
明日架「へー。随分とマニアックだね」
奏斗「そうなのか?」
明日架「あんまり売れてないみたいだよ。他に仕事してるし」
奏斗「そうなんだ?」
明日架「奏斗はどこで開山先生のこと、知ったの? あんまり個展とかも開かないのに」
奏斗「子供の頃さ、母さんに連れられて、画廊……っていうのか? そういう場所に連れて行かれたんだ」
明日架「へー。じゃあ、そこで見たってわけね」
奏斗「……一目惚れだったんだよな」
明日架「え?」
奏斗「あ! いや、なんでもない!」
明日架「ねえ、もしかして……横顔の子のこと?」
奏斗「うっ! ……まあ、開山先生のこと知ってるなら、当然、その絵も知ってるよな」
明日架「まあ……」
奏斗「実はさ、俺……この子のこと、好きなんだよ……」
本を開いて、横顔の画を見せる奏斗。
明日架「え?」
明日架が顔を真っ赤にさせる。
奏斗「……笑っちゃうよな。絵の中の女の子に惚れるなんて」
明日架「そ、そんなことないんじゃない?」
奏斗「そうか? 俺が他の奴からそんなこと言われたら、変な奴だなって思うけどな」
明日架「奏斗って、結構、周りから変な人って見られるよね?」
奏斗「え? そうなのか?」
明日架「……だって、私とも仲良くしてくれるでしょ?」
奏斗「へ? なんで、明日架と仲良くすることが変なんだよ?」
明日架「ほら、これ……」
明日架が自分の火傷の痕を指差す。
奏斗「……それがなんだよ?」
明日架「見てると嫌な気分にならない?」
奏斗「別に」
明日架「……そういうところかな。奏斗が変な人って言われるの」
奏斗「……そうなのか」
明日架「でも、そのおかげで、私は救われてるんだけどね」
奏斗「救う? 俺はなんもしてないぞ」
明日架「ねえ、奏斗。もしさ、もし、その横顔の女の子に会えたらどうする?」
奏斗「は? 会えるわけねーじゃん」
明日架「もしも、だよ」
奏斗「んー。とりあえず、告白するかな」
明日架「……好きって?」
奏斗「そう」
明日架「普通、会ったばっかりの子に告白する?」
奏斗「いいじゃねーか。もう一回会えるかわからないんだから」
明日架「あー、そっか」
奏斗「だろ? なら、気持ちだけでも伝えるのがベストだと思うけどな」
明日架「うん。そうだね……」
奏斗「まあ、フラれることは確実だけどな」
明日架「うーん。そうでもないと思うよ」
奏斗「は?」
明日架「その子もさ、きっと、奏斗のこと、好きになると思う」
奏斗「なんで、そんなこと、わかるんだよ?」
明日架「んー。何となく?」
奏斗「なんだそりゃ?」
明日架が腕時計を見る。
明日架「あ、いけない。遅刻しちゃう。私、そろそろ行くね。バイバイ」
奏斗「お、おう……」
明日架が走っていく。
〇アトリエ
明日架がインターフォンを押す。
ドアが開き、浩太(64)が顔を出す。
明日架「おじさん、こんにちは」
浩太「お、来たな。入ってくれ」
明日架「うん」
〇部屋の中
画の準備をしている浩太。
明日架が眼帯を外す。
そして、右側を浩太に向けて座る。
浩太がキャンパスに絵を描き始める。
壁には横を向いた女の子の絵がたくさん置いてある。
絵には開山のサインが書かれている。
モデルになっている明日架の頬はほんのり赤い。
浩太「なんか、いいことあったのか?」
明日架「え? あー、うん。ちょっとね」
浩太「うん。いい表情だ」
浩太が絵を描いていく。
終わり。