ループ
- 2023.08.18
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
倫太郎(りんたろう) 大学2年生
優奈(ゆな) 大学2年生
占い師
■台本
車のブレーキ音。
ドンという何かがぶつかった音。
女の人「ごめん……ね」
場面転換。
ベッドで寝ている倫太郎がガバっと起き上がる。
倫太郎「うわっ!」
携帯のアラームが鳴っている。
倫太郎「……変な夢だな」
場面転換。
大学の教室。
倫太郎「……」
優奈「おはよー、倫太郎」
倫太郎「ああ、優奈。おはよう」
優奈「あれ? なんか、テンション低いね。どうしたの?」
倫太郎「ん? んー。なんか、変な夢見てさ」
優奈「変な夢? どんなの?」
倫太郎「それが……よくわかんないんだけどさ」
優奈「なにそれ?」
倫太郎「いや、俺もそう思うんだけどさ。……なんか凄い気になっちゃって」
優奈「でも、夢でしょ?」
倫太郎「まあ、そうなんだけど」
優奈「気にしてもしょうがなくない?」
倫太郎「……」
優奈「それより、夏休み、どこ行く?」
倫太郎「んー。結構、バイト入れちゃったからな」
優奈「ええー! なにそれ! 倫太郎は彼女よりもバイトを取るっていうの?」
倫太郎「違うって。お前のためにバイトしてんの」
優奈「私のため?」
倫太郎「ほら、前に言ってた、リゾート地。予約取れたからさ。2人分」
優奈「倫太郎! 大好き!」
ガバっと倫太郎に抱き着く優奈。
場面転換。
街中。
電話をしながら歩く倫太郎。
倫太郎「うん。うん。じゃあ、また明日。バイト頑張れよ。……わかってるって。メールする。じゃあな」
ピッと通話ボタンを押す。
倫太郎「……大学であんなに話したのに。ん?」
足を止める倫太郎。
倫太郎「……未来の館?」
場面転換。
未来の館内。小さな部屋。
占い師「次の方、どうぞ」
倫太郎「はい……」
倫太郎が占い師の向かいに座る。
占い師「何か心配事があるみたいですね」
倫太郎「え?」
占い師「まあ、未来の館、なんて場所に来る人なんて、みんな心配事があるからでしょうけど」
倫太郎「そ、そうですよね」
占い師「とはいえ、嫌な予感というのは本能的なものです。当たることは多いんですよ。占いよりも遥かに」
倫太郎「え?」
占い師「ふふ。占い師が言うことじゃないですよね」
倫太郎「は、はあ……」
占い師「それで、どんな夢だったんですか?」
倫太郎「え? あ、はい。それが、よくわからないんですけど……。車の急ブレーキ音が響いた後、何かがぶつかる音がして……」
占い師「なるほど。その後に女性の声がしたんですね」
倫太郎「はい……。その声はどこかで聞いたことあるような気がして……」
占い師「……倫太郎さん」
倫太郎「はい」
占い師「もし、何かがあって、やり直したいと思ったら、もう一度、ここに来てください」
倫太郎「え? あ……わかりました」
場面転換。
街中。
倫太郎と優奈が並んで歩いている。
優奈「あははは。何それ。嘘くさーい」
倫太郎「だよな。って、そろそろお腹減ったな。なあ、この前出来たラーメン屋にいかね?」
優奈「え? あ、私、今日はハンバーガーがいいな」
倫太郎「えー。この前もハンバーガーだっただろ」
優奈「そ、そうだっけ? じゃあ、パスタは?」
倫太郎「ラーメン屋はここから近いんだよ」
優奈「今日は、ラーメンって気分じゃないんだよ」
倫太郎「いや、俺は、ラーメンの腹になっちまった。こっちに……」
優奈「倫太郎、ダメ、待って!」
倫太郎「え? なんだよ……」
そのとき、車が凄い勢いで突っ込んでくる。
倫太郎「うわああ!」
優奈「倫太郎!」
車のブレーキ音。
ドンという何かがぶつかった音。
周りから悲鳴が上がる。
倫太郎「う、うう……」
優奈「倫……太郎……。怪我、ない?」
倫太郎「優奈! おい、優奈!」
優奈「あはは……。ダメ……だった」
倫太郎「優奈! しっかりしろ! 優奈!」
優奈「ごめん……ね」
倫太郎「なにがだよ!」
優奈「……倫太郎は……生きて……ね」
倫太郎「優奈! 優奈――――!」
倫太郎(N)「優奈は帰らぬ人となった。相手は飲酒運転だったそうだ。世間ではそのことが話題になり、ニュースで取り上げられていた。だけど、俺にはそんなことは関係ない。とにかく、優奈を返してほしかった。優奈が死んでからは何も考えられない日々を過ごした。だが、俺はあの言葉を思い出した」
場面転換。
未来の館。
占い師「やはり来ましたね」
倫太郎「やり直したいなら、来いって言ってましたよね?」
占い師「……事故の日をやり直したいというんですね?」
倫太郎「はい」
占い師「……わかりました。ただ、その前に一つだけ言わせてください」
倫太郎「なんですか?」
占い師「彼女はあなたの選択を喜ばないかもしれませんよ? 彼女はあなたが生きることを望んでいるんです」
倫太郎「……たとえ、そうだったとしても、俺は優奈に死んでほしくないんだ」
占い師「……わかりました。では、あの日に戻しましょう……」
場面転換。
倫太郎と優奈が歩いている。
倫太郎「あれ?」
優奈「ん? どうしたの?」
倫太郎「優奈……?」
優奈「なーに? 泣きそうな顔して」
倫太郎「お、俺……」
そのとき、物凄い勢いで車が突っ込んでくる。
優奈「きゃあああ!」
倫太郎「優奈!」
車のブレーキ音。
ドンという何かがぶつかった音。
周りから悲鳴が上がる。
優奈「う、うう……」
倫太郎「優奈……怪我、ないか?」
優奈「倫太郎……? 倫太郎!」
倫太郎「がはっ!」
優奈「いや……いやだよ! 倫太郎……」
倫太郎「優奈……。これでいいんだ」
優奈「え?」
倫太郎「……お前は、ちゃんと生きて……くれ」
優奈「倫太郎! 倫太郎!」
倫太郎「優奈……。さよ……なら」
優奈「いやああああ!」
倫太郎(N)「俺は優奈を助けることができた。それだけで、満足だ。優奈だけは、生きて幸せになってほしい……」
場面転換。
ベッドで寝ている倫太郎がガバっと起き上がる。
倫太郎「うわっ!」
携帯のアラームが鳴っている。
倫太郎「……変な夢だな」
終わり。