商売の心得
- 2023.09.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
エイデン
マシュー
ディラン
トーマ
■台本
エイデン「なあ、マシュー。商売人に一番重要なものはなんだと思う?」
マシュー「んー。誠実さ?」
エイデン「あはははは。そうだなぁ。まあ、それも重要なこともある。だが、逆に誠実さが仇にときがあるんだぞ」
マシュー「そうなの?」
エイデン「世の中、みんな、マシューのように良い人間ばかりならいいんだがなぁ。残念ながら、ズルい人間も多いんだ」
マシュー「ズルい人間?」
エイデン「実はズルい人間の方が、お金儲けが上手かったりすんだ。本当は価値がないものを、凄い物だって言って、高いお金で売るって方法だな」
マシュー「そんなのズルいよ!」
エイデン「だろ? でも、商売人には、そういう人間が多かったりするんだ。だから、マシューはちゃんと気を付けないといけないぞ」
マシュー「うん。わかった」
エイデン「それで、話は戻るが、商売人に一番大切なものは……」
マシュー「大切なものは?」
エイデン「人を見る目だ」
マシュー「ん? 目が良いってこと?」
エイデン「あー、違う違う。目の良さは関係ない。じっくり、相手の表情や目を見るんだ」
マシュー「目?」
エイデン「ああ。人間は目と表情に出やすいんだ。相手を騙そうとしているやつなんか、俺にしてみれば、一発でわかる」
マシュー「うわー、お父さん、すごい」
エイデン「ははは。まあ、マシューもちゃんと俺の仕事を見てれば、見につくさ」
マシュー「うん!」
その時、ドアが開く音がする。
ディラン「やあ、この町で一番の目利きができるエイデンっていうのはあなたかい?」
エイデン「いらっしゃい。行商人だね? いいよ。どんな物でも、値段をつけるっていうのがうちのモットーさ」
ディラン「それは頼もしい。実は旅の途中で珍しい物をたくさん見つけたんだ。見てくれるかい?」
エイデン(N)「……こいつ、笑顔が胡散臭いな。騙そうとしているのがバレバレだ」
エイデン「あいよ、見せてくれ」
ディラン「じゃあ、さっそく……」
ドン、ドン、ドンとアイテムをテーブルの上に置くディラン。
ディラン「まずはこれ。魔女の涙と呼ばれる、輝石だよ」
エイデン「……」
エイデン(N)「……さすがに最初は様子見だろうな。魔女の涙なんてものは聞いたことがないが、おそらく、そこそこの物だろう。こいつの目もさっきとは変わって、若干、真面目な目になったし」
エイデン「ほう。まあ、なかなかのものだな。これなら……450Gってところか」
ディラン「ええ? 450? 700は欲しいところだけど」
エイデン「なら、うちじゃ買い取れないな」
ディラン「へー……」
エイデン(N)「やっぱり。様子見で、俺の目利きを判断したな」
ディラン「じゃあ、450でいいよ。次にこれ。ゴールドドラゴンの牙だよ。しかも、右上の犬歯だ」
エイデン「右上? 嘘だろう? 右上は一番最初に抜け落ちる箇所だ」
ディラン「だから、これは本当にお宝だと思うよ」
エイデン「……」
エイデン(N)「胡散臭い目が復活した。これは俺を騙そうとしている。ふん。バレバレだ」
エイデン「ははは。じゃあ、これは1Gだ」
ディラン「……は?」
エイデン「これはゴールドドラゴンのものじゃない。そうだろ?」
ディラン「……」
エイデン「とにかく、うちじゃ高値じゃ買い取らない。持って帰った方がいいな」
ディラン「……まさか、ここまでの目利きができるとはね。わかったよ。じゃあ、こっからは1商人として、本気で取引していこう」
エイデン(N)「目と表情が本気の物になった。こっからは、もう騙しはしてこないだろうな。これで安心して商売ができそうだ」
エイデン「ああ。それが賢明だ」
ディラン「次は……」
場面転換。
エイデン「毎度」
ディラン「ありがとう。いい売買だった」
ドアを開ける音。
ディランが店を出て歩き始める。
そこにトーマが走り寄って来る。
トーマ「お父さん、どうだった?」
ディラン「売れたよ。1つを除いてぜーんぶね」
トーマ「うわあ、凄い! その辺に落ちてたものを売るなんて、やっぱり、お父さんは凄いや」
ディラン「あははは。ま、本物のゴールドドラゴンの牙は、もっと大きな町で売ることにしようか」
トーマ「ねえ、お父さん。どうやったら、お父さんみたいに、ガラクタを高く売れるようになるの?」
ディラン「いいか、トーマ。商売人に一番重要なものは人を見る目だ」
トーマ「人を見る目?」
ディラン「そう。相手は騙せそうか、騙せそうにないか、見極めることが一番重要なんだ」
トーマ「じゃあ、今回は騙せる人だったの?」
ディラン「トーマ。一番騙せる人間っていうのはどんな人だと思う?」
トーマ「んー。頭が悪い人?」
ディラン「あはははは。まあ、それもあるけど、実は頭が悪い人は結構、慎重だったりすることが多い。良い物も悪い物もなかなか買ってくれなかったりするんだよ」
トーマ「じゃあ、どんな人なの?」
ディラン「自信がある人だね。自分は騙されないと思っている人ほど、騙しやすいんだ」
トーマ「ええ!? そうなの?」
ディラン「ああ。そういう人は、まず、こっちの目や表情をじっくり見てくる。物じゃなくて、人を見るんだ。逆に言うと、それは物の目利きに自信がないってことなんだよ」
トーマ「へー」
ディラン「で、そういう相手には、わざと胡散臭い表情をする。すると、あっちは警戒するだろ?」
トーマ「うん。そうだね」
ディラン「で、嘘をついて、わざと見破らせるんだ。そうすれば、相手はさらに自信を持つ。そうすれば、もう自分が騙されるなんてことは思わなくなる。そうすれば、もう、騙し放題だよ」
トーマ「うわー、そうなんだ?」
ディラン「トーマは騙される側にならないように、目利きの経験をしっかりするんだよ」
トーマ「うん、わかった!」
ディランとトーマが並んで歩いていく。
終わり。