お父さんの笑顔
- 2023.10.05
- 映像系(10分~30分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ドラマ・漫画原作、現代、コメディ
■キャスト
恵那(えな)
京助(きょうすけ)
佳奈美(かなみ)
啓太(けいた)
父親
■台本
〇恵那の記憶の中
真っ暗な中、声だけが聞こえる。
※口元だけ写すでも可。その場合は笑顔。
父親「恵那。……これがメリーゴーランドだよ」
〇遊園地
大勢の子供たちが乗っている中、恵那(19)がメリーゴーランドに乗っている。
恵那「……」
メリーゴーランドの中から外を見渡す。
子供たちの親たちが子供に手を振っている。
ふと、京助(19)が恵那に対して手を振っているのが見える。
恵那「(顔をしかめて)……」
〇同
園内を歩いている恵那と京助。
そして、京助は佳奈美(5)と啓太(7)と手を繋いでいる。
京助「どうだった?」
恵那「ダメ。ここじゃない」
京助「そっか……」
恵那が立ち止まり、カバンから地図とペンを出す。
その地図には色々なところに赤文字で×が書かれている。
恵那「ここも違う、と」
地図に×印を書く。
京助「もう、大体、回ったんじゃないか?」
恵那「……うーん」
地図をじっと見る恵那。
京助「もう、諦……」
佳奈美「ねえ、恵那お姉ちゃん! あれ、行きたい」
佳奈美が指差したのはミラーハウス(※他のアトラクションでも可)。
恵那「うん。いいよ。啓太くんも一緒に行っておいで」
恵那が自分のチケットを佳奈美に渡す。
佳奈美「ありがとー!」
京助「おい、いいのか?」
恵那「いいのよ。もう乗るものないし。……じゃあ、私、帰るわ。あとは兄弟水入らずで楽しんでおいで」
手を振りながら出口に向かって歩いていく恵那。
京助「……」
佳奈美「お兄ちゃん、行こーよ」
京助「ああ、そうだな」
京助が佳奈美と啓太を連れて歩き出す。
〇ファミレス
一人テーブルでコーヒーを飲む恵那。
そこに、京助がやってくる。
京助「お待たせ」
向かい側に座る京助。
恵那「で、どう? 新しい情報ある?」
京助「……(首を横に振る)」
恵那「そっか……」
京助「もう諦めたらどうだ? 15年前の話だろ?」
恵那「父親の顔を思い出したいって気持ちに、年数とか関係ある?」
京助「うっ! そりゃ、ないけど……」
恵那「何とか、二十歳までには思い出したいんだよね」
京助「なんで?」
恵那「そうじゃないと、この先、ずっと思い出せない気がする」
京助「そういうもんか?」
恵那「そういうもん」
京助「でもさ、子供の頃に乗ったメリーゴーランドにもう一回乗っただけで、思い出せるもんか?」
恵那「たぶん。……てか、それで思い出せなかったら、もう無理だと思う」
京助「……」
恵那「お父さんと一緒に遊びに行ったのは、その一回だけだったからさ。それ以外は、ずーっと仕事ばっかりで、ほとんど会えなかったし」
京助「……写真とかはないんだよな?」
恵那「お母さんが写真嫌いだからね。撮ってなかったみたい」
京助「にしたって、一枚くらいあるだろ」
恵那「私が思い出したいのは、あのときの……私に向けてくれた、笑顔のお父さんの顔なの」
京助「……地図にも載ってないような小さい遊園地ってことはないかな?」
恵那「どうなんだろ? 地図ならまだしも、地図アプリにも載らないなんてことはないんじゃないかな?」
京助「そう……だよな。じゃあ、もう潰れたとか……」
恵那「そう思って、閉園になった遊園地に忍び込んでみたけど、やっぱり違ったみたい」
京助「お前、結構、アグレッシブなのな」
恵那「取り壊されたところとか、見落としてるのかな? 大体は調べたつもりだけど」
京助「うーん……」
そのとき、後ろの席から子供の声がする。
子供「ねえねえ、お母さん! 帰りにあそこ行こ! 遊園地」
母親「遊園地……? ああ、丸小の屋上?」
子供「そこ! 乗り物乗りたい!」
その話を聞いて、恵那と京助が目を見開く。
京助「そっか。別に遊園地に絞らなくてもいいのか」
恵那「デパートの屋上の乗り物とか、あり得る。地図やアプリにも載らないし、何より、考えてみれば、あのときのお父さんの経済状況で、遊園地に連れて行ってくれる方が変かも」
京助「……そんなに貧乏だったのかよ」
恵那「とにかく、行くわよ! 丸小の屋上!」
バンとテーブルを叩いて立ち上がる恵那。
〇丸小デパートの屋上
様々な乗り物が設置されていて、子供連れの親子が遊んでいる。
そこにやってくる恵那と京助。
辺りを見渡す恵那。
だが、メリーゴーランドのような大きな乗り物は無い。
京助「……さすがに、屋上にメリーゴーランドは設置しないか」
恵那「……」
それでも辺りを見渡す恵那。
そして、100円を入れるとゆっくりと動く、馬の形をした車の遊具に目が行く。
恵那「……もしかして」
京助「お、おい……」
恵那が駆け出し、京助がついて行く。
馬の形をした車の遊具の前に立つ恵那。
恵那「……」
遊具に跨る恵那。
京助「……メリーゴーランドもそうだけど、こういうのに大人が乗ってると、ちょっと引くな」
恵那が恐る恐る100円を入れる。
するとメロディーが流れ、遊具が動き出す。
恵那「……」
それについて行く京助。
そして、遊具が止まる。
京助「……どうだ?」
恵那「……(首を横に振る)」
京助「そっか……」
〇京助の家・リビング
ソファーに寝転がっている恵那。
佳奈美と啓太と遊んでいる京助。
恵那「……もうダメかも」
京助「今度、おじさんの実家に行ってみようぜ。探せば写真の一枚くらいあるって」
恵那「……」
京助「顔が思い出せれば、笑顔だって思い出せるって」
恵那「……ちゃんと、思い出したかったなぁ」
啓太「ねえ、お兄ちゃん! お馬さんやって」
京助「今忙しいから、後でな」
啓太「やだー! 今がいい!」
京助「……はいはい。
京助が四つん這いになる。
京助「ほら、乗れ」
恵那「っ!?」
それを見て、ガバっと起き上がる恵那。
四つん這いになった京助の横に立つ。
恵那「啓太くん、ちょっと、ごめんね……」
恵那が四つん這いになった京助の上に座る。
京助「おふっ! お、おい! なにやってんだ」
京助が恵那の方に振り向く。
恵那「……」
フラッシュバック。
恵那の回想。
恵那(5)が父親に向かって駄々をこねる。
恵那「ねえ、お父さん! 遊園地行きたい!」
父親「……そんなお金ないって」
※父親の顔は見せない
恵那「やだー! やだー! メリーゴーランドに乗りたいー!」
父親「はあ……。わかった。乗せてやる」
恵那「ホント!?」
父親が四つん這いになる。
父親「さあ、乗れ」
恵那「う、うん……」
恵那が四つん這いになった父親の背に乗る。
父親が振り返る。
ここで初めて父親の顔が映る。笑顔。
父親「恵那。……これがメリーゴーランドだよ」
回想終わり。
恵那「ぷっ! あははははははははは!」
京助「恵那?」
恵那「もう、忘れないからね」
恵那がほほ笑む。
終わり。