アルコール依存症

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
和夫(かずお)
真奈美(まなみ)
加奈子(かなこ)

■台本

〇和夫の家・キッチン(夜)

暗い中、和夫(48)がゆっくりと歩いてくる。

和夫「はあ、はあ、はあ……」

キッチンの端で立ち止まり、辺りを見渡す。

そして、キッチンの床の格納庫のドアを開ける。

中には透明な瓶に入った焼酎が入っている。

蓋を開けて焼酎を飲む和夫。

和夫「ぷはー! 美味い!」

上機嫌になるが、すぐにハッとする。

和夫「あっ!」

ため息を吐く和夫。

和夫「……また、やっちまった」

〇リビング(朝)

テレビが付いている中、スマホを操作している和夫。

キッチンから真奈美(41)が声をかけてくる。

真奈美「あなたー。そろそろ食べないと遅刻するわよー」

和夫「ああ」

スマホを切り、立ち上がり、キッチンの方へ向かう和夫。

〇キッチン

テーブルに向かい合ってご飯を食べている和夫と真奈美。

真奈美「ねえ、崇の塾なんだけど……」

和夫「ん?」

真奈美「夏期講習があるんだって」

和夫「まあ、今年受験だからな。仕方ないだろ」

真奈美「じゃあ、受けるように言っておくわね」

和夫「ああ……」

真奈美「あ、そうだ。あなた。お酒……」

和夫「っ!?(ドキッとする)」

真奈美「最近、我慢できてるみたいね。すごいじゃない」

和夫「あ、ああ……」

真奈美がご飯を食べ終わり、食器をシンクへと持って行く。

和夫が深いため息を吐き、頭を抱える。

真奈美「……」

ちらりと和夫の方を見て、真奈美もため息を吐く。

〇リビング(昼)

ソファーに座っている加奈子(49)。

そこに両手にコーヒーを持った真奈美がやってくる。

真奈美「はい、姉さん。コーヒー」

加奈子「どーも」

加奈子が受け取り、すする。

真奈美もソファーに座り、コーヒーをすする。

加奈子「ねえ、ケーキとかないの? お茶うけに」

真奈美「ダーメ。姉さん、血糖値高いって言われたんでしょ」

加奈子「うう……。相変わらず、真奈美は厳しいわね」

真奈美「それに、和夫さんも我慢してるんだから、私も甘いものは我慢しなくっちゃね」

加奈子「そういえば、どうなの? 禁酒の方は?」

真奈美「……なんか、隠れて飲んでるみたい」

加奈子「そっか……。なかなか、依存症は治らないわね」

真奈美「姉さんに言われてから、あまり責めないようにしてるけど、それが返って罪悪感を強めてるみたいで……」

加奈子「うーん。そっか。それじゃ、次は……」

〇キッチン(夜)

テーブルの上にはカクテル系のお酒が並んでいる。

それを見て、不思議そうな顔をしている和夫。

和夫「……なんなんだ、これ?」

真奈美「代替品よ」

和夫「代替品?」

真奈美「どうしてもお酒が飲みたくなったら、こっち飲んで」

和夫「けど……なんで、カクテル系なんだ?」

真奈美「アルコール度数が低いのにしてあるの」

和夫「うーん。これだと飲んだ気にならないんだよなぁ」

真奈美「(鬼の形相で)あーなーた?」

和夫「いや、わかった! これで我慢するよ」

〇同(夜)

暗い中、キッチンに入って来る和夫。

冷蔵庫を開ける。

中からカクテル系のお酒を取り出して飲む。

和夫「うーん。物足りないけど、ないよりはマシか」

〇リビング(昼)

コーヒーを飲んでいる真奈美と加奈子。

加奈子「で、どう? 効果ありそう?」

真奈美「うん。なんとか、買ったお酒で我慢出来てるみたい」

加奈子「よし、じゃあ、次の作戦に移るわよ」

〇キッチン(夜)

テーブルの上に、瓶に入った柑橘系のお酒が置いてある。

和夫「……これは?」

真奈美「次の段階よ。今度はもっとアルコール度数を抑えたものにしたの」

和夫「もっと薄くなるのか……」

真奈美「大丈夫。こういうのは気持ちよ、気持ち。今まで頑張って来れたんだもん。もう少しよ。もう少しで禁酒できるようになるわ」

和夫「あ、ああ……そうだな」

〇同(夜)

暗い中、和夫がやってきて、冷蔵庫を開ける。

瓶の柑橘系のお酒を出し、コップに注ぎ、飲む。

和夫「……」

床の格納庫のドアを開け、焼酎を取り出す和夫。

焼酎をコップに注ぎ、その中に柑橘系のお酒を入れる。

そして、それを一気に煽る。

和夫「ぷはー。美味い!」

〇リビング(昼)

コーヒーを飲んでいる真奈美と加奈子。

加奈子「どう? 作戦、上手くいってる?」

真奈美「うーん……」

加奈子「どうしたの?」

真奈美「姉さんの言った通りににしてるんだけど、なんか変なのよね」

加奈子「変って?」

真奈美「やっぱり、どっかで隠れて飲んでるのかなぁ」

加奈子「うーん……」

そのとき、リビングのドアが開き、和夫が入って来る。

和夫「あ、義姉(おねえ)さん、いらっしゃい」

加奈子「お邪魔してまーす」

和夫「ごゆっくり」

加奈子「はーい」

和夫がキッチンの方へ向かう。

〇キッチン

和夫が冷蔵庫を開ける。

瓶に入った柑橘系のお酒を取り出し、コップに注ぐ。

和夫「……」

チラリとリビングの方を見た後、そそくさと床の格納庫のドアを開け、焼酎を出す。

そして、その焼酎をコップに注ぐ。

だが、そのとき、後ろから声がする。

真奈美「あ! やっぱり、隠れて焼酎、飲んでたのね!」

和夫がビクッと震え、ゆっくりと振り向く。

そこには真奈美と加奈子の姿が。

和夫「ち、違うんだ!」

真奈美「違うって、なにが?」

和夫「ど、どうしてもダメなんだ。お酒がないと、心が落ち着かないんだよ」

和夫がへたり込む。

和夫「俺はもう、どうしようもない男だ。禁酒なんて、無理だったんだ」

加奈子「いや、和夫さん。あなた、もう禁酒に成功してるわよ」

和夫「……へ?」

加奈子がテーブルの上の瓶を手に取る。

加奈子「これ、実は中身をジュースに変えてあるの」

和夫「そ、そうだったの?」

真奈美「で、でも、姉さん。和夫さんは、そのジュースに焼酎を入れてたんだから意味ないんじゃない?」

にやりと笑みを浮かべる真奈美。

加奈子「ふっふっふ。実は、その焼酎の中身も、水に入れ替えておいたのよ」

和夫「えええー! なんだって!?」

真奈美「姉さん、いつの間に?」

加奈子「ふふふ。つまり、和夫さんはずーっと、お酒を飲んでいなかったのよ」

和夫「そ、そうだったのか……」

加奈子「そうそう。結局、アルコール依存症なんて、気持ちの持ちようってわけ」

和夫「そうか。俺は禁酒に成功してたのか……」

真奈美「よかったわね、あなた」

〇リビング(昼)

コーヒーを飲んでいる真奈美と加奈子。

加奈子「で、どう? 和夫さん」

真奈美「ふふふ。もうすっかり、お酒はやめれたみたい。姉さんのおかげよ。ホント、ありがと」

加奈子「あははは」

真奈美「でも凄いわね、姉さん」

加奈子「なにが?」

真奈美「私でも見つけれなかったのに、和夫さんのお酒の隠し場所を見つけた上に、中身を入れ替えるなんて」

加奈子「あんなの嘘に決まってるでしょ」

真奈美「え?」

加奈子「いくらなんでも、そんなことできるわけないでしょ」

真奈美「じゃ、じゃあ……」

加奈子「言ったでしょ? 結局は気持ちの持ちようだってさ」

にっこりと笑う加奈子。

終わり。

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