鍵谷シナリオブログ

告白はさよならの場所で

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■概要
人数:5人
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
優真(ゆうま)
美咲(みさき)
優真の母親
霧江(きりえ)

■台本

インターフォンの音。
ガチャリとドアが開く音。

美咲「あら、優真くん、いらっしゃい」
優真「こんにちは、美咲さん」
美咲「どうしたの? ……あ、さては、テストが近いんだな?」
優真「へへへ。バレバレだね。はい、これ、ケーキ」
美咲「もう。別にお土産なんてなくても、勉強くらい教えてあげるのに」
優真「プロに教わるのに、手ぶらじゃ悪いよ」
美咲「プロって、大げさ。ただの塾講師だよ」
優真「十分、プロだって」
美咲「そう。それなら、お言葉に甘えていただきます」
優真「どうぞどうぞ」
美咲「じゃあ、入って。コーヒー淹れるから」

場面転換。
美咲に勉強を教わっている優真。

美咲「で、ここのXの値が出れば、ここに代入して計算すれば、Bの値が出るの」
優真「あー、なるほど。そっから解くのか。さすが美咲さん、分かりやすい」
美咲「場数の問題だって。何問もやれば、自然とできるように……」

そのとき、インターフォンが鳴る。

美咲「誰だろ? ちょっと待ってね」

美咲が部屋を出ていく。
※ここからはドア越しの声。

美咲「あの……急に来られても困ります」
男「文句ならお前の親父に言えよ」
美咲「今月の支払い分はもう振り込んだはずです」
男「もう少し、多く返せないか?」
美咲「それは無理だって……」
男「姉ちゃん。塾講師よりももっと、割のいい仕事あるぞ。紹介してやろうか?」
美咲「結構です。とりあえず、今日はこれで帰ってください」
男「はいはい」
優真「……」

場面転換。
学校の教室。チャイムの音。

優真「……」
霧江「ねえねえ、優真。テストどうだった?」
優真「そこそこ……。それよりさ、なんか、割のいいバイト知らね?」
霧江「なに? 小遣いピンチなの? 貸してあげよっか? いくら?」
優真「7千万ほど」
霧江「……バカじゃないの」
優真「だよな……」

場面転換。
優真の家。
キッチンで料理している優真の母。

優真「ねえ、母さん」
母「ん? ご飯なら、もうすぐだから」
優真「俺、大学行かないで働いたらダメかな?」

母の手がピタリと止まる。

母「何言ってんの、あんた」
優真「……早く働いて、金が欲しいんだ」
母「(感づいて)あのね、優真。確かに、大学に行かないですぐ働けば、すぐにお金が手に入るのはわかるよ。でもね、大学に行かなかった分、給料が低くなる可能性が高いの」
優真「……」
母「4年間、我慢して、ちゃんと勉強して、いい会社に入った方が、結果的に、早く返し終わるはずよ」
優真「……そっか。早く稼げても、多く稼げなかったら意味ないか」
母「そう。焦る気持ちはわかるけど、その分、勉強しなさい。その方が遠回りだけど、早いわ」
優真「……ありがとう、母さん。大学、行かせてもらうよ」
母「うん。その方が、美咲ちゃんも喜ぶと思うわよ」
優真「なっ! なんで、美咲さんの名前が出てくるんだよっ!」
母「はあ……。あんた、それ本気で言ってる?」

場面転換。
大学内を歩く優真。

大学生「おーい、優真」
優真「ん? なに?」
大学生「教授が呼んでるぞ」
優真「え? なんだろ?」
大学生「この前、お前が出したレポート、教授に大絶賛されただろ。それのことじゃねーの?」
優真「わかった、すぐ行く」

場面転換。
ノックの後、ドアを開く音。

優真「……失礼します」
教授「おお、来たか。まあ、そこに座れ」
優真「はい……」

椅子に座る音。

教授「実は、この前のレポートを知り合いに見せたんだよ。そしたら、その知り合いも、よく出来てるって、褒めてたぞ」
優真「はあ……。ありがとうございます」
教授「で、だ。その知り合いが、こっちの研究所を手伝ってくれないかって言ってきた」
優真「え? ……それって」
教授「もちろん、給料も出る。大学と掛け持ちになって、少々大変だと思うが、どうだ? やらないか?」
優真「ぜ、是非、お願いします!」

場面転換。
高級レストラン内。オシャレなBGMが流れている。

美咲「ふふ。おめでとう、優真くん」
優真「これも、美咲さんのおかげです」
美咲「何言ってるの。私が手伝ったのは、大学受験のときまででしょ。研究員になれたのは、優真くんの努力の賜物だよ」
優真「いえ。そもそも、大学に受からなかったら、ここまでこれませんでしたし」
美咲「もう……。受験のお礼は何度もしてもらったのに」
優真「……じゃあ、これが最後ってことで」
美咲「うーん。それじゃ、お言葉に甘えようかな。……でも、大丈夫? こんな高そうなお店」
優真「実はその……研究所では、結構な金額が貰えるんで」
美咲「そっか。(冗談っぽく)あーあ。ついに、優真くんに年収抜かれちゃったかぁ」
優真「それで、その……美咲さんに話があるんだ」
美咲「なに?」
優真「(改まって)えっと、俺と結婚を前提に付き合ってください!」
美咲「え? ……や、やだなぁ。飲んでないのに酔っぱらったの?」
優真「ずっと……好きでした。一人前になったら、言うつもりだった」
美咲「でも、私の家は……」
優真「借金だって背負います。そのために、今まで頑張ってきたんだ」
美咲「……ありがと」
優真「それじゃ……」
美咲「でも、ごめんなさい」
優真「え?」
美咲「ここじゃ、ダメ。その告白は受けれないわ」
優真「……じゃあ、どこでならいいんですか?」
美咲「……お墓の前、かな」
優真「……」

場面転換。
優真の部屋。

優真「……死ぬまで告白は受けてくれないってわけか」

ドアがノックされる音。

母「優真。ホントに行かないの? 結婚式」
優真「……腹痛くて」
母「そ。じゃあ、美咲ちゃんには、よろしく言っておくわね」
優真「……」

母親がドアの前から去っていく。

優真「……結婚するなら、先に言って欲しかったな」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
家の中に入る優真。

優真「……ただいま」
母「あら! 優真! なに? 突然」
優真「いや、結構、有休溜まっててさ」
母「帰るなら、帰るって、前もって言いなさいよ」
優真「ごめん」
母「ったく。40にもなって、そういうところは変わらないわね」
優真「そうかな?」
母「それより、一人なの?」
優真「何が?」
母「ほら、そろそろ、彼女の一人とか……」
優真「仕事が忙しくて、それどころじゃない」
母「あのねぇ。他の人は仕事が忙しくても、彼女をつくるものなの」
優真「母さんは古いよ。今は、生涯独身も多いんだからさ」
母「独身と言えば、美咲ちゃん、どうしてるのかしら」
優真「……何言ってるの? 美咲さん、結婚してるでしょ」
母「あれ? 言わなかったっけ? 旦那さん、亡くなったのよ」
優真「へ? いつ?」
母「去年」
優真「……」
母「最初は、借金のカタに貰われたと思ったけど、いい旦那さんだったみたいね」
優真「……」
母「美咲ちゃんはお金のために結婚したとか周りから言われてたけど、幸せそうにしてたわ」
優真「……ふーん。ちなみにさ、今、美咲さん、どこにいるか、知ってる?」

場面転換。
霊園内を歩く優真。
立ち止まって。

優真「……ここか。……いないな。すれ違ったかな」

そこに美咲がやってくる。

美咲「あれ? 優真くん?」
優真「美咲……さん」
美咲「よくここにいるってわかったね」
優真「近所の人に聞いたんです。命日だから、お墓にいるんじゃないかって」
美咲「そう……」
優真「ごめん。結婚式も、お葬式も行けなくて」
美咲「いいんだよ、別に」
優真「美咲さんは、あの日のこと、覚えてる?」
美咲「あの日?」
優真「俺が告白した日のこと」
美咲「……うん。忘れないよ。……凄く嬉しかったから」
優真「あのときには、もう、結婚が決まってたんだね?」
美咲「……正直に言うとね。この人を選んだのにはお金のことも大きかった」
優真「……」
美咲「だからね。どんなことを言われても、私は最後まで、この人を愛そうって決めたの。それが、私にできる、あの人への恩返し」
優真「……だから、死ぬまで俺の告白は受けられないってわけだったんだ」
美咲「……ごめんね。どうしても、あのとき、私の口から、優真くんに結婚するって言えなかった」
優真「いいんだ。あのときの俺は、まだまだ子供だったし、働けるってだけで一人前になったと勘違いしてた」
美咲「……」
優真「……ねえ、美咲さん」
美咲「なに?」
優真「……結婚して欲しい」
美咲「や、止めてよ。そんな冗談」
優真「冗談なんかじゃない」
美咲「でも……私、一回、優真くんを裏切って」
優真「構わないよ」
美咲「……でも、でも……私」
優真「悪いけど、美咲さん。今度は断ることはできないはずだよ」
美咲「え?」
優真「言ったろ? お墓の前なら、告白を受けてくれるって」
美咲「どういうこと? ……あっ!」
優真「……もう一度言うよ。俺と結婚してください」
美咲「……うん。ありがとう」

終わり。

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