鍵谷シナリオブログ

【シナリオブログ】勲章の痕①

○ アパートの前
大勢の野次馬が集まっている。
アパートの窓が割れ、そこから炎が飛び出す。
野次馬から悲鳴があがる。
アパートの前には消防車が止まっていて、消防士の防火服を着た雨宮瑞樹(25)と瀬羅海人(30)が石尾武志(45)の指示を受けている。
石尾「いいか。訓練通り、俺の指示に従えばいい。勝手な行動をするなよ。いいな、雨宮。まずは放水で火の勢いを弱める」
瑞樹がビシッと敬礼する。
瑞樹「了解です!」
その時、野次馬の悲鳴が聞こえる。
男「誰か、中に取り残されてるぞ!」
瑞樹「!」
瑞樹が入り口に向かって走っていく。
そのままの勢いで中へと入る。
石尾「いきなり、指示を破るなっ!」
その様子を野次馬の中からじっと見ている芝崎巧(28)。

○ 三下消防署・事務室
石尾のデスクの前に立たされている瑞樹。
瑞樹の左頬にはガーゼが貼られている。
石尾「馬鹿者! 何度言えばわかるんだ! もう少しで死ぬところだったんだぞ!」
瑞樹「まあ、生きてたんですからいいじゃないですか」
石尾「(机を叩いて)そういうことを言ってるんじゃない!」
瑞樹「じゃあ、なんですか、課長。人命より指示の方が大事っていうんですか?」
石尾「自分の命も大事にしろと言っとるんだ! 何の計算もなく、突っ込みやがって」
瑞樹「わ、私はちゃんと戻れるって自分で判断して、入ったんです」
石尾「嘘つけ! (瀬羅を指差し)瀬羅を行かせなかったら、脱出は無理だったぞ!」
瀬羅「石尾課長。もう、そのくらいにしておいたらどうですか?」
瑞樹「瀬羅さん……」
瀬羅「どうせ馬の耳に念仏。気を付ける気なんてサラサラないですから。無駄ですよ」
瑞樹「……」
石尾「(ため息をついて)雨宮、今日はもう上がって、体を休めろ」
瑞樹「そんな。全然、大丈夫ですよ」
石尾「命令だ!」
瑞樹「……はい」

○ 瑞樹の家・玄関
瑞樹がドアを開けて、入ってくる。
瑞樹「ただいまー」
雨宮響子(50)がやってくる。
響子「あら、早かったのね……(瑞樹の顔をガーゼを見て)って、瑞樹! どうしたの、顔!」
瑞樹「(靴を脱ぎながら)ちょっと現場でさ」
響子「現場でさ、じゃないわよ! あんた、女の子なのよ!」
廊下を歩く瑞樹。
瑞樹「お母さんはいつも大げさだって。ちょっと火傷しただけじゃない」
響子が後ろからついてくる。
響子「火傷!? あんた、痕が残ったらどうするのよ! 嫁入り前なのに!」
瑞樹「大丈夫だって」
響子「だから、消防士なんて反対したのよ。今からでも遅くないから、辞めなさい」
瑞樹が洗面所のドアを開く。
瑞樹「その話は、もう何度もしたでしょ。シャワー浴びるから!」
洗面所に入って、ドアをバンと閉める。
ため息をつきながら、シャツのボタンを外し始める。
ふと、顔を上げると、鏡に顔が映る。
ガーゼをそっと外してみると、小さいが火傷の痕がくっきりと残っている。
瑞樹「(痕を触って)……痕に残るかもなぁ」

○ 同・瑞樹の部屋
バスタオルで頭を拭きながら、部屋に入ってくる瑞樹。
腕の所々には火傷の痕がある。
椅子に座り、顔の火傷に触れる。
瑞樹「いてっ!」
顔をしかめて、椅子の背もたれに寄り掛かる。
ふと、机の上の、井戸美雪(10)の写真が目に入る。
瑞樹「(写真をジッと見て)……」
不意に、顔を挟むように頬を両手で叩く。
瑞樹「いかんいかん、美雪に笑われちゃうね」
気合を入れるように、拳を握って立ち上がる。
その時、携帯が鳴る。
瑞樹「(とって)里香? 久しぶり。どうしたの? ……え? 金曜日? うん。大丈夫。行く行く」

○ ショッピングモール・噴水前
星野里香(25)、佐々木優奈(25)、山下美佐(25)が待っている。
三人とも、半袖。
そこに、長袖を着た瑞樹が走ってくる。
瑞樹「ごめん。お待たせ」
里香「久しぶり! (瑞樹の恰好を見て)……って、瑞樹、暑くないの?」
瑞樹「あー、うん。ちょっと風邪気味でさ」
優奈「(顔のガーゼを見て)顔、どうしたの?」
瑞樹「ちょっと、猫に引っ掻かれちゃって」
美佐「気を付けなよ。顔は女の命なんだからさー」
瑞樹「(苦笑いして)じゃあ、行こうか」
四人が歩き始める。
里香「そういえば、さっちゃん、誠君とまだ付き合ってるの?」
優奈「うん。再来月に籍入れるよ」
美佐「いいなぁ。あたしなんて、先月、別れたばっかり」
里香「また? みっちー、歳考えなよ。そんなんじゃ、行き遅れちゃうよ」
瑞樹「……」
美佐「そういう里香っちはどうなのさ?」
里香「今年の初めに婚約しましたー。相手は外資系で、年収一千万ですー!」
優奈「うわー。里香っち、勝ち組だね」
美佐「瑞樹は?」
瑞樹「あー、うん。今は……仕事忙しいから」
優奈「何やってるんだっけ?」
瑞樹「……公務員」
里香「公務員にも、忙しい時期とかあるんだ?」
優奈「このご姿勢に、公務員なんだから、瑞樹も勝ち組って言えば、勝ち組かー」
美佐が瑞樹の肩を組む。
美佐「なーに言ってんのよ。女は玉の輿に乗るかどうかだって。瑞樹は顔いいんだから、金持ちたらし込んで、寿退社しちゃいなよ」
瑞樹「……はは」
その時、化粧品の店『white snow』の前を通る。
美佐「(立ち止まって)あ、white snowだ」
里香「最近、ここの化粧品、評判良いよね」
優奈「ドンドン、新商品出してるよね」
瑞樹「……そうなんだ?」
美佐「新しく社長になった人が、凄いイケメンなんだよねー。まだ、独身みたいだし、嫁に貰ってくんないかなー」
里香「その前にどうやって知り合うのよ。社長なんて、店にいないんだから」
美佐「それもそうなんだけどさー」
瑞樹が店のドアに貼られている『美白の化粧品』というポスターを見る。
瑞樹「……(ジッと見て)」

○ 三下消防署・訓練所
多くの消防士が訓練をしている。
瑞樹はロープを腕だけで登っている。
瑞樹「……」
下から瀬羅が叫ぶ。
瀬羅「おら! 雨宮! ペースが落ちてるぞ。集中しろ!」
瑞樹「(ハッとして)くっ!」
ペースを上げる瑞樹。

○ 同
瑞樹が肩で息をしながら、座り込む。
瀬羅がやってきて、水が入ったペットボトルを渡す。
瀬羅「……火傷、酷いのか?」
瑞樹「は? ……ああ、いえ。集中してなかったのは別の件です」
瀬羅「集中してないって、自分で言うなよ」
瑞樹「瀬羅さんって、何歳でしたっけ?」
瀬羅「あ? ……今年で三十だけど、なんだよ、急に」
瑞樹「はあ……。三十で彼女無しか。こうはなりたくないなぁ」
瀬羅「てめえ、喧嘩売ってんのか?」
瑞樹「じゃあ、彼女、いるっていうんですか?」
瀬羅「うっ! い、いねえよ。大体、んな暇ねーだろうが。忙しくてよ……」
瑞樹「ですよねー」
瑞樹が顔の火傷を指で擦る。
瀬羅「……(その様子を見て)痕になっちまいそうだな」
瑞樹「まあ、自業自得ですから」
瀬羅「(咳払いして)うちの妹がさ、最近、流行りの化粧品でスノー……スノー」
瑞樹「ホワイト・スノーですか?」
瀬羅「おう、それだ。その店の店長と友達みてぇでさ。割引券、大量に持って帰ってきたんだよ。……いるか?」
瑞樹「ホントですか? 欲しいです!」

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