【シナリオブログ】勲章の痕②

○  ショッピングモール・white snow内
瑞樹が女性店員に割引券を出している。
店員「どのような化粧品をお求めですか?」
瑞樹「えーっと、美白って言うか……」
瑞樹が顔の火傷の痕を擦る。
店員「あの、差し支えなければ、どうなさったのか、お聞かせ願いませんか?」
瑞樹「え? あっ、これですか? えっと、その……油が跳ねちゃって……」
店員「火傷ですか……。それはいつくらいに?」
瑞樹「一週間前……くらいかな」
店員「少々、お待ちください」
店員が裏の方へ歩いて行ってしまう。
瑞樹「……?」
ほどなくして、裏から先ほどの店員と、仙石隆則(30)がやってくる。
仙石「あなたですか。……どれどれ」
仙石が瑞樹の前に立ち、ジッと瑞樹の顔を見る。
そして、火傷の痕や頬に触れて、感触を確かめてみる。
瑞樹「(照れて)あ、あの……」
店員「社長! お客様ですよ!」
仙石がハッとして、手を放す。
仙石「ああ、申し訳ありません。私、white snowの社長をしています、仙石隆則です」
瑞樹「はあ……。社長さんですか……」
仙石「社長が店にいるのが不思議ですか? はは。良く言われます。ですが、僕はお客様の目線で開発を行っていきたいのです。ですので、こうやって、色々な支店に足を運んでいるのですよ」
瑞樹「(圧倒されて)……」
店員「社長」
仙石「おっと、いけない。僕はすぐに話がそれる癖がありましてね。本題に入ろうと思うんですが……立ち話もなんですので、奥で話しましょうか」

○  同・応接室
仙石と瑞樹がテーブルを挟んで向かい合って座っている。
瑞樹の前には紅茶が置かれている。
仙石「実はあなたに、モニターをやってもらえないかと思いましてね」
瑞樹「モニター……ですか?」
仙石「つまり、我が社の新商品を実際に使っていただいて、その効果を見させていただくというものです」
瑞樹「どうして、私が?」
仙石「実に理想的なんです。いわば、この商品の為の肌、と言っていいくらいの」
瑞樹「(首を傾げて)……?」
仙石「あなたの肌はかなり瑞々しく、代謝も活発です。ですが、その火傷の痕」
仙石が瑞樹の顔の火傷の痕を差す。
仙石「それは、消えるものではありません。ずっと残ってしまうでしょう」
瑞樹「……」
仙石「ですが、今回、そんなお客様の為の化粧品を開発したんです。あらゆるシミや火傷の痕などを消し去る、新商品を」
仙石が内ポケットから、丸い容器を出す。
ラベルにはwhite snowと書かれている。
仙石「あえて、会社の名前を付けた商品です。それほどまで、今回の商品には力を入れている、というわけです」
瑞樹「でも、新商品ということは……結構、高いんですよね……?」
仙石「ああ、いえ。お代はいただきません。あくまで、こちらがお願いしているわけですからね」
瑞樹「タダなんですか?」
仙石「ただし、毎日使ってもらうということと、定期的にお店に来ていただくということになります」
瑞樹「それじゃ、その、モニターってやつ、やります!」

○  三下消防署・事務室
瑞樹が席で、鼻歌混じりで、手鏡を見ながら、化粧品を顔に塗っている。
瀬羅「(顔をしかめて)……」
石尾「……あいつ、なんか、変なもん、食ったのか?」
瀬羅「すんません。多分、俺のせいっす」
瑞樹がバンと机を叩きながら立ち上がる。
瑞樹「さあ、瀬羅さん、今日も訓練、張り切っていきましょう」
瀬羅「お、おう……」
石尾「……」

○  white snow内・応接室
瑞樹と仙石が向かい合って座っている。
仙石が瑞樹の顔にペンライトを当て、火傷の痕を観察している。
瑞樹「(照れくさくて)……」
ペンライトを消す、仙石。
仙石「順調に回復してきているみたいですね」
瑞樹「え? そうなんですか? いつも、鏡で見てますけど、あまり変化はないですよ?」
仙石「(微笑んで)普通の人には、あまり変化は分かりづらいと思います。ましては、毎日見てるとなると、余計わかりませんよ」
瑞樹「そういうものですか……」
仙石「三か月後には、完全に消えるはずです。彼氏さんも喜ぶんじゃないですか?」
瑞樹「え? いや、彼氏なんていませんよ」
仙石「あれ? 意外ですね。……まったく、こんな素敵な女性を放っておくだなんて、周りの男の気が知れない」
瑞樹「(顔を真っ赤にして)……」

○  三下消防署・事務室
机で、鼻歌交じりで報告書を書いている瑞樹。
石尾「雨宮、ご機嫌だな。なんか、良いことあったのか?」
瑞樹「今日、現場で、野次馬の人に可愛いねって言われたんですよー。私のファンだって」
瀬羅「お前、消火中に何やってたんだ。仕事しろよ」
瑞樹「(ムッとして)言われたのは鎮火後です」
石尾「まあ、女の消防士なんてのは、珍しいからな。目立つんだろ」
瑞樹が机から、化粧品を出して、顔に塗り始める。
瑞樹「やっぱり、効果、出始めてるのかな」
瀬羅「勤務中に、女みてえに色気づいてんじゃねえよ」
瑞樹「女です!」
石尾「言われてみると、顔の火傷、薄くなってきてるな。いやあ、良かった、良かった。痕にでもなったら、親御さんに合わせる顔がないからなぁ」
瑞樹「(容器を見せながら)この化粧品のお陰ですよ。火傷の痕も消えるんですから」
石尾「へー。今は、そんなのも出てるんだな」
瑞樹「土下座して頼むなら、瀬羅さんにも貸してあげますけど?」
瀬羅「けっ! 俺は火傷するなんて、ヘマ、しねえよ。誰かさんと違ってな」
瑞樹「(ギリっと歯ぎしりして)……」
石尾が腕時計を見る。
石尾「お前ら、そろそろあがっていいぞ」
瑞樹「あ、この報告書、すぐ書き終わるんで。あと、人手が足りなかったすぐ連絡くださいね。五分でかけつけますから」
瀬羅「けっ! 火事場マニアが」
瑞樹「なんか、言いました?」
瀬羅「お先―」
瀬羅が立ち上がって、帰っていく。
瑞樹が報告書を石尾に渡す。
石尾「(報告書を見ながら)雨宮。体だけじゃなく、気を休めるのも仕事だぞ。非番のときは、こっちのこと考えなくていいからな」
瑞樹「気にしない方が、逆に難しいですよ」
石尾「(笑って)お前は消防士の鏡だな」
瑞樹が微笑む。
石尾「部下としては手を焼くがな」
しょんぼりとした表情をする瑞樹。

○  コンビニ
欠伸しながら、カゴにサンドイッチを入れる瑞樹。
スタミナドリンクのコーナーに向かおうとしたとき、ふと、雑誌コーナーが目に入る。
『夏のコーディネート』と書かれた雑誌が目に入り、手に取る。
パラパラとページを開いて見ていると携帯が鳴り始める。
瑞樹「(取って)ああ、さっちゃん。どうしたの? ……ん? 別にいいけど」

○  ファーストフード店・店内
瑞樹と美佐が向かい合って座っている。
瑞樹「ご、合コン?」
美佐「(ポテトをかじりながら)やっぱ、悔しいじゃん。うちらも、良い男ゲットして、里香っちや奈っちを見返してやろうよ」
瑞樹「でもなー。今は仕事忙しいからなあ」
美佐「瑞樹、そろそろ、恋愛に目を向けたら? 仕事ばっかりって、人生、損してるよ」
瑞樹「うーん」
美佐「迷ってるくらいなら、行動あるのみ! 行こう! 決定!」
瑞樹「ちょっと、美佐」
美佐「期待してて。ちょっとしたコネが出来てさ。相手、すっごいの連れてくるから」
瑞樹「……」
美佐「そうだ! 瑞樹、服買いにいこう」
瑞樹「ええ!」
美佐「どうせ、可愛いの持ってないんでしょ? 私がコーディネートしてあげる」

○  イタリアンレストラン
美佐、瑞樹の他、二人の女性が並んで座っている。
テーブルを挟んで向かい側には、高そうなスーツを着た、三十代の男性が三人並んで座っている。
美佐が立ち上がる。
美佐「そろそろ始めたいと思うんですけど、仙石さんは?」
男性「もうすぐ来るはずだけど……」
そこに仙石が走ってくる。
仙石「いやあ、悪い。遅くなってしまったね」
瑞樹「あっ!」
仙石「あれ? 瑞樹さん?」

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