○ 三下消防署・事務室
瀬羅と石尾が机に向かって報告書を書いている。
そこに瑞樹が出勤してくる。
瑞樹「昨日の火事って、どんなんでしたか?」
瀬羅「……朝の挨拶より、先にそれか」
石尾「まあ、雨宮らしいと言えば、雨宮らしいな」
石尾の机の前に立つ瑞樹。
瑞樹「で? どうだったんですか?」
石尾「燃えたのは清月町にある広場の松の木。警察の方では、放火の可能性があるって、捜査してる」
瑞樹「怪我人は?」
瀬羅「いねーよ」
瑞樹「(ホッとして)そうですか」
瑞樹が自分の席に座る。
石尾「昨日の休みは充実できたか?」
瑞樹「ええ、まあ。楽しかったです」
瀬羅「お前が有給なんて、初めてだよな。彼氏でもできたか?」
瑞樹「(顔を赤くして)……」
瀬羅「おいおい。マジかよ」
石尾「ほー。相手はどんな人なんだ?」
瀬羅「雨宮と付き合おうなんて考える奴だから、変人ってことは確かだな」
瑞樹「べ、別にまだ彼氏とかじゃなくて……」
そのとき、放送がかかる。
アナウンス「救急指令。石尾救急隊、出動。火災事故。三上五丁目……」
瑞樹が目を見開いて、立ち上がる。
石尾「……やれやれ。なかなか忙しい日だな」
○ 街中・廃ビル
廃ビルが勢いよく、燃えている。
周りには大勢の野次馬がいる。
懸命に消火活動をしている瑞樹。
その姿をジッと見ている芝崎。
○ white snow内・応接室
瑞樹と仙石が向かい合って座っている。
仙石が瑞樹の顔にペンライトを当て、火傷の痕を観察している。
仙石「うん。ほとんど、目立たなくなったね」
仙石がペンライトを消して、瑞樹に手鏡を渡す。
瑞樹が鏡で、顔の火傷痕を見る。
ほとんど、消えた状態。
瑞樹「わー。ホントだ。凄い」
仙石「思った以上の成果だよ。瑞樹さんにお願いして良かった」
瑞樹「ううん。こっちこそ、選んでくれてありがとうって感じ」
仙石「ふむ。……選ぶ、か」
瑞樹「?」
仙石「じゃあ、プライベートでも瑞樹さんを選ぼうかな」
瑞樹「え?」
仙石「僕と付き合ってみない?」
瑞樹「……。ええーー!」
仙石「ああ……。ごめん。こんなところで言う事じゃないか」
瑞樹「いや、そうじゃなくって、その……。急だったから」
仙石「(笑みを浮かべて)そこまで固く考えなくていいんじゃないかな」
瑞樹「えっと、じゃあ……その……よろしくお願いします」
仙石「うん。よろしくね、瑞樹さん」
○ 三下消防署・訓練所
多くの消防士が訓練をしている。
瑞樹がロープを腕だけで登っている。
瑞樹「はああああーー!」
物凄いペースで登っていく。
それを見上げている瀬羅。
瀬羅「……」
そこに石尾がやってくる。
石尾「雨宮、随分と気合入ってるな」
瀬羅「入れ過ぎですよ。(瑞樹に向かって)おら、雨宮! 無茶すんじゃねえ! 体壊すぞ!」
瑞樹「大丈夫です!」
さらにペースを上げる瑞樹。
瀬羅「ったく、体力馬鹿が」
○ 街・通り
瑞樹と仙石が並んで歩いている。
瑞樹「いてて……」
仙石「怪我でもしたの?」
瑞樹「いや、筋肉痛。ちょっと張り切り過ぎちゃったかな」
仙石「筋肉痛? 瑞樹さん、ジムにでも通ってるとか?」
瑞樹「え? あー、その……うん。最近、運動不足で……通い始めたんだ」
仙石「そう? 逆に瑞樹さんは同年代の女性と比べても、引き締まってると思うけど」
瑞樹「……隆則さん、マッチョ嫌い?」
仙石「(笑って)瑞樹さん、マッチョってほどじゃないでしょ。さすがに、腹筋とかが六個に割れてるとかだとちょっと引くけど」
瑞樹が自分のお腹を触る。
瑞樹「……まだ、セーフ」
仙石「え?」
瑞樹「ううん、なんでもない。それより、美術館ってどこのに行くの?」
仙石「街中にある、変わった美術館だよ。美術館と言うよりはトリックアート展って言った方がいいかな?」
瑞樹「へー! 面白そう!」
仙石「瑞樹さんなら喜ぶと思ってさ。チケット取っておいた……」
そのとき辺りが騒がしくなる。
男「火事だってよ」
女「すぐ近くだって。見に行こう!」
数人が走り出す。
瑞樹が咄嗟に走り出す。
仙石「瑞樹さん!?」
仙石も後を追いかける。
○ 街中・ビル前
ビルの窓から煙が噴き出している。
それを大勢の人が見上げている。
そこに瑞樹と仙石が到着する。
窓から顔を出している男性が見える。
瑞樹「!」
咄嗟にビルの入り口の方へ走ろうとする瑞樹。
それを仙石が止める。
仙石「瑞樹さん、危ないよ!」
瑞樹「で、でも……」
仙石「消防車が来るのを待とう」
瑞樹「……」
遠くからサイレンが聞こえてくる。
二人の様子を野次馬の中にいる芝崎が目を見開いて、見ている。
芝崎「……」
仙石「ほら、来たよ」
瑞樹「……」
消防車がビルの前で止まる。
消防隊員が降りてくる。
その中に、瀬羅と石尾もいる。
石尾「各自、消火準備を急げ!」
石尾に近寄っていく瑞樹。
仙石「ちょ、ちょっと瑞樹さん」
瑞樹「課長、四階に取り残されている人がいます」
瑞樹が指差す方向を見る仙石。
確かに窓から顔を出している男性がいる。
石尾「……あそこはまだ火が回っていないみたいだし、煙も少量だ。まずは、隣のビルに燃え移らない為の対策が先だ」
瑞樹「そんなこと言って、手遅れになったら、どうするんですか!」
石尾「あの人を助ける間に、火が燃え広がったりしたらどうするんだ。死人が十人以上出るぞ」
瑞樹「でも!」
石尾「それに、このビルには中華料理店が入ってる。隊員を危険な目に合わせるわけにもいかん」
瑞樹「じゃあ、私が行きます!」
瑞樹が入り口に向かおうとしたとき、瀬羅がポンと瑞樹の頭に手を乗せる。
瀬羅「課長。俺が行きます」
石尾「瀬羅。俺の話を聞いてたのか? このビルには……」
瀬羅「だーい丈夫っすよ。いつも、誰がこいつの面倒を見てると思ってるですか? 足手まといがない分、余裕ですよ」
石尾「無理はするなよ」
瀬羅「こいつじゃねーんすから、平気ですよ」
瀬羅がビルの中へ入っていく。
石尾「よし、他の者は燃え広がらないよう、消火活動に当たれ!」
○ 同
石尾が指示を出しながら、チラリと腕時計を見る。
石尾「(四階を見ながら)十分か……」
瑞樹「(四階を見て)……」
すでに、四階の窓からは誰も見えない。
そこに瀬羅が現れる。
瀬羅「男性確保! 意識あり。今から、ロープで降ろします。バックアップ、お願いします!」
石尾と瑞樹が短く息を吐く。
石尾「よし! 斉藤と上杉! バックアップ」
瀬羅が男性をロープで縛り、ゆっくりと降ろしていく。
男性が降ろされ、隊員に保護される。
石尾「よし、瀬羅もすぐに降りてこい!」
その時、爆発音が響き、瀬羅がいる窓から一気に炎が吹き出す。
石尾「瀬羅!」
瑞樹「瀬羅さん!」