【シナリオブログ】勲章の痕③

○  バー
瑞樹と仙石が並んで座っている。
瑞樹「まさか、こんなところで会えるなんて思いませんでした」
仙石「僕もですよ。……それにしても、本当だったんですね」
瑞樹「何がですか?」
仙石「彼氏がいないって話」
瑞樹「本当に決まってるじゃないですか。ここ最近は、ずーーーといないですよ」
仙石「(瑞樹をじっと見て)ふーん」
瑞樹「(照れて)で、でも大丈夫だったんですかね、二人で抜け出してきちゃって」
仙石「幹事には話をしておいたし、大丈夫だと思うよ。会費も色を付けて、置いてきたしね……って、ダメだな。少し酔ったかも。素で話しちゃってるな」
瑞樹「別にいいですよ。私、堅苦しいの、苦手ですから」
仙石「それじゃ、瑞樹さんも敬語はなしで」
瑞樹「ええ! ……なんか、緊張しちゃう。年上の人に敬語使わないなんて」
仙石「慣れだよ。そのうち、気にならなくなるって」
瑞樹「そうかなぁ……」
仙石「今日の瑞樹さん、なんか雰囲気違うね。……服がいつもと違う感じだからかな?」
瑞樹「あ、実は友達に選んでもらったんだ。今日の幹事の、あの子」
仙石「へー。そうだ。この前なんだけど……」
仙石の話を聞いて、クスクスと笑う瑞樹。

○  瑞樹の家・外観
家の前にタクシーが止まる。
ドアが開き、瑞樹が出てくる。
瑞樹「今日はどうもありがとう。とっても楽しかった」
仙石「瑞樹さん。また、話せるかな?」
瑞樹「うん。お店、行くね」
仙石「いや、プラベートで」
瑞樹「え?」
仙石「また連絡する」
タクシーのドアが閉まる。
仙石が手を振っているのが、窓越しに見える。
瑞樹も手を振ると、タクシーが出発する。
瑞樹「……」
タクシーをジッと見る瑞樹。

○  三下消防署・事務室
瑞樹が机に頬杖ついて、ボーっとしている。
その隣で瀬羅が報告書を書いている。
瀬羅「……雨宮」
瑞樹「……」
瀬羅「おい! 雨宮!」
瑞樹「え? あ、なんですか?」
瀬羅「ボーっとしてんな。報告書出来たのか?」
瑞樹「報告書?」
瀬羅「お前がさっきから、ずーっと書いてるやつだよ」
瑞樹「あ、これ、今日の日報です」
瀬羅「……なんで、まだ終了時間じゃないのに、日報、書いてんだよ」
瑞樹「でも、ほら、あと三十分じゃないですか。今日は何もないですよ」
そう言った瞬間に、放送がかかる。
アナウンス「救急指令。瀬羅救急隊、出動。火災事故。新上一丁目……」
瀬羅「残念だった」
瑞樹が目の色を変えて、立ち上がる。
瑞樹「行きましょう!」
瀬羅「(笑みを浮かべて)ったく」

○  white snow内・応接室
瑞樹と仙石が向かい合って座っている。
仙石が瑞樹の顔にペンライトを当て、火傷の痕を観察している。
瑞樹「なかなか、返事、返せなくてごめんなさい……」
仙石「ん? (笑って)仕事、忙しいみたいだね。別に、気にしなくても大丈夫だよ。手が空いたときに返してくれれば」
瑞樹「……」
仙石「これでも一応、社長してるからね。忙しいときに返せないっていうのはわかるってるつもりだよ」
瑞樹「でも……」
仙石「(頭を掻いて)参ったなぁ。そこまで悩まれると、メールし辛くなる」
瑞樹「あ、いや。そんなつもりじゃ……」
仙石「冗談だよ。……えーっと、そうだなぁ。じゃあ、今度の休みの日にデートしよう。それでチャラってことでどう?」
瑞樹「ええ!? デ、デート?」
仙石がペンライトを消し、紙にペンで記入し始める。
仙石「あら? 嫌だった?」
瑞樹「そ、そんなことないです」
仙石「(ニコッと笑って)じゃあ、決まり」
瑞樹「……」

○  駅前・広場
仙石が柱時計の下で待っている。
そこに瑞樹が走ってくる。
瑞樹「遅れちゃって、ごめんなさい!」
仙石が時計を指差す。
時計はちょうど十時を差している。
仙石「(笑って)凄い。時間ピッタリだよ」
瑞樹「(照れ笑い)はは……」
仙石「あと、謝るのは僕の方かも」
瑞樹「え?」
仙石が顔の前で両手を合わせる。
仙石「ごめん。デートに誘ったのはいいけど、デートコース考えてなかった」
瑞樹「いや、こっちこそ、お任せしようと思って、全然考えてなかった」
仙石「どこか、行きたいところある?」
瑞樹「あっ! ……あー、いや、特には」
仙石「いやいや。嘘でしょ。今、絶対、行きたい場所、思いついたよね?」
瑞樹「……さすがに、どうかなって感じなんで」
仙石「大丈夫だよ。言ってみて」
瑞樹「……実は」

○  防災グッツセンター外観
『防災グッツセンター』という看板が立っている。

○  同・センター内
所狭しと防災グッツが並んでいる。
センター内にはほとんど人はいない。
瑞樹「うわー。すごーい!」
瑞樹が子供のようにはしゃいで、グッツを手に取る。
瑞樹「緊急脱出ツールの新作出たんだ」
仙石「それは、何に使うの?」
瑞樹が操作すると、緊急脱出ツールからナイフが出てくる。
瑞樹「こうやって、緊急時にシートベルトを切ったり」
さらに操作すると、ハンマーになる。
瑞樹「こうやって、車の窓ガラスを割ったりするんだよ」
仙石「へー。なかなか、コンパクトに作ってあるんだね」
瑞樹「そうなの! これのいいところは、やっぱりコンパクトで場所を取らないってところで……あ、救急セット安い!」
瑞樹が緊急脱出ツールを持ったまま、走っていく。
その様子を微笑んで見ている仙石。

○  通り
買い物袋を持った瑞樹と仙石が並んで歩いている。
瑞樹「(俯いて)なんか、ホント、ごめんなさい」
仙石「いや。楽しかったよ。今って、あんなに多くの種類の救急道具があるんだね」
瑞樹「うう……。初デートなのに、私だけはしゃいだ上に、買ってもらうだなんて。もうダメだ。恥ずかしくて死にたい」
仙石「気にし過ぎだって。それに、僕も、ほら(ポケットから緊急脱出ツールを出して)便利な物、買えたし」
瑞樹「あうう……」
肩を落とす瑞樹。
そのとき、遠くからサイレンが聞こえる。
瑞樹の目が真剣になり、顔を上げる。
瑞樹「……」
ポケットから携帯を出して、画面を見る瑞樹。
携帯の画面には着信はない。
仙石「どうかした?」
瑞樹が慌てて携帯をしまう。
瑞樹「いや、別に……」
それでも、サイレンがした方向を見る。
瑞樹「……」

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