鍵谷シナリオブログ

【シナリオブログ】妖怪退治は放課後に 第2話①

人物表

芹澤 和馬(16)生物研究会新入り
蘆屋 千愛(17)陰陽師
戦国 夏姫(17)生物研究会東棟支部長
園原 雫(17)生物研究会部員

手塚 学 (17)生物研究会南棟支部長
和泉 京太(16)和馬のクラスメイト
賀茂 珠萌(16)和馬のクラスメイト

その他

○ シーン 1
書き物をしている、手塚学(17)。
学校のチャイムが鳴り響く。

手塚「(手を止めて)もう、こんな時間か……」

ガチャリとドアが開き、一人の男子部員が入ってくる。

部員1「あれ? 手塚支部長、まだ残ってたんですか?」
手塚「文化祭が近いからね。やることも、膨大に残ってるんだ。君こそ、遅い時間まで頑張ってるね」
部員1「いいえ、そんな……。あっ、これ、第三バトミントン部の予算報告書です」

男子部員が、鞄から紙を取り出す。

手塚「ご苦労様。助かるよ」
部員1「うちの方は、全部揃ったんですが、東棟支部の方の提出が遅れてますよ」
手塚「夏姫くんのところか……。まあ、あそこの支部は人が少ないからね。色々、大変なんだろう」
部員1「少なすぎですよ。『生研』で、三人しかメンバーがいないなんて、前代未聞です」
手塚「(笑って)まあ、夏姫くんは、少しクセのある人だからね。その下で働くには、それなりにクセのある人じゃないと勤まらないさ」
部員1「東棟って言えば、聞きました? あの噂」
手塚「ん? ……ああ。生徒が意識不明の状態で見つかった事件のことかい?」
部員1「あれって、幽霊の仕業だったらしいですよ。生徒の間じゃ、ちょっとした話題になってます」
手塚「君は、信じてるのかい?」
部員1「え?」
手塚「幽霊」
部員1「ま、まさか……。いるはずないですよ。幽霊なんて」
手塚「そうだな。いるわけないか……。では、そろそろ帰るとするか」

手塚が立ち上がると同時にカランと、床に石が落ちる。

部員1「あ、何か落ちましたよ。……奇麗な青色ですね。宝石ですか? これ」
手塚「ラピスラズリ。日本では、瑠璃ってよばれる宝石だよ。一年生の女生徒にもらってね」
部員1「手塚支部長は、モテて羨ましいです」
手塚「別に、そういうんじゃないさ。……そういえば、その幽霊の事件を解決したって一年生……。なんて名前だったかな?」
部員1「東棟の新入りですよね? えっと、確か……。そう。芹澤。芹澤和馬ですよ」
手塚「芹澤……」

○ シーン 2
周りは、生徒たちの声で騒々しい。

夏姫「和馬ぁ、早く来い!」
和馬「(走って来て)待ってくださいよ。夏姫先輩」
夏姫「グズグズしてると、日が暮れちまうぞ。で? 次はどこの部だ?」
和馬「(紙をめくって)……えっと、弓道部ですね。出し物は、コスプレ喫茶です」
夏姫「弓道と関係ねぇじゃねえか。ま、ちょっとでも過激だったら、中止させるぞ」
和馬「部費を稼ぐチャンスですからね。どこの部も出し物に関して、必死みたいですよ」
夏姫「まったく……。売り上げの半分を部費に使っていいなんて決まりを作るからだ」
和馬「まあまあ、そのおかげで、大盛り上がりなんですから。……そういえば今年から、商店街が協力してくれるそうですね」
夏姫「商店街? あのさびれた商店街がか?」
和馬「え? 何言ってるんですか。あそこは、凄い栄えてますよ」
夏姫「へー。今は、そうなのか。……そういえば、こっちに戻ってから、行ってねえな」
和馬「……こっちに戻ってからって、先輩、元々ここの人じゃなかったんですか?」
夏姫「……ん、まぁ……な。それより和馬。お前、そろそろ千愛の所に行っていいぞ」
和馬「え? でも、まだ五時前ですけど……」
夏姫「あとは俺一人でも大丈夫だ」
和馬「……でも」
夏姫「ほら、さっさと行けって」
和馬「(寂しそうに)じゃあ、行ってきます」

歩き出す和馬。

夏姫「おい、占星クラブの部室なら、こっちの方が近いぞ」
和馬「(立ち止まって)いえ、そっちの廊下は、準備してる生徒のせいで、ほとんど進めないんですよ。人がいない道を、クラスメイトに教えてもらったんです」
夏姫「へぇ……。まあ、しっかり働いてこい。千愛によろしく言っておいてくれ」
和馬「わかりました」

○ シーン 3
和馬が静かな廊下を、一人歩いている。

和馬「やっぱり僕が情けないから、先輩は昔のことを話してくれないんだよね。……そりゃ、いつも荒っぽいことから逃げてるけど……。よし! 決めた。もう荒っぽいことや怖いことでも、僕は絶対に逃げないぞ」

後ろから、ヒタヒタという足音する。

和馬「ん?」

和馬が止まると、ヒタヒタという足音も止まる。それを、何回か繰り返す和馬。

謎の声「ギギギィ」
和馬「……まさか。……またぁ?」
謎の声「ギギギィ」
和馬「やっぱりっ!」
謎の声「(襲ってきて)ギガァァァ!」
和馬「うわぁー。助けてぇ、千愛せんぱーい」

和馬が走り出し、謎の足音がその後を追っていく。

○ シーン 4
占星クラブ、部室。
静かな教室の中で、芦屋千愛(17)の本をめくる音が響く。
そこに、騒々しい足音が近づき、勢い良くドアが開けられる。

和馬「千愛先輩、助けてくださいっ!」
千愛「……もう少しで読み終わるから、待っててくれるかしら(本のページをめくる)」
和馬「僕の命も、もう少しで終わりそうなんですけど!?」

そこに妖怪が一匹、教室に乱入してくる。

妖怪「ギ、ギギギ……」
和馬「うわぁ、来たぁ。って、先輩、いいかげんに本を読むのを止めてください」
千愛「はぁ。しょうがないわね(立ち上がる)」
和馬「あの……なんなんですか? この小さくて子供みたいな、角が生えた化物は」
千愛「悪鬼。家に住み着くとされる妖怪よ」
和馬「鬼ですか? この前の木ノ下くんの事件の時と同じ?」
千愛「あれは、まだ完全に鬼になる前の状態。この悪鬼は、完全に鬼……妖怪よ」
和馬「な、なんとかしてください」
千愛「悪鬼を退ける方法としては、節分に豆を撒くという方法があるわ」
和馬「節分は、四か月前に、終わってます!」
千愛「他には、イワシの頭を豆がらに通して、唾をつけて焼き、裏戸に刺すって方法もあるわね」
和馬「だから、今できることでお願いします」
妖怪「ギギギ……」
和馬「って、うわぁ、来たぁ」
千愛「……滅」

千愛が霊符を発動し、妖怪が消滅を始める。

妖怪「ギ、ギ……」
和馬「消えた……。助かったぁ」
千愛「随分と妖怪にもてるようになったわね」
和馬「……そんなの嬉しくないです」
千愛「今日で四日連続ね。妖怪に襲われたの」
和馬「自分でもビックリですよ」
千愛「ということは……私は和馬くんを四回助けたことになるわね」
和馬「え、ええ。まあ、そうなりますね」
千愛「ところで和馬くんは、どうしてこの占星クラブに通っているのだったかしら?」
和馬「それは……以前、事件を解決してもらった報酬を労働で返すために……」
千愛「(和馬の言葉を遮って)そう。和馬くんは、報酬を支払うためにここに来てるのよ。それなのに……私が! 和馬くんのために! 働いてるわね」
和馬「うっ! ……そ、そうですね」
千愛「今日で、四回目。現段階で、和馬くんの私への貸しは、24時間休まず働いて二年になるわ」
和馬「安っ! 僕の労働条件、すごく安いですよ!」
千愛「あら、そうかしら?」
和馬「だって、たった四回助けてもらって、二年ですよ? 一回で半年って、どれだけ僕の時給、安いって話ですよ」
千愛「……和馬くん。もし、私が助けなかったら、あなた、どうなってたと思う?」
和馬「え? それは……怪我してたとか……」
千愛「死んでたのよ」
和馬「ええっ!」
千愛「(呆れて)相手は妖怪なのよ。前回の幽霊だって、結構、危険だったってことを自覚した方がいいわね」
和馬「そうだったんですか……」
千愛「どう? 私は、和馬くんの命を四回助けたの。それをたった24時間休まず二年間の労働でいいと言ってるのよ? 破格だと思わないかしら?」
和馬「そう言われると……」
千愛「と、言うわけで、和馬くんは私が卒業するまで、奴隷として働くのよ」
和馬「奴隷っ!」
千愛「(笑って)ふふっ、冗談よ。冗談。……半分は、ね」
和馬「……半分は本気ってことですよね。……それより千愛先輩。やっぱり、妖怪に襲われるようになったのって、僕の霊感が強くなったからなんですか?」
千愛「(思案して)それもあると思うけれど……。おかしいのよ」
和馬「何がですか?」
千愛「確かに和馬くんは、他の人よりも霊感……霊力の流れは良くなったわ。でも仮に、和馬くんの霊力が、日本で一番強くなったとしても、こんな状況は、まずありえない」
和馬「(戸惑って)でも、現に襲われてるじゃないですか」
千愛「だから、おかしいって言ってるのよ」
和馬「……意味が、よくわかりません」
千愛「あのね、昔なら分けるけど、現代では、活動している妖怪の数はごく少数なのよ」
和馬「そうなんですか?」
千愛「前にも言ったと思うけど、妖怪が消費する霊力は膨大よ。霊力を確保し辛い現代で、妖怪をやっていくのは、すごく大変なことなのよ」
和馬「……なんか、不景気のサラリーマンみたいな感じですね」
千愛「ほとんどの妖怪は、霊力が溜まっている場所に寄生して、眠り続けてるの。霊力の消費を最小限に抑えて、存在を維持するのが普通。動きまわる、まして、人を襲って霊力を消費するなんて自殺行為に近いわ」
和馬「じゃあ、そこまでして僕を襲うのに、何か理由があるんですかね?」
千愛「わからないわ。襲われたのが一回なら、偶然見かけた霊力の高い和馬くんをつまみ食いしようとした、で話が終わるのだけど……」
和馬「人をお菓子みたいに言わないで下さい」
千愛「四日連続となると、偶然という線は、ないわね。和馬くんの他には、襲われた生徒はいないのかしら?」
和馬「……そんな報告は上がってきてないですね。前の事件のこともあるので、放課後は、みんな警戒してると思いますから」
千愛「……そう。これは、ちょっと調べてみる必要があるわね。和馬くんに何かあったら大変だもの」
和馬「え? (嬉しい)僕のこと、心配してくれるんですか?」
千愛「もちろんよ。奴隷がいなくなったら、困るもの」
和馬「(ガッカリ)……そうですよね」
千愛「(クスリと笑い)とにかく、どうやって和馬くんを妖怪に襲わせているのか。それが今回の事件の鍵ね」
和馬「はぁ……。どうして、こう変な事件ばっかりに巻き込まれるんだろう……」
千愛「日頃の行いのせいじゃないかしら」
和馬「千愛先輩にだけは言われたくないです」

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