○ 神田原遊園地・舞台裏・休憩室
怪人姿の響子が、休憩室の中をウロウロしている。
山城「加納さん、少し落ち着いてください」
香田「人が多くても、やることは一緒だ」
響子「……(ソワソワ)」
山城「それにしても、集まりましたね」
香田「日曜日だからな」
山城「香田さんが、入ってた時だって、こんなに集まったことないですよね」
香田「(ムッとして)三連休だからな!」
響子「……(ソワソワ)」
○ 同・舞台
舞台の前に、人だかりが出来ている。
子供はもちろん、その親や、学生の姿も見える。
舞台では、五人のヒーローが雑魚敵と戦っている。
そこに、観客の野次が飛ぶ。
中年男性「いいから、怪人出せぇー!」
子供たち「怪人さーん!」
ドッと笑いが起こる。
○ 同・敷地内
原田が、男子生徒二人と共に、アイスを食べながら歩いている。
原田「お前、ガキかよ。今更、ヒーローショー見たいなんてよ」
男子生徒1「いや、それが結構すごいみたいなんだって。噂、すごいんだって」
男子生徒2「プロ、顔負けってやつ」
原田「プロっつても、ショーは、ショーだろ。くだらん」
その時、ワッと歓声が上がる。
原田「ん?(騒がしいほうを見る)」
人だかりの向こうに、舞台が見える。
男子生徒1「あ、あれあれ」
男子生徒2「行ってみよ」
原田「気が進まんな」
歩き出す三人。
○ 同・舞台
ヒーロー五人が、怪人に攻撃する。
怪人はバク転、バク宙、側転で軽やかに避けていく。
そのたびに、観客が拍手をする。
ヒーロー1が、飛び蹴りをする。
怪人はかわそうするが、突き出た顎に当たり、頭の部分が取れる。
響子「ああっ!」
慌てて、拾いにいく怪人。
ドッと笑いが起こる。
○ 同・観客側
人だかりの後ろから見ている原田たち。
原田「(響子の顔を見て)ん? あれって……」
○ 同・舞台裏(夕方)
山城と向かい合うように、響子や、ヒーローたち、香田、スタッフ達が立っている。
山城「今日も、お疲れ様でした」
一同「お疲れ様でした」
山城「大盛況でしたよ。(響子を見て)ただ、少しアクシデントがありましたが」
響子が恥ずかしそうにうつむき、一同がドッと笑う。
山城「それでですね、大ニュースがあります」
一同が静まりかえる。
山城「何とですね、評判を聞きつけて、あるところが、うちとコラボしたいって言ってきました」
一同、山城の言葉に聞き入る。
山城「それは、何と『ガオレイン』です!」
スタッフ1「ええ! すごーい!」
スタッフ2「ガオレインって、今、すごい流行ってる戦隊のよね」
山城「しかもです。なんと、ガオレインのスタントをやってる本人が来てくれるんです」
響子「(目を見開いて)!」
スタッフ3「うわーっ。本物だって、サインもらおうっと」
響子の横にいる香田が、ポンと響子の肩に手を置く。
香田「大丈夫だ。あんたの動きなら、プロにだって引けをとらんさ」
響子「(引きつった顔で)は、はい……」
× × ×
部屋には、響子しか残っていない。
椅子に座っている響子。
響子「はぁ……。どうしよう……」
ガチャリと、休憩室のドアが開く。
山城が入ってくる。
山城「良かった。まだ残っていてくれてたんですね」
響子「山城マネージャ……。どうしたんですか?」
山城「実は……、加納さんに話があるんですよ」
響子「私に、ですか?」
山城「(真剣な顔で)ちょっと来てくれませんか」
響子「(ドキドキ)は、はい!」
○ 同・事務室
山城と響子が入ってくる。
山城が振り向き、響子の両肩を掴んで迫る。
山城「実は、私! 加納さんを一目見たときからっ!」
響子「え……、ええっ!」
山城「惚れしてしまったんです」
響子「(ドキドキ)きゅ、急に言われても……」
山城「(ハッとして)すいません。つい興奮してしまって……(手を離す)」
響子「(ドキドキ)い、いえ」
山城「それで、加納さんに見てもらいたいものがあるんです」
響子「……なんですか?」
山城「……」
山城が歩き出し、部屋の隅に置いてある、なにやら布に覆われているものの前で止まる。
山城「これです!」
山城が布を掴み、バッと布をとる。
布の下には、響子が着ている怪人の着ぐるみがあった。
響子「……え?」
山城「見てください。ここ」
山城は、着ぐるみの右手の部分を開いて見せる。
親指のところに、ボタンのようなものがついている。
山城「ここを押すと……」
山城がボタンを押すと、着ぐるみの口の部分から火が、ゴーっと出る。
響子「きゃっ!」
山城「(得意気に)どうですか? すごいでしょ」
響子「(戸惑って)……あのこれは?」
山城「私、加納さんのあの、初舞台の動きを見て、『これだ!』って思ったんです。あなたは、着ぐるみの天才だ。あの動きに、私は惚れたんです」
響子「え? 動き?」
山城「これで、本場のヒーローを驚かせてやりましょう!」
響子「……そ、そうですね。(大きくため息)まあ、そうよね……(ガッカリ)」
○ 学校・校門前(夜)
正治が学校の校門から出てくる。
男の声「よう、正治! 随分、遅くまで残ってるんだな」
正治「え?(顔を上げる)」
街灯の下に立っているのは、スーツ姿の飛田明(38)だった。
正治「(驚いて)……父さん」
○ ファミリーレストラン
明と正治が向かい合わせに座っている。
明「三年ぶり、くらいか」
正治「……急にどうしたの?」
明「いやぁ。仕事でこっちの方に来ていてな。それで、久しぶりに会いたくなったんだ」
正治「ふーん」
明「なあ、正治。一緒に暮らさないか?」
正治「!」
明「妻も、了承済みだ。どうだ? 父さんと暮らさないか?」
正治「……」
明「仕事も順調だし、お前には辛い思いはさせない。今よりはいい暮らしを約束するぞ」
正治「別に……。今の暮らしに不満があるわけじゃないし」
明「お前が父さんと暮らせば、響子だって楽になるはずだろ」
正治「!?」
× × ×
ヘトヘトで、ソファーに寝ている響子の姿。
× × ×
正治「……」
明「な? そうしろよ」
正治「少し、考えさせて」