【シナリオブログ】決着はヒーローショーで⑤

○ 加納家・キッチン
テーブルの上には料理がある。
響子は椅子に座って、頭をかかえている。
響子「(深いため息)いやだなぁ……」
そこに、ドアが開き、正治が入ってくる。
正治「ただいま。……今日、ご飯いらないから。食べてきた」
そのまま、居間を出て行く正治。
響子「え? ちょっと、正治。どうしたの? 誰と食べてきたの?」

○ 同・正治の部屋
正治が入って来て、鞄をベッドの上に放り投げる。
机に向かい、頭を抱える。
正治「……」
×  ×  ×
明「お前が父さんと暮らせば、響子だって楽になるはずだろ」
×  ×  ×
正治「(重いため息)」

○ 学校・教室(日替わり・夕方)
教室で勉強している正治。
そこに、原田たちが入ってくる。
原田「おっと、まだいたのかよ。先生た ちだって、ほとんど帰ったぞ」
正治「……(無視して勉強を続ける)」
男子生徒1「先生が全員帰るまでは、あきらめないんじゃない?」
原田「まあ、必死なのはわかるけどよ。親があんな、恥ずかしい仕事してるんだ。そりゃ、頑張らないとな」
正治「!」
男子生徒2「あれは、ビックリしたよね。まさか、怪人役してるなんて」
正治「(立ち上がって)どういうことだよ!」
原田「あん? おまえ、親の仕事も知らないのか? のん気なもんだな。お前のおばさん、ヒーローショーで着ぐるみ着て、踊りまくってたぜ」
正治「嘘だ!」
原田「は? 何が嘘だよ。俺は、確かに見たんだ」
正治「(つぶやくように)そんな、母さんが、また着ぐるみ着るなんて……」
原田「何だ、聞いてなかったのか? 隠したい気持ちも解るけどな」
正治「嘘だ……」
男子生徒「仕方ないんじゃない? あれって、結構給料いいんでしょ」
正治「!」
原田「まあ、お前がいなければ、おばさんだって、あんな仕事しないんじゃないか」
正治「……ぼくの、せい」
原田「あー、お前みたいな、ウジウジした優等生が嫌いなんだよ。早く帰れ」
正治「……」

○ 加納家・リビング
響子が、一枚の写真を見ている。
二十代の頃の響子が、怪獣の着ぐるみを着て、笑っている写真。
響子「……いつまで、引きづってるんだろ……」
そこに、正治が、勢い良くドアを開けて、入ってくる。
正治「どういうことだよ、母さん!」
響子「(唖然と)え?」
正治「ショーとは、関係ない仕事だって言ったのに」
響子「正治……、どうして、それを」
正治「もう過去には囚われない、もうショーの仕事はしないって言ってただろ」
響子「正治、これはね……」
正治「母さんは、いつもそうだよ。何でも自分だけで決めて。僕には何にも教えてくれない」
響子「それは、あんたに心配をかけたくなくて……」
正治「仕事変えたのだって、何にも相談してくれないでさ」
響子「違うの。あれは、前の職場がクビになったから。あっ(しまった!)」
正治「どうして、そんな大事なこと、黙ってるの? それなら、僕だってバイトとか、家事だって手伝うのに」
響子「母さんは、正治にそんなことして欲しくないからよ」
正治「何言ってるのさ。家族でしょ。困った時は、助け合うのが当然だよ」
響子「あんたは、何も心配しないで、やりたいことをしてればいいの!」
正治「もう、うんざりだよ! そんなの、自分が出来なかったことを、僕に押し付けてるだけだろ。ただ、母さんは、父さんに意地を張ってるだけなんだ」
響子「え?」
正治「僕を引き取るって言ったから、ちゃんと自分ひとりで育てれるんだって、お父さんに見せ付けたいだけだろ!」
響子「!」
響子が正治の頬を叩く。
響子「あんた、本当にそんなこと、思ってるの?」
正治「僕、父さんと暮らすことにするよ」
響子「え?」
正治「父さん、一緒に暮らさないかって言ってくれたんだ」
響子「ちょっと待ってよ。それって」
正治「僕がいなくなれば、母さんは、自分のしたいことができるようになるだろ」
正治がリビングから出て行く。
響子「……(呆然と)」
正治が家から出て行く音が聞こえる。
家の中が、静寂に包まれる。

○ 街路(夜)
正治が歩きながら、携帯電話で話している。
正治「あ、父さん。……うん。そっちで 暮らすよ。……うん。じゃあ」
電話を切る正治。
正治「(空を見上げ)……」

○ ファミリーレストラン(日替わり)
響子が席に座っている。
響子「……(落ち込んで)」
恵美の声「響子、お待たせ」
響子「(顔を上げて)……恵美」
恵美「(席に座って)ごめんね、遅れちゃって」
店員が、恵美の前に水を置く。
響子「ううん。こっちこそ、ごめん。急に呼び出しちゃったりして……」
恵美「気にしないでよ。水臭いなぁ。(店員に)あ、私、アイスコーヒーね」
店員が「かしこまりました」と下がっていく。
恵美「……で? どうしたの?」
響子「うん……。実はね……」
×  ×  ×
響子「……」
恵美「なるほどね……」
テーブルの上のグラスには、ほとんどアイスコーヒーが残っていない。
響子「私、正治が何を考えてるのか、全然分からない」
恵美「うん。それは当たり前だよ」
響子「え?」
恵美「響子、あんたねぇ。親だからって、子供の気持ちが全部分かるのが当然だと思ってるの?」
響子「……でも」
恵美「親子だって、ちゃんと話し合わないと、相手の気持ちなんてわからないよ。……ちゃんと、仕事のこととか相談するべきだったんだよ」
響子「でも、あの子には、変な心配かけたくないし……」
恵美「それを、正治くんは望んだの?」
響子「……!」
恵美「相談されないってことは、頼りにされてないってことよ。正治くんは、お母さんを助けたいって思ってたんじゃないの?」
響子「!?」
×  ×  ×
フラッシュバック
正治「何言ってるのさ。家族でしょ。困った時は、助け合うのが当然だよ」
×  ×  ×
響子「……あ」
恵美「響子。あんたは、どうしたいの?」
響子「……正治と、一緒に暮らしたい」
恵美「(微笑んで)うん。じゃあ、その気持ち、ちゃんと伝えないと」
響子「(決意した目)ありがとう、恵美」

<4ページ目へ> <6ページ目へ>