○ シーン 1
人々が、こそこそと話す声。
男1「聞いたか? 蘆屋家の一人娘の話」
女1「なんでも、六歳で基礎、四禁呪(よんきんじゅ)を使いこなすそうよ」
男2「しかも、刀禁呪(とうきんじゅ)に関しては、詠唱を略して発動させるんだとよ」
男1「晴明以来の天才だな。それに比べて、安倍本家の娘は……(ため息)」
ヒソヒソ話が遠くなっていく。
爆発音が響き渡る。
男1「おい! なんだ、今の爆発は!」
男2「安倍の、本家の娘だ。また、召喚に失敗したみたいだぞ」
男1「本当に才能ないんだな。本家としても恥だろ。いつまでも、家に置いておくのは」
爆発で騒ぐ声が遠くなっていく。
五歳の女の子の叫びのような声。
女の子「なんで? なんで、出て行かないといけないの、お父さん」
父親「才能がないからだ。お前に……蘆屋家の娘の、半分ほどでも才があれば……」
女の子「お父さん、お父さーん!」
女の子の叫びが遠くなっていく。
女の子の独白。
女の子「許さない。絶対に許さない。あんたさえ、いなければ……。蘆屋……千愛」
○ シーン 2
チャイムの音。
芹澤和馬(16)、戦国夏姫(17)、園原雫(17)が、事務作業をしている。
パソコンを打つ音と、物を書く音。
そして、書く音がピタリと止まる。
夏姫「あー、ダメだ。やってらんねぇ。書類書きなんて、俺のガラじゃねえよ」
和馬「夏姫先輩……まだ、始めてから、二時間も経ってませんよ。もう時間ないんですから、頑張ってやりましょうよ」
夏姫「和馬は真面目過ぎんだよ。くそっ、文化祭なんか、やらなきゃいいのによ」
和馬「生研としては、見回りとか、色々大変なだけで、見返りないですもんね」
夏姫「報酬がねえと、やる気なんか、出ねえってんだ!」
和馬「夏姫先輩は、貰えるとしたら、どんな報酬が欲しいんですか?」
夏姫「そうだな。世界チャンプとの対戦権利とか、部室にジムを作るとか、あとは……」
和馬「すいません。聞いた僕が、バカでした。でも、確かに報酬じゃないですけど、この時期は、部費を上げて欲しいですよね」
夏姫「あん? 部費? うちって、そんなにヤバイのか?」
雫「危機的状況……」
夏姫「なんでだよ、雫。お前、無駄遣いしてんじゃねえだろうな」
和馬「(ため息)先輩が暴れて、色々物を壊すからですよ。修理費は、全部生研の部費から出てるんですからね」
夏姫「……ちっ。揉め事、止めんのは、色々大変なんだよ」
和馬「どっちかっていうと、夏姫先輩が揉め事を大きくしてるように感じますけど」
夏姫「……うるせえ奴だな。お? もう、こんな時間か。今日は、ここまでにしようぜ」
和馬「ダメです。文化祭まで、もう日にちがないんですから、今日中に各部活の報告書だけは、まとめておかないと」
夏姫「だから、お前は、真面目過ぎんだよ」
和馬「何て言われても、結構です。はい、続けますよ」
夏姫「……ちっ。そうだ、お前。そろそろ、千愛んとこに、行かなくていいのか?」
和馬「え? あっ、もう七時なんですね。でもまだ、こっちの仕事残ってるし……」
夏姫「大丈夫だ。あとは、俺と雫でやる」
和馬「そんなこと言って、帰るつもりじゃないんですか?」
夏姫「(動揺して)ば、バカ言うな。お前、放課後は千愛のところで、働くって約束だろ? 千愛に小言いわれんの、俺なんだぞ。早く行け」
和馬「でも……」
夏姫「(真剣な声で)あいつが狙われてるの、知ってるだろ?」
和馬「……僕がいたところで、何もできせんから。いや、逆に足を引っ張っちゃいます」
夏姫「妖怪相手じゃ、何もできないって悩む気持ちは、分かる。けどな、何もできなくたって、傍にいてくれるだけで、随分と気持ちが楽になるもんだぞ」
和馬「僕は、僕のやれることをやりたいんです」
夏姫「ふーん。それで最近、夜遅くまで残ってるのか。けど、犯人探しは、雫も、学もやってる。はっきり言って、お前が二人よりも、調べ物が得意だとは思えんぞ」
和馬「それは、そうですけど……」
夏姫「とにかく、千愛についててやれ。これは、命令だ」
和馬「……分かりました。それじゃ、占星クラブの方に、行ってきます。後、宜しくお願いしますね」
夏姫「おう! 任せとけって!」
和馬「……すっごく、心配です」
和馬が立ち上がり、部室を出ていく。
夏姫「……よし。じゃあ、帰るか、雫」
雫「ダメ……」
夏姫「……残りは家で、やってくるからよ」
雫「ダメ……」
夏姫「牛丼、おごってやるから……」
雫「ダメ……」
夏姫「くっそ。雫の攻略の方が大変だった」
雫「早く、続きやって……」
夏姫「……和馬を行かせたのは、完全に失敗だったな。(ため息)仕事が増えちまった」
仕事を再開する、夏姫と雫。