〇 学校・教室(昼休み)
机で本を読んでいる天沢優馬(16)。
ちらりと顔を上げて番前の席に座り、本を読んでいる一ノ
瀬花音(16)を見る。
ニコリと微笑み再び本を読み続ける優馬。
〇 同・体育館裏(夕方)
同級生の男2人に絡まれている優馬。
男子生徒1「優馬、お前、いつも本ばかり読んでて楽しいのか?」
優馬「楽しいから、読んでるんだけどね」
男子生徒2「ふーん。まあ、いいや。なあ、今週もさあ、お金なくなっちゃったんだよ。ちょっと貸してくれねえ?」
優馬「悪いけど、俺も貸して欲しいくらいピンチなんだよね。新しい本が明日、発売だし」
男子生徒1「へー。じゃあ、金はいいや。その代わりストレス発散に協力してくれよ」
優馬「……拒否権は?」
男子生徒2「ねえよ!」
男子生徒2人に、殴られ始める優馬。
〇 図書室
その様子を、机に座り、窓から見下ろしている花音。
花音「……」
〇 同(夜)
机に座り、本を読んでいる花音。
そこにボロボロの姿の優馬が入ってくる。
花音の後ろの席に座り、本を読み始める。
花音「……(振り向かずに)保健室、行ったら?」
優馬「時間が勿体ない」
花音「いい加減、先生に言ったら?」
優馬「大ごとにしたくないんだよなぁ」
花音「十分、大ごとだと思うけど」
優馬「イジメなんて親が知ったら、転校とかになっちゃうからさ」
花音「……その選択肢も悪くないんじゃない?」
優馬「ないね。最悪だよ」
花音「どうして?」
優馬「君に会えなくなるだろ」
花音が、その言葉を聞いて、嬉しそうに微笑む。
花音「……その割には、隣に座ったりしないのね」
優馬「俺のせいで、君までイジメの標的にされたくない」
花音「(小声で)そんなの、気にしなくていいのに」
優馬「とにかく、俺は、今の生活が気に入ってるんだ」
花音「……そう」
優馬「そういう君は、いつも本ばかり読んでてつまらなくない? たまには友達と遊んだりしたら?」
花音「愚問ね。同じ質問をされたら、あなたならなんて答える?」
優馬「……確かに、愚問でした」
花音「(微笑んで)でしょ?」
そのとき、チャイムが鳴り響く。
優馬と花音が同時に立ち上がる。
二人とも目を合わせずにすれ違う。
優馬「また明日」
花音「また明日」
〇 道路(夜)
人気のない道を歩く優馬。
すると突然、目の前に手のひらサイズの猿のような生き物が現れる。
灼猿「毎度ながら優馬殿の行動には、理解し兼ねます。なぜ、花音殿の言うように、面と向かってお話をしないのです?」
優馬「あの子にも言っただろ。俺のせいで、あの子に迷惑をかけたくない」
灼猿「そもそも、あの不届きな輩も、ワタクシたちの力を使えば、撃退できますでしょうに」
優馬「召喚術なんて使ったら、それこそ大騒ぎだ。学校にいられなくなる」
灼猿「しかしですね……」
優馬「それに、人前には出てくるなって言ってるだろ」
灼猿「大丈夫ですよ。ワタクシの姿は優馬殿以外には見えませんから」
優馬「だとしても、この状況だと、俺が独り言言ってるみたいだろ」
灼猿「それもそうですね……」
灼猿が真剣な顔になる。
灼猿「優馬殿……」
優馬「……現れたのか?」
灼猿「街の方です」
優馬「ったく、なんで毎度毎度、的外れなところばかり狙うんだよ。さっさと俺を倒しに来ればいいじゃねーかよ」
灼猿「優馬殿を倒すのが目的ではないかのかもしれません」
優馬「……俺を倒す以外の目的って、なんだよ?」
灼猿「それはワタクシにもわかりません」
優馬「まあ、話は後だ。向かうぞ」
優馬は周りを見渡し、人がいないことを確認する。
灼猿「はい。では、いきますよ」
灼猿が指を鳴らすと、優馬の顔に炎の仮面と、体には炎の鎧が出現する。
〇 街中
町中では氷の魔物が暴れ回っている。
人々が悲鳴を上げて、逃げている。
氷の魔物「ぐおおおおお!」
建物を壊し続ける魔物。
氷の魔物「コワす、スベテ、コワシテヤる」
優馬の声「いい加減にしろ!」
その声に反応して、氷の魔物が動きをピタリと止める。
氷の魔物が振り返ると、そこには優馬の姿。
氷の魔物「ジャマ……スルな」
優馬「だったら、先に邪魔者の俺を倒せよ。毎回毎回、町を破壊しやがって」
氷の魔物「ワタシはカエル……」
優馬「変える? 何をだ?」
氷の魔物「スベて。ゼンブコワシて、セカイをカエル」
優馬「……まあ、確かに何かを変えるには、まずは壊さないとならないっていうのはわかる」
灼猿「……優馬殿。何を敵に同調してるんですか!」
優馬「別に同調してるわけじゃねーけど、理解はできるって話だ。何もかも、壊したくなるときって、あるよな」
灼猿「……優馬殿」
優馬「けどさ、俺は今の生活を変えたくねーんだ。だから、悪いが、邪魔するぜ」
氷の魔物「ぐおおおおおお!」
優馬に襲い掛かる氷の魔物。
優馬「灼猿、炎牛を召喚だ。形状は第三」
灼猿「はい! 第弐使徒、炎牛、応えなさい」
灼猿の声と同時に、優馬の体は強い炎に包まれ、さらには頭には牛のような角の炎が出現する。
優馬「いくぞ!」
優馬が氷の魔物に突っ込む。
氷の魔物「……」
氷の魔物が目を見開くと、魔物の周りに無数の氷の矢が発現する。
それが一気に優馬に襲い掛かる。
優馬「うおおお!」
優馬が氷の矢を手で全て弾き飛ばす。
そして、勢いを止めず、氷の魔物へと突っ込む。
氷の魔物「……」
しかし、今度は突然、横から氷で出来た蟹のハサミのような物が現れ、優馬を掴む。
優馬「ぐっ!」
ハサミに挟まれ、身動きが取れない優馬。
灼猿「優馬殿!」
優馬「……灼猿、焔虎を召喚だ。いいか、うまく俺の意識とリンクさせろよ。しくじったら、俺が街を灰塵にしちまう」
灼猿「はい! 第肆使徒、焔虎、応えなさい」
優馬が目を瞑り、深呼吸をする。
そして目を見開き、氷の魔物を見る。
優馬「はあああああ!」
同時に、氷の魔物が炎の柱に巻き込まれ、やがて消滅する。
優馬「ふう……。終わった……」
灼猿「優馬殿、お疲れ様でした。では、結果はいつもどおり、リセットでよいですか?」
優馬「ああ、頼む」
灼猿「今回の勝負は火の勝利です。勝利者の願いにより、今回の勝負は無しとなります」
灼猿が宣言すると同時に壊れた町が元に戻る。
優馬「あーあ、今日も遅くなっちまったな。時間まで戻してくれると言うことないんだけどな」
灼猿「さすがに時間までは干渉できません……」
優馬「まあいいさ。帰ろうぜ」
〇 建物の屋上
様子を見ている花音。
その方には手のひらサイズの羊のような生き物が乗っている。
氷羊「残念でしたね」
花音「平気よ。まだ、計画は始ったばかりだもの」
振り返り、屋上のドアの方へ向かう花音。
花音「(小声で)待っててね、優馬君。あなたを傷つける、この世界を変えてあげるから」
〇 図書室(夕方)
花音が机で本を読んでいる。
そこに優馬がやってきて、後ろの席に座る。
花音が振り向かずに微笑み、本のページをめくる。
優馬も微笑んで、本を読み始める。
ふと、顔を上げ、花音の後姿を見る。
優馬「(小声で)守ってみせるさ。このささやかな、君との時間をな」
終わり