【声劇台本】いきなりラストバトル

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蓮(N)「それは突然の出来事だった。放課後に図書館で本を読む。そんな当たり前の日常の中、唐突に俺は世界の命運をその手に握らされる羽目になった……」

燐子「どうも、初めまして。私は燐子と申します」

蓮(N)「燐子と名乗った、不思議なネズミのような生き物はぺこりと頭を下げる。そして、まるで連絡事項を告げるかのように淡々と話し始めた」

燐子「たった今、あなたは勇者に選ばれたのです」

蓮「……勇者?」

燐子「はい。勇者とは魔王と唯一、対等に戦える存在のことです」

蓮「まあ、ありきたりな話だな。もう少し詳しく聞かせてくれ」

燐子「勇者とは魔王と、いわば表裏一体の存在なのです。魔王が目覚めるとき、勇者もまた、目覚めます。その逆もしかりなのです」

蓮「……なるほど。じゃあ、俺は生まれたときから、そんな重要な使命を持ってたってわけか」

燐子「いえ、違います」

蓮「え? 違うの?」

燐子「あなたは、たった今、勇者になったのであって、生まれたとき……いえ、さっきまではただの人間、つまり凡人でした」

蓮「人から、凡人って言われるって、結構くるものがあるな。まあ、自分は特別だ! って思うほど、厨二じゃないけどさ」

燐子「いいじゃないですか。今は勇者になれたのですから」

蓮「うーん。確かに、特別な存在っていうのには憧れるけどさ、あんまり重いのは面倒なんだよな」

燐子「いえいえ。そこまで重く思う必要はありませんよ。あなたが負ければ、世界が滅ぶだけですから」

蓮「思った以上に重い話だな……」

燐子「そんなことはありませんよ。現在、この世界には核爆弾や、隕石の落下、他にも世界が滅ぶような要因はたくさんあるじゃないですか」

蓮「それと一緒にされてもな」

燐子「選ばれてしまったからには仕方ありません。受け入れてください」

蓮「勇者という宿命を押し付けられるって、こんな気分なのか……。結構、嫌だな。それより聞かせてくれ。どうして俺が選ばれたんだ? やっぱり、血筋とか眠っている力があるとかか?」

燐子「いえ。この本を開いたからです」

蓮「……随分と雑な選び方だな。じゃあ、逆に言うと、俺じゃなくてもよかったのか?」

燐子「本を開いてさえいただければ、誰でも良かったです」

蓮「うわー、聞かなきゃよかった」

燐子「とにかく、選ばれたんですから、張り切っていきましょう。頑張って世界を救ってください」

蓮「スタートから、モチベーションは皆無になったよ」

燐子「そんなことは言ってられませんよ。魔王に負けないためにも、必死にならないといけません」

蓮「そういえば、魔王っていつから目覚めてるんだ? そんな影響とか全然、なさそうだけど」

燐子「影響が出るのはこれからです。なぜなら、魔王も目覚めたばかりなのですから」

蓮「え? そうなの?」

燐子「さきほども申した通り、勇者と魔王は表裏一体なのです。つまり、勇者が目覚めたことにより、魔王が目覚めるというわけです」

蓮「……それって、俺が魔王を目覚めさせたってこと?」

燐子「まあ、そういうことになりますね。なので、あなたは魔王を目覚めさせた罪があるので、倒す責任があります」

蓮「……なんか、詐欺にあった気分だな」

燐子「では、そろそろ、それぞれの能力について説明させていただきます」

蓮「能力ってことは、異能バトルってやつか? 俺、運動神経ゼロだぞ」

燐子「安心してください。戦うのは使徒と呼ばれる召喚獣です。あなたの身体能力には期待してません」

蓮「それはそれで、なんかムカつくな」

燐子「あなたは使徒……この世界では干支と呼ばれる十二の神将を使役して戦っていくことになります」

蓮「ああ、なるほど。じゃあ、お前が一番最初のネズミの召喚獣ってわけだ」

燐子「はい。そうなりますね」

蓮「よかった。じゃあ、俺は見てるだけでいいんだな。俺自身に危険が及ばないようでなによりだ」

燐子「いえ、使徒がダメージを受けると、あなたにもそのダメージが共有されます。最悪、死にます」

蓮「めっちゃ危険じゃねーかよ! 何が安心してくださいだ! ふざけんなっ!」

燐子「いいじゃないですか。どうせ、あなたが死ねば世界は滅ぶんです。早いか遅いかの違いですよ」

蓮「全然よくねえ!」

燐子「第二の使徒は炎牛。炎を纏った状態で相手に突撃する能力を持っています」

蓮「待て待て! なに、当然のように能力の説明を始めてるんだよ! こっちは納得してねーっての」

燐子「正直に言うと、別にあなたに納得してもらう必要はないんですよ。どうせ、あなたは戦うしかないんですから」

蓮「……正直、お前が魔王に見えてきたよ」

燐子「次に、焔虎です。焔虎は炎を吐くことができます。ただ、注意が必要です。強力な炎は辺り一面を地獄絵図に変えてしまいます」

蓮「強すぎて、逆に使えないパターンか」

燐子「四番目は……」

蓮「ちょっと待った。いきなり全部言われても覚えきれねーよ。ほら、一戦一戦、一体ずつ使って覚えるとかさ」

燐子「一戦一戦と言われましても……。最初の相手は魔王ですよ?」

蓮「いきなりラストバトルかよ! クソゲーじゃねーか!」

燐子「敵は魔王だけですからね。仕方ありませんよ」

蓮「一人だけって……それ、全然、王じゃなくね?」

燐子「烈兎の能力ですが……」

蓮「待った! やっぱり、練習して覚えたい。別に戦いじゃなくても、使えるんだろ? 俺、実際にやってみないと覚えられないからさ」

燐子「いいですけど、一人の使徒を呼び出す代償として一年の寿命が必要ですよ」

蓮「重っ! その設定、重すぎない?」

燐子「私に言われましても……そういうものですから」

蓮「って、ことはどれだけ少ない召喚で魔王を倒すかがキーってことか……」

燐子「なので、先に説明した方がいいですよね」

蓮「そうだな……。そういえばさ、報酬は何を貰えるんだ?」

燐子「……報酬ですか?」

蓮「いやいや、だってさ、世界を救うんだぜ? しかも、自分の寿命を使ってさ。それなりの報酬を貰うのが筋でしょ」

燐子「そうですね……。強いて言えば、使命からの解放、でしょうか」

蓮「……どういうこと?」

燐子「魔王を打ち負かし、封印した後、私はまた眠りにつきます。そうすれば、あなたは勇者という使命が終わり、また凡人に戻れるのです」

蓮「……全然、報酬になってねえ」

燐子「後はそうですね……。世界を救ったという自己満足感でしょうか」

蓮「いらねえよ!」

燐子「我儘な人ですね」

蓮「くそー、こんな本を開いたばっかりに」

燐子「不運でしたね。日頃の行いが悪かったせいですよ」

蓮「お前が言うな!」

燐子「とにかく、あなたは無償で、自分の命を削って世界を救ってください」

蓮「ハッキリ言われると理不尽だな。……そういえば、お前の能力はなんなんだ? 説明するだけの無能か?」

燐子「私は始まりにして終わりの使徒です。強制的に魔王を眠りにつかせる能力を持っています」

蓮「チートじゃねーか。もう、全部、お前がやれよ」

燐子「それはできません。いくら私が有能と言っても、あくまで使徒なのです。使われることでしか、能力を発揮できません」

蓮「ふーん。ちなみに、お前の能力はどうやって使うんだ?」

燐子「私の能力を使うのは簡単です。無能なあなたでも、すぐに覚えられますよ」

蓮「……いいから早く言えよ」

燐子「本を閉じるだけです」

  パタンと本を閉じる音がする。

蓮(N)「いきなりラストバトルが始まって終わりを告げた。こうして、世界の平和は守られたのだった」

終わり

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