鍵谷シナリオブログ

【声劇台本】てるてる坊主は頑張らない

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■概要
主要人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、ハートフル

■キャスト
ジョー
コリー
テリー
祖母
父親
その他

■台本

  雨音が家の中まで聞こえている。

コリー「よいしょ! うん、できた! ねえ、おばあちゃん。これで、いいかな?」

祖母「あらあら、とっても可愛い、てるてる坊主だねぇ」

コリー「これで、雨が止むかなあ?」

祖母「そうだねぇ。きっと止むよ」

ジョー(N)「俺の名前はジョー。たった今、コリーの手によって生まれた、てるてる坊主だ。俺の役目は雨を止ませて、晴れにすること。ふふふふ。そんなことは朝飯前だ。明日には天気も、コリーの顔も晴れにしてみせるぜ」

  雨の音。

コリー「うーん。雨、止まないね」

祖母「今の時期は雨期だからねぇ。そう簡単には止まないさね」

コリー「お願い、てるてる坊主、頑張って雨を止ませてね」

ジョー(N)「はっはっは。オーケーオーケー、コリー。実は俺はまだ本気を出してなかったのさ。だって、そうだろ? 簡単に願いが叶ってしまったら面白くない。溜めて溜めて、一気に開放する。これこそが、願いを叶えたときの嬉しさを倍増させるのさ」

  雨の音。

コリー「雨、止まないね……」

祖母「今年の雨期は、随分と雨が続くねぇ」

ジョー(N)「おっと、すまない、コリー。力の調節が難しくね。俺がちょっと本気を出してしまうと、雨期から一転して乾期に早変わりだ。コリーだって、水が飲めなくなるのは嫌だろ? でも、まあ、見てろって。すぐにコツを掴んで、晴れの日にしてやるさ」

  雨の音。

コリー「……お父さんのところも、雨、降ってるのかなぁ? きっと、お父さんも困ってる」

祖母「大丈夫。お父さんは違う国に行ってるんだから。きっとお父さんのところは、晴れてるよ。……それにしても、今年は本当に雨が続くねぇ」

ジョー(N)「ふふふ。まあまあ、そう慌てなさんな。よく、その目を凝らして見てみるんだ。昨日より雨の勢いは弱まってるだろ? もう少しだ。もう少しで、晴れの日にできる。さあ、コリー。明日を楽しみにして、今日はもう寝るんだ。早く起きれば、虹だって見せてやるぜ?」

  雨の音。

コリー「バカ! 全然、晴れないじゃないか!」

祖母「コリー。てるてる坊主はきっと、頑張ってくれているよ。そんなこと言ったらダメ」

コリー「でも……」

祖母「てるてる坊主がヘソを曲げたら、止む雨も止まないよ?」

コリー「そうだね。ごめんね、てるてる坊主」

祖母「さあ、コリー。今日はもう遅いから、早く寝なさい」

コリー「はーい!」

  コリーが部屋を出て、寝室へ向かう。

  雨音が家の中に響く。

祖母「……なんだか、嫌な予感がするねぇ」

  コンコンとドアがノックされる。

祖母「はい? 誰かね、こんな時間に……」

  ドアを開ける祖母。

軍人「夜分遅く申し訳ございません。軍のものです」

祖母「これはこれは。遅い時間までご苦労様です。どうぞ、上がってください」

軍人「……失礼いたします」

  場面転換。

祖母「ええっ! ……息子が」

軍人「はい……。ミリガン湾上陸作戦の際、大雨による船が転覆。乗員は恐らく全員……」

祖母「その船に、息子が乗っていたのですね」

軍人「息子さんは立派に戦っていました。国の為、家族の為に。どうか、胸を張ってください。我々は息子さんの死を無駄にはしません。絶対に、この戦争に勝ってみせます」

祖母「ありがとうございます。そう言って貰えて、きっと息子も天国で喜んでいると思います」

軍人「それでは失礼いたします」

  軍人がドアを開け、家から出て行く。

祖母「うう……。コリーになんて言えばいいんだい……。うっううう……(泣き始める)」

ジョー(N)「……悲しいときは、存分に泣くものだ。大丈夫。その涙の雨は俺がしっかりと受け止める。明日には晴れの顔にするために、今はしっかりと涙の雨を降らせるんだ」

  雨の音。

コリー「見て、おばあちゃん。二つ目を作ったよ。これで、晴れるよね」

祖母「……ああ、そうだね」

コリー「早くお父さんに会いたいなぁ。だから、頑張ってね、てるてる坊主」

祖母「コリー、実は……」

コリー「僕ね、お父さんと約束してたんだ。お父さんは晴れの日が続くときくらいに帰ってくるって。それまでにはお仕事終わるって。だから、てるてる坊主、お願いね!」

祖母「うう……。うわあああああ!」

コリー「え? おばあちゃん、どうしたの?」

テリー(N)「ヘイ! ジョー。仕事をさぼるのも大概にしな。主人が晴れを御所望なんだぜ? なにやってるんだ」

ジョー(N)「これだから新参者は困る。いいかテリー。今は頑張ってはいけないのさ」

テリー(N)「どういうことだ?」

ジョー(N)「さっき、コリーはこう言った。晴れになれば、父親が帰ってくるってな」

テリー(N)「なら、尚更、晴れにしてやるべきだろう?」

ジョー(N)「……コリーの父親は、既に戦死している」

テリー(N)「……そうだったのか」

ジョー(N)「だから、俺たちは、せめて婆さんの気持ちの整理がついて、コリーに話すまでは晴れにしてはいけないのさ」

テリー(N)「……やれやれ、しょうがないな。わかったよ。今は様子見としておいてやる」

ジョー(N)「ああ、頼む」

  雨の音。

コリー「お願い、てるてる坊主。早く、晴れの日にしてよ!」

祖母「……コリー。言ったはずだよ。もうお父さんは……」

コリー「うそだ! お父さんが死んだなんて、絶対に嘘だ!」

祖母「コリー」

コリー「だって、約束したんだもん。晴れの日に帰ってくるって! だから、だから……うわーん!」

祖母「……」

テリー(N)「なあ、ジョー。これで本当にいいのか?」

ジョー(N)「なにがだ?」

テリー(N)「確かに雨の日が続けば、コリーは希望を持ち続けられる」

ジョー(N)「……」

テリー(N)「けど、それは単に絶望を先延ばしにしてるだけだ。目の前にある絶望を受け止めない限り、前に進むことができないんじゃないか?」

ジョー(N)「……」

テリー(N)「お前だって、わかってるんだろ? 俺たちが、何をすべきかってことを」

ジョー(N)「……ああ、そうだな」

  スズメの鳴き声。

コリー「うわあ! 見て、おばあちゃん! 晴れたよ! 晴れた!」

祖母「本当だねぇ。いい天気だ」

  そのとき、ドアがノックされる。

祖母「はい?」

  ドアを開ける。

父親「ただいま、お母さん」

祖母「お前……。死んだって」

父親「はは。俺ももうダメかと思ったけどね」

コリー「お父さん! お父さん!」

  コリーが父親に抱き着く。

父親「ただいま、コリー。いい子にしてたか?」

コリー「うん! あのね、僕ね、てるてる坊主を作って待ってたの!」

父親「そっか。じゃあ、お父さんが帰ってこれたのは、コリーがてるてる坊主を作ってくれたおかげだな」

コリー「えへへへ。てるてる坊主、ありがとうね!」

ジョー(N)「俺の名前はジョー。コリーが作ったてるてる坊主。てるてる坊主の仕事は晴れにすること。ただ、それだけだ」

終わり

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