【声劇台本】存在の証明

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■概要
主要人数:5人
時間:13分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
グレン
リサ
ゼノ
リチャード
グレア
その他

■台本

グレン(N)「俺と言う存在。それを証明するのは一体誰なのか。確かに俺と言う人間はここにいて、生きている。だが、それを誰も認識していなければ、俺と言う存在を知る者は存在しない。果たして、それは存在していると言えるのだろうか……」

  赤ちゃんの泣き声。

グレア「おー、よしよし、どうしたの? お腹空いたのかしら?」

  そのとき、バンとドアが開く。

グレア「きゃっ!」

男1「グレア・パーソンだな?」

グレア「だ、誰なの!? 出て行って! 通報するわよ!」

男2「別にいいぜ。どうせ助けなんて来ないんだからな」

男1「おい、余計なことを言うな」

グレア「お、お金なら……」

男1「悪いな。俺たちが欲しいのは金ではなく、お前たちの命だ」

グレア「……え?」

男2「けっ! 大統領と不倫なんざ、するからこんなことになるんだよ。ましてや、子供なんか産めば、尚更だろ」

グレア「ちょっと待って! 私はどうなっても構わないわ! この子だけでも……」

  パンという乾いた銃声。

グレア「うう……」

男1「悪いな。どちらも殺すのが俺たちの任務だ」

  赤ん坊の泣き声が大きくなる。

  そこに、さらにパンという乾いた銃声。

  赤ん坊の泣き声が小さくなり、ついには消える。

男2「おおー。さすが。赤子にも容赦ないな」

男1「さっさと、国民総合データにアクセスして確認しろ」

男2「はいはい。……ん。どっちも死亡になったな」

男1「さすがに死体はこのままにしておけん。例の廃棄場所に捨てるぞ」

男2「了解」

グレン(N)「こうして俺は生まれて間もなく、生きているという証明を消された。つまり俺は、肉体は生きているが、世界からは死んだことになったのだった」

  トラックの中。

ゼノ「おい、グレン。お前、何歳になったんだ?」

グレン「……16」

ゼノ「ほー。もうそんなになるか。早いもんだ」

グレン「……」

ゼノ「よかったな。本当にお前は運がいい」

グレン「……俺が?」

ゼノ「おそらく、今回の作戦で最後になる。つまりこの内乱は終わるってわけだ。そうなれば俺たちは自由になれる。若いお前は、人生をやり直せるってわけだ」

グレン「ふん……。やり直す、か。くだらん。俺の人生は16年前に終わってる。今更やり直してどうなるんだ」

ゼノ「確かに本当なら、お前はあそこで死んでたんだ。けど、実際はこうして生きてる。生きてりゃ、人生なんて何度でもやり直せるさ」

グレン「……」

  トラックが止まる。

ゼノ「お! 着いたみたいだぜ。さあ、最後のお仕事だ。死ぬなよ、グレン!」

  ドアが開く音と同時に激しい銃撃戦の音が聞こえてくる。

グレン(N)「16年前、俺は胸を撃たれて、母親の死体と共にゴミ廃棄場に捨てられた。だが、俺は息を吹き返し、泣いていたところを人さらいに拾われた。そいつに教わったのは人殺しの技術だけ。正直、俺はあのとき死んでいた方が幸せだったと思う」

隊長「お前ら、よくやったな。無事、任務終了だ。これでレジスタンス軍の勝利が確定した。というわけで、お前たちはこれで解散となる。これからは自由に生きていいぞ」

兵士1「待ってくれよ。いきなり自由なんて言われても、どうしたらいいかわからねえよ」

兵士2「軍に入れて貰えませんか?」

隊長「この国の人間ではないお前らを軍に迎え入れることはできない」

兵士1「くそ、俺たちは使い捨てか」

隊長「まあ、そういうな。多少の金と、行きたい場所へ送るくらいはしてやる」

  兵士たちがざわつく。

ゼノ「よお、グレン。お前どうするんだ?」

グレン「……コルア公国に行く」

ゼノ「あん? あそこはトップが腐ってて、今にも内乱が起こるって話だぞ?」

グレン「だからさ。飯のタネにありつけるかもしれない。それに……」

ゼノ「それに?」

グレン「いや、なんでもない」

グレン(N)「俺は多少の金を貰い、コルア公国へとうまく侵入した。うまくいったのは、元々、俺はこの国の生まれで、体に管理システムである、国民IDチップが埋め込まれているからだったのだろう」

店主「待て! 泥棒!」

グレン「……」

  グレンが走り去っていく。

グレン(N)「お笑い種だ。この国に入れたのはいいが、既に死人とされている俺は、この国では何もできない。金があっても買い物すらできない。住むところはもちろん路上だ」

  ドサリと倒れ込むグレン。

グレン「……」

グレン(N)「当然と言えば、当然かもしれない。俺はやはりこの国では必要とされていない。いや、必要とされていないだけじゃなく、存在の認識すらされていないんだ。確かに、俺の肉体は生きている。だが、これは本当に生きていると言えるのだろうか」

護衛1「うっ!」

  護衛1が倒れる。

護衛2「なっ! 貴様、どこから……がっ!」

  護衛2が倒れる。

グレン(N)「それは単なる気まぐれだった。別に何か目的があったわけじゃない。……いや、もしかしたら、この人だけは俺の存在を認めてくれるんじゃないか。そう思ったのかもしれない」

  ドアが開き、グレンが入ってくる。

リチャード「貴様、誰だ? おい! 護衛はどうした!?」

グレン「16年ぶり……いや、初めましてになるのかな?」

リチャード「……なんだと?」

グレン「俺はグレア・パーソンの息子だ」

リチャード「まさか……生きていたのか」

グレン「……」

リチャード「ちっ! あいつら、しくじりやがったな」

  リチャードが銃を構える。

グレン「俺をまた殺すのか?」

リチャード「今度は確実にな」

グレン「そうか……」

  一発の銃声が響く。

リチャード「うっ……。くそ……」

  リチャードが倒れる。

グレン「ふっ、はははは。あはははは!」

グレン(N)「唯一の繋がりを持つ父親が死んだ。これでもう、俺を必要とするものは誰もいないだろう。こんな俺が生きていたところで、どうしようもない……」

  グレンがこめかみに銃を当てる。

グレン「俺の存在理由が完全に消えたな」

リサ「なかなかの腕ね。消えるには惜しい存在だわ」

グレン「なっ! お前、どこから?」

リサ「最初からよ。話も全部聞かせて貰ったわ」

グレン「なぜ、あいつを助けなかったんだ?」

リサ「そもそも私の任務はあいつを消すことだもの。おかげで楽できたわ」

グレン「……」

リサ「ねえ、あなた。一緒に来ない?」

グレン「え?」

リサ「誰かに必要とされたんでしょ? 私が必要としてあげるわ」

グレン「……」

リサ「本当はね、自分の存在なんて自分で証明していくものよ」

グレン「……そうは思わない」

リサ「まあ、まだわからないかもね。でも、いつかわかるときが来るわ。だから、それまでは私があなたの存在証明をしてあげる」

グレン「……」

リサ「でも、あなたがここで死にたいっていうなら、引き留めないけど」

グレン(N)「ただ単に俺は誰かに必要とされたかっただけなのかもしれない。存在の証明。この人についていけば、何か掴めるのかもしれない。……もう少しだけ、生きてみよう」

終わり

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