■概要
主要人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、童話
■キャスト
恭兵
お通
母親
ナレーション
■台本
ナレーション「今の現在、あるところに恭兵という若者がおったそうな。恭兵は仕事もせずに家でゴロゴロし、ゲーム三昧の日々。ついに母親が怒りに怒り狂って、家を追い出してしまいました……」
山道を歩く恭兵。
恭兵「母ちゃん! いきなり無理だよ!」
母親「何言ってんの! あんた、もう30歳よ! いい加減に働きなさい!」
恭兵「わかった。じゃあ、明日から本気出す。だから家に入れて」
母親「……この馬鹿ちんが!」
恭兵「ぶべっ!」
バチンと恭兵を叩く母親。
恭兵「ぶったな! 親父にだって叩かれたことないのに!」
母親「はあー。お父さんが、もっと厳しくしてればこんなことにならなかったのに……」
恭兵「いや、ホント、マジで家に入れて。今、ランキングイベント中だから、早く戻らないとドンドン順位が下がるんだよ」
母親「……仕事決めて来るまで、家に帰ってくるなー!」
バタンとドアを閉め、カギをかけてしまう母親。
慌てて恭兵がドアノブをガチャガチャしながら叫ぶ。
恭兵「ちょっと! 母ちゃん! マジで5分だけでも入れて! せめて、ゲームログアウトさせてー!」
場面転換。
森を歩く恭兵。
恭兵「くそっ! 母ちゃんめ。マジで家を追い出すなんて……。今に見てろよ」
森の中を歩き続ける恭兵。
そして、立ち止まる。
恭兵「よし、着いた」
恭兵がカギを開けて、家の中に入る。
恭兵(N)「ここは父さんが建てた、ログハウス。父さんは山が好きで、年に一度はここでキャンプのようなことをしているらしい。ここは電気も水も、そしてネット環境もそろっている。しばらくはここを拠点とすることにしよう。ただ、住むところは確保できたが、食べるものがない。こうなったら……」
恭兵が草をかき分ける。そして、何かを設置する音。
恭兵「自給自足だ!」
ガシャンという罠が閉じる音。
恭兵「ふっふっふっふ。こう見えても、俺は引きこもりをする前は、サバイバルに凝っていたのだ。森で生活することなんて、余裕だよ、余裕」
恭兵(N)「とはいえ、そう簡単に獲物がかかるわけもなく、2、3日は山菜とキノコを食べて生活する日々。さすがに炭水化物やたんぱく質が食べたくなってくる。金だ。金が必要だな」
カチカチカチというクリック音。
恭兵「よし! 売れた! いやー。まさか、カブトムシが5千円で売れるとはなー。オークション様様だぜ。これで、なんとか金は稼げるけど、冬になったら終わるしなー。かといって、働くのもなー。めんどいよなー。働いたら負けっていうし」
森を歩く恭兵。
恭兵「畑でも作るか? いや、だめだ。そんなの働くより大変だもんな。やっぱ、母ちゃんに土下座して……」
そのとき、甲高い鳴き声が響く。
恭兵「うおっ! ……鶴だ」
鶴「クエー!」
恭兵「罠に掛かってる。……どうする? せっかくのたんぱく質だぞ。……けどなぁ。さすがに鶴を食うって抵抗があるな。てか、天然記念物だよな、確か」
ガチャンと罠を外す、恭兵。
恭兵「恩返しに来いよ。……なんてな」
鶴「クエー!」
鳴き声を上げて、飛び去っていく鶴。
恭兵(N)「本当に冗談のつもりだった。だって、鶴が恩返しに来るなんて……。この令和の時代、あるわけないって」
コンコンとドアをノックする音。
恭兵「へ? まさか、母ちゃんにここにいることがバレたか?」
お通「あの……。私、旅のものです。道に迷ってしまって……」
恭兵「おお……。かわいい声。はいはい。今、開けますよー」
ガチャリとドアを開ける。
お通「私、お通と申します。少しの間、家に泊めてもらえないでしょうか」
恭兵「うわー! めっちゃ美人。はい、どうぞどうぞ! 入ってください」
お通「ありがとうございます」
お通が家の中に入ってくる。
恭兵「狭いところですけど、くつろいでくださいね。自分の家だと思って」
お通「まあ、やさしい方ですね」
恭兵(N)「ものすごい美人が、こんな森の中にいるわけないよな。……これは本当に鶴の恩返しってか? すごい美人だけど、中身は鶴か……」
恭兵「あの……お通さんって、つる……」
お通「え?」
恭兵「はっ! いえいえ! なんでもありません!」
恭兵(N)「やべえやべえ! 鶴ってわかったら帰っちゃうんだよな。ここは知らないふりだ。……それにしても可愛いな。こんなに可愛いなら別に中身が鶴でも有りだよな」
恭兵「あの……お通さん、嫁になってくれるんですよね?」
お通「……何を言ってるんですか? 会っていきなり、そのセリフは気持ち悪いです」
恭兵「ですよねー」
恭兵(N)「あれ? 鶴の恩返しって、嫁に来るんじゃなかったっけ? でも、まあ、いいや。本命は反物を織ってくれるところだよな。俺は昔話の馬鹿な男とは違う。ギリギリまで反物を織らせて、がっつり金儲けだ。これで金の心配をしなくて済むようになったぞ」
お通「あの……私、お腹がすいたのですが」
恭兵「え? ああ、そうだったね。ごめんごめん。山菜とキノコの炒め物しかないけど、いいかな?」
お通「私、もっとおいしいものが食べたいです」
恭兵「……そ、そうっすか。じゃあ、ちょっと買ってくるんで、待っててください」
恭兵(N)「俺はカブトムシを売ったなけなしの金で、食べ物を買って帰った。痛い出費だったが、これも反物を織ってもらえれば、十分取り返せる。先行投資だ」
お通「ごちそうさまでした。それでは、私、もう寝させていただこうかと思うのですが」
恭兵「あ、あの部屋使ってください」
お通「ありがとうございます。……あ、あの。一つお願いがあります」
恭兵「はい。なんでしょう?」
お通「決して、私がいるこの部屋を覗かないでくださいね」
恭兵「も、もちろんです!」
恭兵(N)「きたー!」
朝。雀がなく音。
お通「おはようございます」
恭兵「どうですか? できましたか?」
お通「はい? なんの話でしょう?」
恭兵「あ、いや……。一晩じゃできませんよね」
お通「それよりも、お腹減ったのですが」
恭兵「あ、ごはん、買ってきますね」
恭兵(N)「しかし、それから2日が経つが、お通さんの反物はまだ完成しない。金も底をついてしまった」
恭兵「ごめんね、お通さん。もうお金がなくなっちゃって……。ごはん、質素になるけど」
お通「私のせいで、申し訳ありません。私、迷惑でしたね。出ていきます」
恭兵「わー! 待って待って! 嘘! 嘘だから! 大丈夫、まだお金あるから!」
恭兵(N)「ここで帰られたら赤字だ。なんとか、金を工面しなくては……。借りるなんて無理だろうし、カブトムシもあれから捕まらないし。……仕方ない。働くか」
恭兵「あの、お通さん、そろそろ……」
お通「え? 帰れということですか?」
恭兵「いえ、違いますよ」
恭兵(N)「お通さんが来てから、三か月。お通さんは家でゴロゴロして、食っちゃ寝の生活を繰り返している。俺は毎日、必死に日払いの仕事を頑張っているのに。家事洗濯全部俺がやるのだ。お通さんは全く手伝うそぶりすらしない……」
恭兵「あの、お通さん。マジでそろそろ出すもの出してもらわないと、俺、怒りますよ」
お通「あらあら。そんな怖い顔して。わかりました。明日から本気出しますね」
恭兵「よかった……。お願いしますね」
恭兵(N)「それから半年が過ぎた……」
テレビを見て、笑っているお通。
お通「うふふ。この番組面白いですわ」
恭兵「ふざけんなー! このニートめ! 働けよー!」
お通「あらあら。恭兵さん。何を怒ってるのですか?」
恭兵「いやいや。お通さん。マジで、ただ飯食らいじゃないっすか。頼みますって」
お通「恭兵様は私に何を望んでるのですか?」
恭兵「反物だよ、反物! 高く売れるやつ。早く作ってくれよ」
お通「うーん。あの、どうして私がそんなものを作らないといけないのでしょう?」
恭兵「……へ?」
お通「私、そんな約束、一回でもしましたか?」
恭兵「え? でも、ほら、俺、お通さんを罠から助けてあげたでしょ? その恩返しに来たんじゃないの?」
お通「ああ、その件ですか。確かに、罠から助けていただきました」
恭兵「だったら……」
お通「でもあの罠。恭兵様が仕掛けたものですよね?」
恭兵「……え?」
お通「あの罠のせいで、私、足を怪我しましたの。なので、恭兵様には責任を取ってもらいたい所存で、こちらに来ました」
恭兵「……」
お通「でも、そろそろ足も完治しましたので、帰らせてもらいますね」
バサっと翼を広げ、飛び去っていく。
恭兵(N)「こうして、お通さんは、俺が部屋を覗いていないのに、鶴に戻って飛んで行ってしまった」
恭兵「うう……。今まで俺は何をしていたんだ」
ナレーション「儲け話がなくなった恭兵は、母親に頭を下げて、家に入れてもらいました。そして、心を入れ替え、働くようになったのでした。めでたしめでたし」
終わり