〇 暗転
隆志「それはきっと神様からのプレゼントだったんだと思う。俺の最低だった人生への、最後の、そして最高のプレゼント。今なら胸を張って言える。俺の両親はとても素敵な人だったと」
〇 会社・ロビー(夜)
疲れた様子でロビー内を歩くスーツ姿の山城浩平(26)。
首から下げた社員証には「山城浩平」と書かれている。
入り口の自動ドアを通り、外に出る。
〇 会社入り口
公平が出てくると、入り口の前で立っていた山城隆志(16)が駆け寄ってくる。
隆志「兄さん、やっと見つけた」
浩平「……は?」
〇 ファミリーレストラン
客はまばらに入っている状態。
テーブルを挟んで向かい合って座っている浩平と隆志。
浩平は隆志の学生証を見ている。
学生証には「聖将学園1年 山城隆志」と書かれている。
浩平「(学生証を返しながら)えっと……要するに君は僕の生き別れた弟だと?」
隆志「信じてくれた?」
浩平「確かにどこか親父に似てるけど……。僕に弟がいるなんて母さんから聞いてないし。えっと、君……隆志くんだっけ? 何歳?」
隆志「16」
浩平「あり得ないって。母さんが、あのクソ親父と離婚したのがちょうど16年前だよ。それに、さすがの僕だって10歳の頃のことは覚えてる。……君のことなんて知らない」
隆志「あー、えっと。……腹違いなんだ」
浩平「……」
隆志「母親が違うんだ。俺と兄さんとは」
一気に不機嫌そうになる浩平。
浩平「……つまり、君は親父が外で作った子供だと?」
隆志「そういうことになるね」
浩平「なるほどね。それなら納得だ。君の存在を知らなかったことはね」
店員がコーヒーを二つ持ってくる。
店員「お待たせしました」
浩平と隆志の前にコーヒーを置く。
隆志が店員に軽く会釈をしてから、隆志のほうを見る。
浩平「……で? なんで僕に会いにきたの?」
隆志「……」
隆志はテーブルに置かれているスティックシュガーを二本とミルクを一つ取る。
そして、シュガー二本を浩平に渡す。
浩平「……ありがとう」
浩平はシュガーを二本コーヒーに入れ、隆志のほうはミルクを入れて、スプーンで混ぜる。
隆志「匿ってほしい(コーヒーを飲む)」
浩平「(混ぜる動きを止めて)……は?」
〇 浩平のアパート・リビング
部屋のドアが開き、眠そうな浩平が欠伸をしながら出てくる。
ソファーで寝ている隆志を見て、ビクッと驚く。
浩平「……はあ、そういやそうだった」
隆志「んあ?」
隆志が目を覚ます。
隆志「おはよう。なに? もう会社行くの?」
浩平「ああ……」
隆志「朝飯作るよ。居候の身だし」
隆志が起き上がる。
浩平「……」
〇 同
テーブルの上には、目玉焼きとウィンナー、みそ汁とごはんが置かれている。
浩平「……」
隆志が醤油とソースを持ってきて、ソースのほうを浩平の前へ置き、椅子に座る。
隆志「さ、食おうぜ。……おっと、しょぼいとかいうのは無しな」
浩平「いや、意外と手際がいいなって思って。今どきの高校生って、あんまりこういうのやんないってイメージがあるからさ」
浩平が目玉焼きにソースをかける。
隆志「まあ、ずっとやらされてた……っていうか、自分で作らないと出てこない状況だったから、自然とね」
味噌汁をすする隆志の箸の持ち方が変。
浩平「君のお母さんは、あんまり料理しない人だったの?」
隆志「母さんは……俺を生むときに死んだんだ」
浩平「え? そ、そうなんだ。ごめん」
隆志「いや、いいんだ。そのことがショックで、父さんは荒れるようになったみたい。暴力もしょっちゅうでさ」
浩平「違うよ」
隆志「え?」
浩平「あいつは元々、そういうやつだよ。君のお母さんが死んだことがショックなんて、言い訳だよ」
隆志「……(ジッと浩平を見る)」
浩平「なに?」
隆志「いや……」
ご飯を食べ始める隆志。
浩平「ところでさ、いつまでいるつもり?」
隆志「ずっと」
浩平「無理。いくら弟って言われても、僕にしてみれば他人みたいな感じな人間を、ずっとなんて置けないよ」
隆志「大丈夫。自分が食べる分くらいのお金は自分で稼ぐ」
浩平「そういうことじゃなくてさ。正直に言うと顔も見たくないんだ。だって、親父が僕たちを捨てた原因の一つなんだよ。君たちは」
隆志「……そっか。そういうことになるね」
浩平「家出なんて、そうそう長く続くものじゃないよ。……帰ったら?」
隆志「いやだ。父さんの元には帰りたくない」
浩平「わかるよ。その気持ちはすごくわかるけど」
隆志が壁に貼ってあるカレンダーを見る。
7月26日をジッと見る隆志。
隆志「一か月。8月まで置かせて。そしたら出ていく」
浩平「……一か月でどうするの?」
隆志「金を貯める。で、どっか安いアパート借りる。……ただ、その際、保証人になってもらいたい」
浩平「へえー。結構、現実的なプランを出すんだね。いいよ。それくらいなら」
隆志「話変わるけど、兄さん、まだ彼女いないんだよね?」
浩平「(ムスッとして)まだもなにも、いたためしないよ」
がつがつとごはんを食べる浩平。
隆志「(浩平をジッと見て)……」
〇 同・浩平の部屋
ベッドで寝ている浩平。
ドアが開き、隆志が入ってきて、手を叩く。
隆志「はいはい! 起きて起きて!」
浩平「うお! なんだなんだ?」
隆志「休日だからって、ダラダラ寝ない!」
浩平「いや、休日だからこそ、寝かせてくれよ」
隆志「出かけるよ」
浩平「どこに?」
隆志「服屋」
浩平「……は?」
〇 古着屋
服を見繕っている隆志。
それをつまらなそうに見ている浩平。
隆志「今の流行り的には……」
浩平「あのさ、なんで僕まで来ないといけないわけ? まさか、僕に買わせる気か?」
隆志「当然でしょ。兄さんの服なんだから、兄さんが来るのも、兄さんが買うのも」
浩平「……は?」
〇 街中
袋を持って歩く隆志と浩平。
浩平「なんで、急に僕の服なんて……」
隆志「少しはオシャレに気を使いなよ。彼女できたとき、どうすんの?」
浩平「はっ! そんな心配はできたときにするよ。っていうより、僕は結婚なんてしないんだからいいんだ」
隆志「はいはい。一か月後に同じこと言えたら褒めてあげるよ」
浩平「……どういう」
ぴたりと立ち止まる隆志。
解体中の古いビルを見上げる。
隆志「兄さん、ここって……」
浩平「立て替えて、レジャー施設ができるって聞いた気がする」
隆志「マジかー。一から計画練り直さないと」
浩平「……?」
〇 会社
浩平がパソコンに向かって仕事をしている。
〇 街中
隆志が街な中を見て回っている。
手には雑誌があり、デートスポットの特集のページが開かれている。
〇 浩平の家・リビング
晩御飯を食べる浩平と隆志。
〇 街中
私服の浩平と隆志が並んで歩いている。
隆志が浩平を美容室へと引きずっていく。
無理無理と手を振る浩平。
〇 同
流行りの髪形になり、少し照れている浩平。
〇 浩平の家・リビング
カレンダーの前に立ち、ジッと見ている隆志。見ているのは7月26日。
隆志「(つぶやき)あと3日……」
①終わり