〇 街路樹
紅葉が色づいている。
〇 街中
手を繋いで歩いている浩平と美沙。
その様子と遠くから見ている隆志。
〇 浩平の家・リビング
机に向かって勉強している隆志。
そこに風呂上がりの浩平がバスタオルで頭を拭きながらやってくる。
浩平「最近、頑張ってるな」
隆志「ああ、うん。まあ、ね」
浩平が机の上に積んである本を手に取りぱらぱらとめくる。
内容は医学書。
浩平「……医学の勉強? 隆志、医者になりたいの?」
隆志「……やっぱ、無謀かな?」
浩平「そんなことないって。応援してる。頑張って」
隆志「ありがとう」
本を机に戻し、部屋へ入っていく浩平。
隆志「……」
浩平の部屋のドアをジッと見る隆志。
〇 図書館
医学書のコーナーを見て回っている隆志。
産婦人科の本を手に取り、ぱらぱらとめくる。
〇 街中
本を抱えて歩いている隆志。
ふと顔を上げると、前から浩平と美沙が並んで歩いているのが見える。
隆志「……」
二人から隠れるようにわき道に入る隆志。
〇 浩平の家・リビング
妊婦について書かれている本を読んでいる隆志。
本を置いて、財布を手に取り開く。
中には数千円しか入っていない。
隆志「……」
〇 薬局
店員として働いている隆志。
隆志「いらっしゃいませ」
挨拶しながら、商品を補充する隆志。
そこに店長のネームプレートをした男性がやってくる。
店長「悪いね、平日なのにシフトにでてもらっちゃって」
隆志「いいんですよ。いつでも呼んでください」
店長「学校の方……大丈夫なのかい?」
隆志「(苦笑いして)なんとか」
店長「留年とかしちゃダメだよ。まあ、私が言うなって話だがね」
愛想笑いをする隆志。
〇 工場
荷物運びをしている隆志。
工員「おう、さすが若いだけあるな。頑張れよ」
隆志「はい! ありがとうございます!」
〇 浩平の家・リビング
医学書を広げた状態で突っ伏して寝ている隆志。
浩平がそっと毛布をかける。
〇 レストラン
高級店。
ビシッとスーツを着ている浩平。
向かいには美沙が座っている。
浩平が緊張した面持ちでポケットから小さい四角い箱を出して、美沙の前に置く。
美沙が手に取り、開けてみると中には婚約指輪。
浩平がぺこりと頭を下げる。
美沙が感動して涙で目を潤ませ、何度も頷く。
〇 浩平の家・リビング
隆志「おめでとう!」
浩平「ははっ! ありがとう。……でも、その、黙っててごめんな。ほら、先に話しておいて、断られたら格好悪いし」
隆志「俺に気を使わなくていいのに。でも、そっか。そろそろ本格的に引っ越し考えないとな」
浩平「一緒に住むのは結婚したときって美沙さんとも話してるんだ。それにそのときは、僕のほうが出てくから、隆志はそのままここに住んでくれてていいよ」
隆志「……なんか、兄さんには世話になりっぱなしだな」
浩平「それはこっちのセリフ。隆志がいなかったら、美沙さんと結婚するなんてなかったと思う」
隆志「兄さん。今度は幸せになってね」
浩平「……? あ、ああ」
〇 高田産婦人科病院
看板をジッと見ている隆志。
〇 同・駐車場
縁石に座って、駐車場を見ている隆志。
そこに車が一台入ってくる。
車が止まり、中から出てきたのは坂下美早紀(32)。
美早紀は関係者入り口から入っていく。
隆志「……」
〇 結婚式案内所
結婚式のパンフレットを見ている浩平と美沙。
美沙が一つの場所を指差す。
浩平が頷く。
担当者が色々と説明をしている。
〇 居酒屋
カウンターで一人、ビールを飲みながらおつまみを食べている美早紀。
隣に隆志がスッと座る。
隆志「隣、いいですか?」
美早紀「君……学生さんでしょ? いいの? こんなところに来て」
隆志「ダメなんじゃないですかね。あ、親父さん、生一つください!」
美早紀「すみません。今の生、キャンセルで代わりにウーロン茶にして」
親父「はいよー」
隆志「うわ、ひっでー。いいじゃないですか。一杯くらい」
美早紀「ダメに決まってるでしょ」
親父「はい、ウーロン茶」
隆志の前にウーロン茶が置かれる。
隆志「じゃあ、せめて一緒に乾杯してください」
美早紀「何に乾杯するの?」
隆志「この出会いと、君の瞳に」
美早紀「ぷぷっ! 古い!」
隆志「ええー! 一周回って、これが流行りなですよ」
美早紀「はいはい。そういうことにしておいてあげるわ」
乾杯する隆志と美早紀。
〇 結婚式場・試着室
ウェディングドレスを試着している美沙。
見惚れている浩平。
〇 薬局
レジ打ちしている隆志。
〇 喫茶店
テーブルで向かい合って、結婚式の席順を決めている浩平と美沙。
〇 街中
並んで、楽しそうに話しながら歩く美早紀と隆志。
〇 結婚式場
人数は少ないながらも、いい雰囲気。
ウェディング姿の美沙とタキシード姿の浩平が並んでいる。
ぺこりと頭を下げる美沙。
拍手が起こる。
スーツ姿の隆志も拍手をする。
〇 同
隆志のところにやってくる浩平と美沙。
美沙「隆志くん、来てくれてありがとう」
隆志「来ないわけないでしょ」
ちらりと美沙のお腹を見る隆志。
隆志「でも、まだお腹目立たなくてよかったね」
美沙が頬を染めてお腹に手をやる。
美沙「うん。実はそれがあったから、少し日にちを早めたの」
隆志「もー、兄さんはホント考えなしなんだから」
浩平「うっ! 面目ない……」
隆志「ま、めでたいってことで、いいんじゃない? 今、何か月目なんだっけ?」
美沙「四か月だよ」
隆志「そっか……」
美沙「この子とも仲良くしてあげてね」
隆志「(一瞬悲しそうな顔をして)あ、ああ。もちろん」
浩平「そろそろ、他のところに挨拶に行こうか」
美沙「そうね。それじゃ、隆志くん、またね」
隆志「あ、お腹の中の子って……」
美沙「うん?」
隆志「ううん。なんでもない。二人とも、幸せにね」
浩平「ああ」
美沙「ありがとう、隆志くん」
浩平と美沙が行ってしまう。
隆志「……」
美沙の後姿を寂しそうな顔で、ジッと見る隆志。
④終わり