■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
優衣
ひまり
部長
保育士
■台本
優衣(N)「私の大好きな人は、私の笑顔が大好きだと言ってくれた。だから、私はこの人の隣では常に笑顔でいようって決めてたの。でも、この人と一緒にいれれば、それだけで私は笑顔になれた。無理に笑顔を作ろうとしなくたって、一緒にいられるだけで笑っていられた。そんな日がずっと続くと思っていた。けれど、それは突然、崩れ去ってしまう。もう二度とあの人には会えない。でも、私はあの人が好きだっていってくれた笑顔を絶やさないようにしようと思う」
ガチャリとドアが開き、優衣が入ってくる。
優衣「ただいまー」
ひまり「ひっく、ひっく……」
優衣「ひまり?」
ひまり「ママ―!」
ひまりが優衣に抱き着く。
優衣「どうしたの?」
ひまり「……さみしかったの」
優衣「ごめんね。今日はちょっと残業で遅くなっちゃった。さ、ご飯食べよっか」
ひまり「ひっく、ひっく……」
優衣「ほら、もう泣かないの。いつもの笑顔、ママに見せて?」
ひまり「……」
優衣「ひまり。泣いてたら、悲しいことがやってきちゃうの。逆にね、笑ってたら、楽しいことがやってくるのよ」
ひまり「……ホント?」
優衣「うん。だから、頑張って笑ってみて。そしたら、きっと悲しいことがなくなって、嬉しいことが起こるわ」
ひまり「う、うん。……えへへ」
優衣「うん、偉いね。よくできました。それじゃ、ご褒美にひまりにはケーキをあげましょう」
ひまり「やったー!」
優衣「ね? いいこと、あったでしょ?」
ひまり「うん!」
優衣「笑顔を忘れちゃダメだよ、ひまり」
ひまり「わかった!」
場面転換。
優衣「(寝息を立てている)」
ドアが開く音。
ひまり「ママ……」
優衣「……ん? どうしたの、ひまり」
ひまり「おっかない夢みたの」
優衣「そっか。じゃあ、ママと一緒に寝ようか」
ひまり「うん……」
ひまりが布団の中に入ってくる。
優衣「ねえ、ひまり。今はまだ難しいかもしれないけど、ひまりは強くならなくっちゃダメだよ」
ひまり「……強く?」
優衣「うん。ひまりは、パパがいないことを悪く言われることが出てくる。そのことで仲間外れやいじめられることがあるかもしれない。だけどね、負けちゃダメだよ。いつも笑顔でいられるように、強くならなくっちゃ」
ひまり「うん……。わかった。ひまり、ずっと笑顔でいる」
優衣「ふふ。偉いね、ひまりは」
ひまり「えへへ」
場面転換。
会社。
パソコンを打つ音。
携帯のバイブ音。通話ボタンを押す優衣。
優衣「はい。……え? わ、わかりました。すぐに行きます」
携帯を切る優衣。
立ち上がり、部長の方へ行く。
優衣「部長。子供が怪我したと幼稚園から連絡があって……。早退させてほしいんですけど」
部長「ええ? またかい?」
優衣「申し訳ありません」
部長「あーあ。これだからシングルマザーってやつは」
優衣「(ムッとするが、深呼吸をする)本当に、すいません。この埋め合わせは必ずしますので」
部長「はあ……。君のその笑顔にいつも泣かされるな。わかった。行ってきなさい」
優衣「ありがとうございます」
場面転換。
幼稚園。
優衣が走ってやってくる。
優衣「あの、娘は……?」
保育士「その……子供同士の喧嘩みたいで……。押された時に角に額をぶつけてしまったみたいで、切ってしまったんです……」
ひまり「ママ……」
優衣「ひまり、大丈夫?」
ひまり「うん! ひまり、泣かなかったよ!」
保育士「ひまりちゃん、すごかったですよ。本当に一回も泣かなかったんです」
優衣「そっか、偉いね、ひまり」
優衣がひまりを抱きしめる。
ひまり「えへへ」
優衣「本当に、偉いね」
場面転換。
会社。
優衣「……チームから外れろってことですか?」
部長「あー、まあ、その……な。仕方ないだろ。勤怠が不安定な人間に重要な仕事は任せられないさ」
優衣「……」
部長「仕事が少なくて、なるべく残業がない部署に推薦しておくよ。その方が、君にとってもいいだろ? 子育てしなが仕事って大変だからねぇ」
優衣「……ありがとう……ございます」
場面転換。
ドアを開けて、優衣が入ってくる。
優衣「ただいま」
ひまり「ママ、お帰りなさい。早かったね」
優衣「ふふ。今度からは、いつもこれくらいの時間に帰ってこられるよ」
ひまり「ホント! やったぁ!」
優衣「……」
ひまり「……ママ、どうしたの?」
優衣「え?」
ひまり「悲しそうな顔してるよ?」
優衣「あ、ごめんね。ママがそんなことじゃダメね。笑顔、笑顔!」
ひまり「……ママ」
場面転換。
ひまり「ママ。どうして今日は幼稚園、お休みするの?」
優衣「今日は一周忌なのよ。お坊さんが来て、お経をあげてくれるの」
ひまり「いっしゅうき?」
優衣「今日はね……パパが死んじゃった……日」
ひまり「ママ?」
優衣「ご、ごめん。涙なんか流してたらパパ、心配しちゃうね。笑顔でいないと!」
ひまり「……」
優衣「泣いてたら……悲しいことがやってきちゃうから……。笑顔でいないと……」
ひまり「ママ、泣いていいよ」
優衣「え?」
ひまり「ママが泣いても、ひまりが笑顔でいるから! ひまりの笑顔で、楽しいこと来るから! だから、ママは泣いてもいいよ!」
優衣「……ひまり。う、うう……うわーー」
大声で泣く優衣。
優衣(N)「あなた。ひまりは強い子に育ってたみたい。きっと私が無理し過ぎなくても、真っすぐに育ってくれる。これからは、ひまりと一緒に泣くことも多いと思うけど、笑って生きていくわ。あなたが大好きだと言ってくれた、笑顔を浮かべて」
終わり。