【声劇台本】悪寒がする視線

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■関連シナリオ
<訳あり物件>

■概要
人数:4人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
典史
美紀
貴子
孝雄

■台本

朝。

チュンチュンと雀の鳴き声。

携帯のアラームが鳴り響く。

典史「……う、うーん」

携帯を取り、ポンと画面をタッチしてアラームを止める。

典史「……」

立ち上がり、ドアまで歩く。

ドアを勢いよく開ける典史。

典史「やっぱり誰もいないよな……」

ドアを閉め、キッチンまで歩いて、冷蔵庫を開ける。

典史「……嘘だろ」

場面転換。

大学の食堂。

周りが騒がしい。

美紀「ストーカーに狙われてる?」

典史「ああ。いつも視線を感じるし、朝起きたら、冷蔵庫に料理が入ってるんだ」

美紀「うっそ! 部屋に入られてるってこと? さすがに引くわ……」

典史「だろ? 俺、もう怖くってさ」

美紀「警察行ったら? 不法侵入はさすがに犯罪だから、動いてくれるんじゃない?」

典史「いや、もう行った。けど……証拠が出ないんだよ。俺の部屋の中には不審な指紋もないし、なにより、侵入経路がわからないんだ」

美紀「合鍵作られてて、手袋してる、とか?」

典史「それがさ、手袋してても、それなりの痕は残るはずみたいなんだよ。それが全くないんだ」

美紀「……どういうこと?」

典史「それがわからないんだよ。一応、2、3日、警察の人が俺の家の周りを巡回してくれたみたいなんだけど、不審な人はいなかった上に、近所の人に聞き込みまでしてくれたみたいなんだけど、やっぱり、それらしい人を見たって人はいなかったみたい」

美紀「冷蔵庫に入っている料理は? 実際、物はあるんだから、証拠にならないの?」

典史「料理が入っているって言ってるのは俺だけだからな。警察の人にも、君の勘違いじゃないかって言われた」

美紀「ふーん。じゃあ、勘違いじゃないの?」

典史「さすがに一か月間、ほぼ毎日勘違いはしないっての」

美紀「うーん。実はおばさんが、あんたがいないときに料理を入れてくれているってオチは?」

典史「ない。母さんには確認取ったけど、そんな暇じゃないって言われた。それに、料理の味が母さんの味じゃない。妙に凝った料理だし」

美紀「引っ越せば?」

典史「それができればとっくにやってるよ。借りたばっかりで違約金も払えないし、引っ越し代もないし、それにあの部屋自体は気に入ってるんだよ」

美紀「ストーカーか。あんたにねえ……。そこまであんたを好きになれるなんて、ある意味すごいわね」

典史「いや、俺もさ、ストーカーの子が可愛かったら付き合いたいって思うよ」

美紀「じゃあ、付き合っちゃえばいいじゃない。それで解決するでしょ」

典史「……可愛ければな」

美紀「あんたね。少しくらいは妥協しなさいよ。あんたを好きって言うなんて、珍獣に近いわよ。こんなチャンス、めったにないって」

典史「……俺も、自分のことはわかってるつもりだ。だから、そこまで高い理想を持ってるわけじゃない。……けど」

美紀「けど?」

典史「男の気配がするんだ」

美紀「……」

典史「……」

美紀「ご愁傷様。頑張って!」

典史「見捨てないでくれ!」

美紀「はあー。……で? 何を協力すればいいの?」

典史「……部屋に来てくれないか?」

美紀「はあ? ……まさか、あんた、私を家に連れ込もうとして、そんな作り話してるわけじゃないでしょうね?」

典史「バカ言うな! んなわけねーよ!」

美紀「……」

典史「別に泊まってくれって言ってるわけじゃねえんだよ! ほら、お前、幽霊とか感じるんだろ? 部屋の中、見てくれないか?」

美紀「ええ……。私、霊感ある方だけど、お祓いとかはできないわよ?」

典史「いや、いるかいないかだけでも判断してくれれば、対応はできるからさ」

美紀「……うーん」

典史「頼む! 見てくれたら、お前の言うことを何でも聞くから!」

美紀「……わかったわよ。おばさんに、あんたの面倒見てあげてねって言われてるしね」

典史「恩に着るよ」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

典史と美紀が部屋に入ってくる。

美紀「……」

貴子「もう! 誰よ、その女!  私という女がいながら、他の女を連れ込むなんてひどい!」

典史「……どうだ?」

美紀「いる。めっちゃいる」

典史「そ、そんなにたくさんいるのか?」

美紀「ううん。えっと、一人だよ。すごい霊力が高い……と思う」

貴子「あら、あなた、霊感あるのね」

典史「……かなりヤバい悪霊……ってことか?」

貴子「ひどいよ! 悪霊なんて……。私、こんなに愛してるのに」

美紀「悪霊じゃないと思う。どちらかというと守護霊に近いんじゃないかな?」

貴子「ふふ。あなた、わかってるわね」

典史「じゃあ、害はないってことか?」

貴子「でも、この人は絶対に渡さないわ」

美紀「なんかね、私に対して敵意を感じるんだけど……。もしかして、勘違いされてるかも」

貴子「勘違い?」

典史「ああ。この人は幼馴染なんだよ。だから、彼女とかじゃないんだ」

貴子「そう。それなら安心したわ。憑き合って一か月で浮気されたかと心配したわよ」

美紀「あ、敵意が消えた」

典史「じゃあ、俺が感じてた視線はこの幽霊だったってことか」

美紀「うん。きっと、料理もこの人が用意したものだと思う。それくらい強い力を感じるわ」

貴子「そうよ。毎朝、愛する人の為に、私、頑張ってるんだから」

美紀「どうするの? 害はなさそうだけど?」

典史「まあ、悪意がないなら……ん?」

美紀「どうしたの?」

典史「なあ、ホントにここにいるの、一人か?」

美紀「え? う、うん……」

典史「念のために聞くけど、ここにいる人は男じゃないよな?」

貴子「ひどい! 私、女よ!」

美紀「うん。女性だと思うよ」

典史「なんか……いつも感じる、嫌な視線が違うところから……。外から感じるぞ」

美紀「え?」

貴子「え?」

典史が突然走り出し、ドアを開く。

孝雄「げっ!」

貴子「あっ! また!」

孝雄「へ、へへへ。こ、こんにちは」

貴子「あのね、何回来ても結果は同じよ。私には憑き合ってる人がいるんだから、あなたとは憑き合えません」

孝雄「そんなっ! もう一度、考えてくれよ! そいつ、生きた人間じゃないか! それなら同じ幽霊の俺の方が……」

貴子「くどいわ! たとえ、生きた人と幽霊でも、深い愛があれば問題ないの!」

孝雄「くそーーーー!」

美紀「あ、行っちゃった」

典史「どういうことだ?」

美紀「えっとね、二人いたみたい」

典史「え?」

美紀「あんたの家にいる幽霊の女の人の、ストーカーの男の人の幽霊がいたみたい」

典史「なんなんだよ、そのカオスな状況は……」

終わり。

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