■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー
■キャスト
隼(はやと)
太陽(たいよう)
奈々(なな)
アナウンサー
■台本
アナウンサー「お昼のニュースです。全国で相次ぐ行楽地での事故に、関係者は注意を促していて……」
太陽「隼、何してんだ? 行くぞー」
隼「ああ、今行く」
プッとテレビを消す隼。
そして歩き出す音。
場面転換。
車を運転する太陽。
太陽「……ん? なんだ? やたらと警察いるぞ?」
隼「事故……みたいだな。最近、こういうところで事故が多いんだってさ」
太陽「ふーん……」
隼「おい、そこ、ガードレールがないからな。気をつけろよ。言ってるそばから、事故とか洒落にならんからな」
太陽「わかってるって。はあー。それにしても卒業旅行が国内ってしけてるよなー。しかも、お前と二人旅」
隼「仕方ねーだろ。こんな時期なんだからさ。旅行できるだけラッキーって思わねーと。それよりも、俺はまだ内定もらえてないことの方が頭痛ぇーよ」
太陽「まあ、隼なら、すぐいいところ決まるって」
隼「うわっ! 自分はもう内定決まっているからって。その余裕な感じ、むかつく」
太陽「いやいや。決まった会社、ややブラック気味なところだからな。正直言って、まだ決まってない隼の方が羨ましいよ」
隼「そんなもんかね……」
太陽「そんなもんだよ……」
隼「……」
太陽「……」
隼「おいおい、これから旅行だっていうのに暗くなってどうすんだよ」
太陽「そうだな。落ち込んでたって始まらないし、今回はパパ―っと遊ぼうぜ」
隼「そうそう。温泉にでも浸かって、ゆっくりするのもいいと思うぞ」
太陽「けど……男二人ってのがなー。むさ苦しいよな」
隼「だーかーら、盛り下がるようなこと、言うなよ」
太陽「けど……って、あれ? あそこ、人か?」
隼「ん? ……ヒッチハイクってやつかな?」
太陽「乗せてくか?」
隼「んー、知らない奴乗せるのって怖くね?」
太陽「あ、女だ! 結構、可愛いぞ!」
隼「ホントだ! 止まれ止まれ!」
太陽が車を止め、隼が窓を開ける。
隼「こ、こんなところでどうしたんですか?」
奈々「よかったー、止まってくれて。悪いけど、少し乗せてってくれないかな?」
隼「いいですよ! な? 太陽?」
太陽「うん、うん! おっけーおっけー」
奈々「ありがと!」
車に乗り込む奈々。
車が出発する。
奈々「君たち、大学生?」
隼「はい、俺は隼で、こっちは太陽です」
奈々「私は奈々。よろしくね」
太陽「は、はい。よろしくです」
奈々「隼くんたちは、どこに行くつもりなの?」
隼「大白温泉ってとこです」
奈々「あ、ホント? 私もそこに向かってたんだ。そこまで乗せてってもらっていい?」
太陽「はい! もちろん!」
隼「奈々さんは、こんなところで何してたんですか?」
奈々「え?」
隼「いや、こんな山の奥にどうやってきたのかなーって。不思議だなって思ったんですよ」
奈々「私、フリーのカメラマンしてて、全国を飛び回ってるんだ。で、ここ、風景が綺麗だから、送迎バスを途中で降ろしてもらったの」
隼「たしかに紅葉、綺麗ですよね」
奈々「ねえ、そんなに年も変わらないと思うし、敬語で話すの止めない?」
隼「そうですね……って、間違った。そうだね」
太陽「賛成―!」
隼「それにしても、奈々さんはいいなー」
奈々「何が?」
隼「フリーカメラマンってなんか格好いいし、全国を旅してるって、なんか自由でいいなって」
奈々「あはは。フリーって結構、そういう目で見られがちだよね。でも、意外と大変だよ、フリーって。給料も安定してないし、仕事してる時間は普通のサラリーマンより多いかも」
太陽「へー、そうなんだ」
奈々「あ、そこ、左だよ」
太陽「え? あ、あぶね!」
隼「おい、気をつけろって! 道に迷って晩飯に間に合わないとか最悪だぞ!」
奈々「ふふ。ねえ、ちょっと写真撮らせてもらっていい?」
隼「え? 俺たちを?」
奈々「ああ、心配しないで。プライベートの写真で、どこかに出すってことはないから。私ね、楽しい気分になったときに写真を撮る癖があるんだ」
太陽「へへ、別にいいっすよ」
奈々「ありがと!」
パシャパシャと撮る奈々。
奈々「今はさー、携帯とかの性能がよくなって、みんな携帯で写真撮るけどさ、私はこうやってネガが残る写真が好きなんだよね。形に残るっていうかさ」
隼「何となくわかる」
太陽「そういえば写真って言えばさー……」
場面展開。
奈々「ありがと、送ってくれて。それじゃね」
隼「う、うん。バイバイ」
走っていく奈々。
太陽「あーあ、行っちゃったな、奈々さん」
隼「しゃーねーよ。さ、チェックインしようぜ」
場面転換。
太陽「おお! いい部屋! 畳っていいよな」
隼「浴衣に着替えようぜ」
コンコンとノックの音。
隼「誰だろ? はーい」
奈々「えへへ。来ちゃった」
隼「え? 奈々さん?」
奈々「偶然同じ宿だったみたい。でさ、一人だと寂しいから、こっちの部屋にいていい?」
太陽「どうぞどうぞ! いいよな、隼?」
隼「もちろん!」
奈々「ありがと!」
部屋に入ってくる奈々。
奈々「あ、私も浴衣に着替えようかな? ね、あっち向いててくれる?」
隼・太陽「は、はい!」
太陽「お、おい……。ラッキーだな」
隼「お、おう……」
場面転換。
奈々「ウノ!」
隼「うわー、やられたー! もう一回!」
太陽「隼は、よえーな。っと、ビール無くなったから、買ってくるわ」
太陽が部屋を出ていく。
奈々「ねえ、隼くん。君の写真、撮らせてくれないかな? この楽しい思い出を残しておきたくて。宝物にしたいんだ」
隼「え? うん、べ、別にいいよ」
奈々「ありがと!」
パシャパシャと写真を撮る奈々。
奈々「ねえ、知ってる? 昔って、写真を撮ると魂が取られるって迷信があったんだよ」
隼「へー、ホラーな話だね」
奈々「私、何となくその感覚わかるんだ。魂じゃないけど、人生の一部っていうのかな。それを切り取ってる感じがするの」
隼「ふーん……」
奈々「ほら、遺影ってあるじゃない?」
隼「……葬式とかに使う写真のこと?」
奈々「そうそう。あれってさ、人生の最後に撮った写真でしょ? つまり、最後に残った人生の一部ってことだよね。私、それを集めるのが趣味なの。結構、たくさん集まったんだよ。見る?」
隼「……うーん。また今度ね」
太陽が部屋に戻ってくる。
太陽「ビールとつまみ、売店で買ってきたー」
奈々「わーい! ありがと!」
隼「おお! チータラあるじゃん!」
奈々「よーし! 飲もう飲もう! 今夜は寝かさないぞ、なんて!」
隼・太陽「……可愛い」
場面転換。
走る車に乗っている隼と太陽。
隼「……いつの間に奈々さん、帰っちゃんだろうな」
太陽「……わかんね。あとさ、財布の中、減ってね?」
隼「……いや、もし盗るならさ、全部盗るだろ。きっと勘違いだよ。……絶対」
太陽「だ、だよな。奈々さんがそんなことするわけないよな」
隼「それより、酒、大丈夫だろうな?」
太陽「ああ、それは全然余裕。6時間くらいたってるし、完全に素面になってる」
隼「おい、ちょっとスピード出し過ぎじゃね?」
太陽「わかってる。……って、あれ? あれ!」
隼「どうしたんだよ!」
太陽「ブレーキ効かねえ!」
隼「嘘だろ! バカ! ヤバいって!」
太陽「うわーーーー!」
場面転換。
アナウンサー「お昼のニュースです。また、行楽地での事故です。大学生二人が山道から落下し、死亡しました。二人からは少量のアルコールが検出され、事故との……」
終わり。