■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
高郷 隼(たかさと はやと)
藤本 一輝(ふじもと かずき)
プロデューサ
■台本
隼「諦めるな! 俺が絶対に捕まえてみせる!」
一輝「で、でも僕は……その……」
隼「……犯人は必ず捕まえる! この警察手帳にかけて!」
スタッフ「はい、カットです。お疲れさまでした。今日の撮影は終わりになります」
一輝「お疲れさまでした。ありがとうございました」
現場の空気が緩む。
隼「おい、一輝!」
一輝「は、はい!」
隼「お前、セリフ飛んだだろ?」
一輝「す、すみませんでした!」
隼「しっかりしろよ! 台本くらいちゃんと覚えて来いって!」
一輝「すみません……」
隼「演技も棒だし。ちゃんと練習してんの?」
一輝「……」
隼「ちょっと人気出て来たからって調子のんなよ。顔だけなんてすぐ飽きられるんだからさ」
一輝「……頑張ります」
隼「お前、才能ないよ。辞めたら? この業界」
一輝「う、うう……」
隼「泣いてんじゃねえよ、うぜえな」
場面転換。
隼「……ドキュメンタリー?」
プロデューサ「はい。今、注目度ナンバーワン俳優、高郷隼の人気を不動にするために、プライベートも写せたらと思いまして」
隼「俺さ、演技してないときに撮られんのって、すげーストレスなんだよね」
プロデューサ「え、えっと……隠し撮りっていうテイですが、実際は台本に沿ってもらいますので……どうですか?」
隼「……ふーん。なら、まあ、いいか」
プロデューサ「ありがとうございます!」
場面転換。
隼「よし、行くぞ! 捜査、再開だ!」
一輝「はい!」
スタッフ「はい、カットです。お疲れさまでした。今日の撮影は終わりになります」
現場の空気が緩む。
隼「一輝くん、お疲れ様」
一輝「あ、は、はい……。お疲れ様です」
隼「……あー、ちょっとカメラ止めて。一輝、お前、この企画聞いてねえの?」
一輝「え? あ、ドキュメンタリーの話ですよね?」
隼「お前、ビビった感じ出してんじゃねえよ。オフのとき、俺、怖いみたいな印象になんだろうがよ」
一輝「す、すいません……」
隼「ああ、あとさ、俺のことは隼くんって呼んで。オフのときも、上下関係とかないような感じにしたいから」
一輝「は、はい」
隼「じゃあ、最初からな。……一輝くん、お疲れ様」
一輝「お、お疲れ様、隼くん」
隼「一輝くんさ、すっごい演技よくなってきたんじゃない?」
一輝「そうですか? あ、ありがとうございます」
隼「……カメラ止めて。お前、ホント使えねーな。なんなの? 演技の才能ねーよ。悪いこと言わないからさ、絶対辞めた方がいいって」
一輝「……」
場面転換。
隼「プロデューサ。あいつ、変えられねーの? マジでウザいんだけどさ」
プロデューサ「……ああ、一輝くんですか? ドラマも、もう2話まで撮ってますから」
隼「撮り直せばいいじゃん。まだ放送してないんだからさ」
プロデューサ「そ、そう言われましても」
隼「無理ならさ、あいつとの一緒のシーンを減らすように脚本家に言っといて。てか、俺をたくさん映した方が、視聴率上がるって、絶対」
プロデューサ「今回は……バディものなので……。そ、それに一輝くん、頑張ってますよ。現場にも一番で入ってますし、若いのに気遣いもできますし、スタッフからの人気が高いんです」
隼「それって、演技と関係ないじゃん。演技クソなんだからさ、降ろした方がいいって」
プロデューサ「……でも、一輝くん。頑張って練習してますけどね。撮影が終わっても、空いてるスタジオ借りて、夜遅くまで練習してるんですよ?」
隼「だからさー、練習してんのに本番でクソなんだから才能ないって話ししてんの!」
プロデューサ「そこがおかしいんですよね」
隼「何が?」
プロデューサ「練習では悪くないんですけどね。どうして本番は固いんですかね?」
隼「知らねーよ」
プロデューサ「……まだ練習してるみたいですから、見に行きません?」
隼「は? 嫌だよ、めんどくせー」
プロデューサ「それじゃ、ドキュメンタリーの一シーンに、高郷さんの練習シーン入れませんか? 一番演技が上手いのは人一倍努力してるって見せるんです」
隼「……いいね、それ、いただき」
場面転換。
一輝「僕、ようやくわかったんです! 先輩の諦めない心と正義を貫く熱い心が、刑事に一番必要なんだって!」
隼「……」
プロデューサ「どうです? 悪くないですよね」
隼「……」
プロデューサ「もしかすると、高郷さんの前だから緊張してるのかもしれませんね」
隼「あ? それって、俺が悪いってことか?」
プロデューサ「いえ、そういうわけじゃ」
隼「おい! 一輝!」
一輝「え、あ……隼さん……」
隼「俺の練習シーン撮るから退け」
一輝「は、はい。わかりました」
一輝が歩き出し、隼が近づいていく。
隼「おい、てめえ、調子のんなよ」
一輝「え?」
隼「練習ならちゃんとできるってか? んなの、本番で出せなきゃ意味ねーんだよ!」
一輝「……」
隼「やっぱりお前、才能ねーよ。辞めちまえ」
一輝「僕は……辞めません」
隼「あ?」
一輝「演じるの……役者の仕事、大好きですから」
隼「……今回のドラマで、お前潰すから、覚悟しとけ」
一輝「……僕は負けません」
隼「ちっ! おい! さっさと、練習シーン撮るぞ、カメラ回せ!」
場面転換。
ナレーション「この後、高郷の執拗な苛めに一輝は最後まで耐え抜いた。その甲斐もあり、ドラマの終盤では高郷の演技よりもいいという評価になった。これで、藤本一輝は役者として、大きく成長を遂げた……」
場面転換。
プロデューサ「いやー、すごい視聴率でしたよ、藤本一輝のドラマの裏側を描いた、どっきりを入れたドキュメンタリー」
一輝「ありがとうございます!」
プロデューサ「今回のことで名実ともに高郷隼を抜きましたね。今度は映画の仕事も入ったと聞きましたよ」
一輝「はい、おかげさまで」
プロデューサ「また、うちの番組にも出てくださいね。よろしくお願いしますよ」
一輝「はい! ぜひ!」
場面転換。
ガチャっとドアが開いて、一輝が入ってくる。
一輝「うーっす、お疲れさまっす」
隼「……事務所に苦情の電話が鳴りやまないらしい。あのドキュメントのせいで」
一輝「でしょーね」
隼「……俺、もう終わりだよ」
一輝「いいじゃないっすか、どうせ、引退するんすから。……それに、今まで一番、いい演技でしたよ。もしかしたら、悪役なら仕事来るんじゃないっすか?」
隼「……お、俺は」
一輝「事務所の判断ですから、俺を恨まないでくださいね。ま、逆に高郷先輩なんて、顔だけだったのに、ここまで人気者にしてくれた事務所に感謝するべきですけど」
隼「……」
一輝「見ててください。これからは俺が、事務所のトップ役者として活躍してくんで。あはははははは!」
パタンとドアが閉まる。
隼「う、うう……」
終わり。