■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ
■キャスト
咲(さき)
沙良(さら)
奏汰(かなた)
■台本
咲(N)「世の中には、なんでもそつなくこなすという器用な人間がいる。そういう奴は大体が器用貧乏、つまり大体のことは最初から普通以上にできるが、その分、そこからの成長が遅いということが多い。なのでそこまで羨ましがられることはないし、本人も嫌だと思うこともあるだろう。だが、最初から何をやっても最強だったとしたらどうだろうか? たとえ成長が皆無だったとしても、最強であればデメリットは存在しない。そんな人間がいれば、誰しもが羨ましがるだろう。……たった一人、そう、自分自身以外は……」
咲が駒を動かす。
咲「チェックメイト」
奏汰「う、うう……」
咲「私の勝ちだな」
奏汰「もう一回! もう一回だけお願いします!」
咲「……まあ、いいけど」
沙良「いやいや。奏汰くん、もう無理だって。もう24連敗だよ。咲も止めてあげなよ」
奏汰「うう……」
咲「んー。まあ、沙良の言う通り、今日は止めとこうぜ。もう外も暗いしさ」
奏汰「……はい。あ、あの咲先輩……。また、明日も勝負してくれますか?」
咲「ああ。どんなことでも受けてたってやるよ」
奏汰「それじゃ、今日は帰ります。さよなら」
咲「じゃあ、また明日な」
沙良「気を付けてねー」
ガラガラとドアを開けて、部屋を出ていく奏汰。
沙良「はあ……。ホント、咲ってドSだよね。奏汰くん、涙浮かべてたじゃない」
咲「……」
沙良「まあ、わかるけどね。ああいう表情も可愛いよね。咲の気持ちもわからないでもないかな」
咲「うるせー。別に好きで勝ってるわけじゃねーよ」
沙良「何をやらせても一番。才能の塊、アビリティクイーンに勝てるはずないわよ。そろそろ、そろそろ負けてあげたら?」
咲「……そんなの、あいつに悪いだろ。それに、あいつが認めねーよ」
沙良「そんなこと言って、もう一年よ、一年。そろそろ、諦めちゃうんじゃない?」
咲「う……」
沙良「奏汰くん、可愛いから女子からも人気高いんだよね。私の友達も狙ってるみたいだし」
咲「うう……」
沙良「誰かに取られちゃうかも」
バンと机を叩いて立ち上がる咲。
咲「帰る!」
ドアを開けて出ていく咲。
場面転換。
奏汰「今日はこれで勝負してください」
咲「……麻雀か。いいぜ。ルールは?」
沙良「なに? 咲、麻雀したことないの?」
咲「ああ。一回もない」
沙良「奏汰くん、これはチャンスよ!」
奏汰「は、はい! これ、ルールブックです」
咲「ふむ……」
ペラペラとページをめくる咲。
咲「よし、大体はわかった。始めるぞ」
沙良「(小声で)咲、わかってるんでしょうね?」
咲「……ああ」
場面転換。
奏汰「ロン! リーチ、三連刻(さんれんこー)! 5200点です」
沙良「やったぁ! すごい! 奏汰くん、勝てるわよ」
咲「……」
沙良「(小声で)いい? このままよ、このまま」
咲「(小声で)わかってる……」
奏汰「あの……咲先輩。わざと負けてませんか?」
咲「え? いや、そんなことはない。だいたいルールだって、さっき知ったばかりだぞ。わざと負けるとかできるわけねえだろ」
奏汰「……それにしては、僕に有利になる牌ばかり捨ててますよね? わざとテンパイも崩してるし……」
咲「いや、それは……その、だな」
沙良「(小声で)バカ……」
奏汰「僕、それで咲先輩に勝っても、意味がありません。お願いです。ちゃんとやってください!」
咲「……わかった。次は全力でやる」
奏汰「お願いします」
沙良「(小声で)……ちょっと、大丈夫なの?」
咲「(小声で)ああ。いくら私でも、オーラスでひっくり返すのは無理だ。奏汰の勝ちさ」
沙良「(小声で)それならいいけど……」
場面転換。
咲「……」
沙良「……どうしたの?」
奏汰「……咲先輩?」
牌を倒す咲。
咲「れ、人和(レンホウ)。役満……」
奏汰「あ……」
沙良「ば、ばかー!」
咲「し、仕方ねーだろうが!」
奏汰「ぼ、僕の負けです……」
場面転換。
奏汰「咲先輩……。僕、この勝負を最後にしようと思います」
咲「なっ!」
沙良「ちょ、ちょっと奏汰くん?」
奏汰「一年間、ずっと咲先輩に付きまとってしまって迷惑をかけてますから。これで終わりにします」
咲「べ、別に迷惑じゃねえけど」
奏汰「これは、僕のケジメです!」
咲「わかった……。で、種目は?」
奏汰「剣道です」
場面転換。
咲「よし、準備できたぜ」
沙良「ちょ、ちょっと奏汰くん。咲は運動能力も半端ないのよ。勝てるわけないわ」
奏汰「僕、小さい頃から剣道をやってたんです。この一年間、裏で必死に稽古もしてました」
沙良「確かに、咲は剣道やったことないと思うけど……」
奏汰「咲先輩。この前みたく手を抜いたりしないでください。真剣勝負でお願いします」
咲「……わかった」
場面転換。
沙良「……始め!」
奏汰「はああああ!」
咲「……」
奏汰「小手っ!」
パンと奏汰の小手が決まる。
沙良「小手あり、一本!」
奏汰「やった……」
沙良「やるじゃない。まだ慣れてないところに電光石火の攻撃ね」
奏汰「はい」
沙良「じゃあ、お互い、元の位置に戻って……。二本目、始め!」
奏汰「はあああ! 面!」
咲「……」
奏汰の攻撃がいなさられる。
奏汰「小手、面! 面! 小手!」
咲「……」
奏汰が連続攻撃を仕掛けるが、全部いなされる。
沙良「さすが咲。もう剣道に慣れ始めてる」
奏汰「小手、小手! 面!」
咲「……」
奏汰「ここだ! やあ!」
奏汰が咲に体当たりする。
咲「おっ!」
沙良「止め!」
咲「ん? なんで止めるんだ?」
沙良「場外よ」
咲「ふーん。この線から出たらダメなのか」
沙良「奏汰くん、かなり作戦を練ってきたみたいね。……勝てるわ」
奏汰「……(ごくりと唾を飲みこむ)」
沙良「……始め!」
奏汰「はあああ!」
咲「悪いな、奏汰」
奏汰「え?」
咲「面!」
咲の攻撃がスパンと決めまる。
沙良「め、面有り、一本」
奏汰「……見えなかった」
咲「奏汰。お前が望んだことだ。全力でいくぞ」
奏汰「は、はい……」
咲「さよならだ、奏汰」
奏汰「まだ、勝負はついてません」
沙良「三本目、勝負!」
咲「面!」
奏汰「くっ!」
咲「小手! 面! 面! 小手!」
奏汰「くっ! うっ!」
咲「どうした? 守ってばかりだと勝てないぞ! ほら、ほら!」
奏汰「まだだ……。チャンスがくるはずだ」
咲「はああ!」
奏汰「ここだ!」
ドンと奏汰と咲がぶつかる。
咲「くっ!」
沙良「咲のバランスが崩れた!」
奏汰「今だ! 面!」
咲「……!」
沙良「……」
バシと竹刀を掴む音。
奏汰「え?」
沙良「白羽取り?」
咲「悪いな、奏汰。全力って約束だから、そう簡単に負けるわけには……」
沙良「勝負あり!」
咲「は? なんでだよ! 攻撃止めただろうが」
沙良「いや……。竹刀離すの、反則だから」
咲「へ?」
沙良「場外と竹刀落としの反則2回で、一本だから」
咲「……」
奏汰「そ、それじゃ……」
沙良「ええ。奏汰くんの勝ちよ」
奏汰「やったー!」
咲「よっしゃー!」
場面転換。
奏汰「え、えっと咲先輩。約束通り、勝負に勝ったので、僕と付き合ってくれますか?」
咲「ああ、もちろんだ!」
奏汰「咲先輩!」
咲「奏汰!」
抱き合う二人。
沙良「……なに、この茶番……」
終わり。