■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、学園、シリアス
■キャスト
綾斗(あやと)
女生徒
■台本
綾斗(N)「学校の屋上には幽霊が出る。どこの学校でもよくある怪談話だ。なんでも、昔、屋上から飛び降りた生徒がいたらしい。その噂のせいか、屋上に来る生徒は全くいない。それは俺にとって、都合のいいことだった」
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
ゴロンと寝転ぶ綾斗。
綾斗「うーん……。やっぱ、晴れの日の屋上は気持ちいいよな」
女生徒「……独り言なら、もう少し小さい声にしてくれないかしら」
綾斗「うおっ!」
ガバッと起き上がる綾斗。
綾斗「ビックリした。他に人がいたのか」
女生徒「……こっちの台詞よ。せっかく人が来ないようにしたのに」
綾斗「先客だったのか。悪いな。立ち退くよ」
女生徒「いいわよ、別に。屋上は私の所有物ってわけじゃないし、あなたが出ていく必要はないわ。どちらかというと、私の方が出ていくべきだし」
女生徒が立ち上がる。
綾斗「いや、待てよ。別に屋上の定員は一人ってわけじゃないんだから、お互い移動しなくていいんじゃないか?」
女生徒「まあ、それもそうね」
綾斗「だろ?」
女生徒「……ねえ、お互い、ここを使うならルールを作らない?」
綾斗「ルール?」
女生徒「お互い干渉しない。どうかしら?」
綾斗「ああ。いいぜ。っていうか、そもそも俺は、ウザい人付き合いを避けるためにここに来てるんだからな」
女生徒「利害が一致したようで安心したわ。それじゃ、お互い、空気のように過ごしましょう」
綾斗「ああ」
綾斗(N)「こうして、名も知らない同士が屋上で一緒に過ごすという奇妙な習慣が始まったのだった」
場面転換。
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
ゴロンと寝転がる綾斗。
女生徒「……」
綾斗「……」
女生徒「ねえ」
綾斗「ん?」
女生徒「屋上に幽霊が出る噂、知ってる?」
綾斗「ああ、その噂を聞いて、屋上に人が来ないだろうって思ったんだ」
女生徒「……怖くないの?」
綾斗「そういうの、信じてないんだよ。それに、幽霊なら昼には出ないだろ」
女生徒「最近の幽霊は昼間でも出るのよ」
綾斗「なんだよ、そりゃ。嘘くせー」
女生徒「じゃあ、こっちの噂は知ってる? この学校の一階に、一つだけ鍵が壊れている窓があるのよ」
綾斗「へー。そっちは知らなかった」
女生徒「つまり、この学校には簡単に入れるのよ」
綾斗「学校に不審者がいるって話か?」
女生徒「……屋上から飛び降りた女の子。この学校の生徒じゃなくて、その窓から忍び込んだ、他校の生徒だったみたいよ」
綾斗「へー」
女生徒「あんまり興味なさそうね」
綾斗「言っただろ。幽霊は信じてないんだ」
女生徒「……そう」
綾斗(N)「時々話すことはあるが、基本的にはお互い干渉しないというルール。この絶妙な距離感を、俺は気に入ってたんだと思う。だから、約束してるわけじゃないのに、毎日、屋上に通っていた」
場面転換。
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
ゴロンと横になる綾斗。
女生徒「あなたって、イジメられてるの?」
綾斗「は? なんだよ、急に」
女生徒「……毎日、ここに来てるから。教室にいるのが嫌なのかなって」
綾斗「確かに教室にいるのは嫌だけど、別にイジメられてるわけじゃない。最初に言っただろ? 単に人付き合いが面倒ってだけさ」
女生徒「……そう」
綾斗「そういうお前は? お前もいつも、ここに来てるよな?」
女生徒「イジメられてるわ。教室内にいたくなかった。だから、屋上に来ていたの。屋上は避難場所で、いつも逃げ込んでた」
綾斗「え?」
女生徒「それである日、屋上から飛び降りた」
綾斗「は?」
女生徒「それが、屋上に出る幽霊の正体よ」
綾斗「なんだよ、幽霊の話かよ」
女生徒「気を付けなさい。屋上の幽霊は怨念をまとった悪霊かもしれないわよ?」
綾斗「はいはい。精々、気を付けるよ」
綾斗(N)「屋上に通うようになってから、3ヶ月が経った頃、俺はふと、あることに気が付いた」
場面転換。
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
ゴロンと寝転がる綾斗。
綾斗「なあ、お前、何年なんだ?」
女生徒「……どうして?」
綾斗「いや、学校内で一度も見かけないからさ。いくらこの学校が広いからって、3ヶ月以上、会わないっておかしいって思ってな」
女生徒「……お互い、干渉しないルールよ」
綾斗「……ああ、そうだったな」
場面転換。
図書室。
ペラペラと本のページをめくる綾斗。
綾斗「……やっぱり、生徒名簿一覧の中にいない。……もしかして、あいつ」
本を閉じて、立ち上がり歩き出す綾斗。
カウンターの前で立ち止まる。
綾斗「すいません。この学校で飛び降りした人のことを聞きたいんですけど……」
場面転換。
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
ゴロンと横になる綾斗。
綾斗「俺さ、思うんだけど、学校に無理して行かなくていいじゃねえか」
女生徒「……なに? 急に」
綾斗「お前、前にさ、屋上に逃げ込んでるって言ってただろ? 別に逃げることは悪いことじゃないと思うぞ。イジメだって、耐える必要はないんだ」
女生徒「……ああ。屋上の幽霊の話?」
綾斗「いや、お前の話だ」
女生徒「ふふ。私が幽霊だって言うの?」
綾斗「……お前、他校の生徒だろ? だから、校内でも見かけなかったんだ」
女生徒「……」
綾斗「前に言ってた、一階の窓の鍵が壊れている場所から忍び込んでるんだろ?」
女生徒「……よく、気づいたわね」
綾斗「ちなみに、屋上の幽霊の噂もお前が広めたんだな? 屋上に誰も来ないように」
女生徒「驚いた。そこまでバレてたんだ」
綾斗「屋上の幽霊の噂は、屋上から飛び降りた生徒がいた、っていうものだった。けど、お前は女の子だって言ってた」
女生徒「そんな小さなミスで答えに辿り着いたってわけ? 凄い推理力ね」
綾斗「いや、これは後付けだ。普通に調べただけだよ。この学校で飛び降り事件があったか。で、そんな事件はなかった」
女生徒「ふふ。さすがに事件をでっちあげることは出来なかったわ」
綾斗「嘘ってのは、本当のことを混ぜるとホントっぽくなるからな。お前は、自分のことを混ぜて話してたんだ」
女生徒「……全部、お見通しってわけね」
綾斗「……」
綾斗(N)「こうして、この奇妙な習慣は終わりを告げたのだった」
場面転換。
ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
女生徒「……」
綾斗「あれ? なんで、お前いるんだよ?」
女生徒「はあ? 逃げていいって言ったの、あんたでしょ?」
綾斗「……あ、ああ。そうだな」
ゴロンと寝転ぶ綾斗。
綾斗「うーん……。やっぱ、晴れの日の屋上は気持ちいいよな」
女生徒「そうね……」
綾斗(N)「俺はこれからも屋上に通うだろう。名も知らない女生徒に会いに行くために」
終わり。