【声劇台本】弁護士の証

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
神崎 正義(かんざき まさよし)
神崎 公平(かんざき こうへい)
健司(けんじ)
その他

■台本

正義「異議あり! 犯行現場には明かりがなく、完全な暗闇の状態でした。そんな中で犯行を行えるのは、全盲である被告だけ、というのは単なる憶測でしかありません。検察の決めつけです。また、目撃したとありますが、そんな暗闇で被告の顔が見えたなどというのは、全く説得力がありません」

裁判所がざわざわとし始める。

場面転換。

正義が帰宅してくる。

そこに大勢の記者が集まってくる。

記者1「神崎さん! 今回、無罪を勝ち取りましたが、そのことについてコメントをお願いします!」

正義「……私は自分の仕事をしたまでです」

記者2「被告は連続殺人を犯していると噂がありますが?」

正義「私には関係ないことです」

記者3「あなたのせいで、連続殺人者が何のお咎めもなく、世間に放たれた! 神崎さん、あなた、何も思わないんですか?」

正義「どいてください」

記者1「何かコメントを!」

記者2「人として、最低だと思いませんか?」

記者3「被害者の家族に一言、お願いします」

正義「……私は弁護士です。私を大勢で囲んで道を塞ぐ……。訴えられる覚悟があってやってるんですか?」

記者たち「……」

記者たちがザっと道を開ける。

再び歩き出す正義。

記者3「ふん、金の亡者が!」

正義「……」

家の中に入る正義。

正義「ただいまー」

公平が走ってくる。

公平「お帰りなさい、お父さん」

正義「いい子にしてたか?」

公平「うん、言われた通り、外には出なかったよ」

正義「すまんな。多分、明日にはいなくなると思う」

公平「ねえ、お父さん。どうして、お父さんがみんなに責められるの? お父さんは良いことしたんじゃないの?」

正義「いいか、公平。お父さんは弁護士だ」

公平「うん。弁護士は正しいこと見つけるのがお仕事なんだよね? お父さんは正しかったから、勝ったんだよね?」

正義「それは違うぞ」

公平「え?」

正義「弁護士の仕事は弁護することだ。どんな悪人でも、例え犯罪を犯しているってわかっても、無罪を主張したり、罪を軽くしてやるのがお父さんの仕事だ」

公平「じゃあ、お父さんは悪いことしたの?」

正義「なあ、公平。スポーツ選手っているだろ? その選手は相手が可哀そうだからって手を抜くと思うか?」

公平「……ううん」

正義「だろ? それと同じだ。裁判という勝負の場で勝つことがお父さんの仕事だ。相手が可哀そうだとか、間違っているとかは関係ない。ただ、勝つためだけに頑張るだけだ」

公平「……良い人だけ、弁護すれば?」

正義「世の中、良い人ばかりじゃない。それに、相手が可哀そうだからと手を抜いて負けたら、仕事が来なくなっちゃうんだ。それに仕事を選んでたら、二人とも飢え死にしちゃうよ」

公平「それじゃ、お父さんは嫌な人でも頑張って弁護してるってこと?」

正義「ああ。そうだ」

公平「すごい!」

正義「え?」

公平「それって、良いことするよりも大変だよね? それなのに、頑張ってるお父さんはすごいよ!」

正義「ふふ。ありがとう」

公平「僕も将来、お父さんみたいな弁護士になる!」

正義「うーん。お勧めはできないかな……」

場面転換。

携帯に着信が入る。電話を取る正義。

正義「……はい。……警察がなんのよう……え! す、すぐ行きます!」

場面転換。

正義「……」

警察官「……どうですか?」

正義「……息子に間違いありません」

警察官「……そうですか」

正義「誰だ? 誰がこんなことを!」

警察官「容疑者は既に逮捕済みです」

正義「どんなやつだ?」

警察官「……それが……その変わった奴でして……」

正義「?」

場面転換。

ドアを開けて、部屋に入ってくる正義。

バンと机を叩く。

正義「どういうつもりだ?」

健司「どうもこうもないさ。あんたには俺の弁護をお願いしたい」

正義「息子を殺したかもしれない人間を弁護しろと?」

健司「ああ、そうだ」

正義「何が目的だ?」

健司「これは復讐だ。あんたが無罪にした殺人鬼に娘を殺された男と言えば、理解できるか?」

正義「……それは逆恨みってやつだ」

健司「わかってる! わかってるさ! 頭では理解できる! けど、俺の心はあんたを許せない! あんな殺人鬼を無罪にするなんて……。だから、あんたにも俺と同じ気持ちを味わってもらいたかった」

正義「……裁判にわざと負けるぞ。お前を死刑にしてやる」

健司「ああ、それでいい。いや、そうしてくれ。あんたには俺に復讐する権利がある。あんたに裁かれるなら、俺は納得できるよ」

正義「……わかった。あんたの弁護、引き受けよう」

場面転換。

家の中。

正義「……うう。ううう……公平、公平……。絶対……絶対、復讐してやるかな! あいつを死刑にしてやる……」

回想。

公平「それって、良いことするよりも大変だよね? それなのに、頑張ってるお父さんはすごいよ!」

公平「僕も将来、お父さんみたいな弁護士になる!」

回想終わり。

正義「公平……」

場面転換。

裁判所。

裁判官「それでは裁判を開始します。検察官。冒頭陳述をお願いします」

検察官「はい。事件は……」

場面転換。

裁判所。

正義「異議あり。検察は、被告が現場にいたこと、抵抗せずに大人しく捕まったことで犯人だと決めつけています。これは殺害したという証明にはなりません」

裁判所がざわざわと騒がしくなる。

検察「……あんた、自分が何を言ってるのか、わかってるのか? そいつはあんたの息子を殺したかもしれないんだぞ!」

正義「そのことは事件に関係ありません」

検察「最低な父親だな」

場面転換。

裁判所から出てくる正義。

記者に囲まれ、大量のシャッター音が響く。

記者1「無罪を勝ち取りましたが、今のお気持ちは?」

正義「……」

記者2「自分の子供を殺したかもしれない相手を弁護する気持ちはどうでした?」

記者3「殺された息子さんへ一言!」

場面転換。

夜の公園。

正義がやってきて、ベンチに座る。

健司「……どうしてだ? なんで、俺を無罪にした? 死刑にだってできたはずだ」

正義「……被告の弁護をする。それが弁護士の仕事だ」

健司「それが、息子を殺した相手でもか?」

正義「息子が……公平が言ったんだ。お父さんは凄いって。例え、悪い人だってわかってても弁護をするのが格好いいって。……だから、俺は、公平が格好いいって言ってくれた通り、弁護士としてあの法廷に立った」

健司「う、うう……。弁護士は弁護するのが仕事……。わかってたんだ……。仕事だって……。なのに俺は……俺は……」

正義「……」

健司「すまない! この先、俺はあんたにどんな償いでもする! だから……」

ブチっと引きちぎる音がする。

健司「……何してるんだ?」

正義「弁護士バッチを取った。これで、俺はもう弁護士じゃない」

健司「……?」

ドスっとナイフで健司を刺す正義。

健司「な……なにを……」

正義「これは、父親として、俺個人としての復讐だ」

健司「う、うわあ! や、やめて……」

ドス、ドス、ドスと何度も健司を刺す。

健司「あ……ああ……」

ガクッと絶命する健司。

正義「……公平。ごめんな。こんな父親で」

ドスっとナイフで刺す音が響く。

終わり。

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