■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
信也(しんや)
詩乃(しの)
絵美里(えみり)
その他
■台本
信也(N)「俺の家は代々、エクソシストをやっている。一般的にエクソシストと聞けば、悪魔に取り憑かれた人に十字架を掲げ、聖書を読み、悪魔を出て行かせるというのを想像するだろう。だが、俺の家が継承している悪魔祓いはもっと過激なものだ」
詩乃「最後の忠告です。この人の体から出ていきなさい」
悪魔「うがああああああ!」
詩乃「やはり説得は通じないようですね」
ガブリと食いつき、食いちぎる音。
悪魔「ぎあああああああああーー」
詩乃「……それでは消えなさい。斬!」
スパっと悪魔が斬れる音の後、弾ける音。
詩乃「……もう大丈夫。終わりましたよ」
女性「……あ、私の中の悪魔が消えてる」
詩乃「ええ。悪魔は完全に消滅しましたよ」
女性「う、うう……。ありがとうございます! ありがとうございます!」
詩乃「今まで辛かったですね。もう心配ありませんからね」
女性「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
信也(N)「俺の家が継承してきた、悪魔祓いの術。それは、悪魔の一部を食いちぎり、食すことで、体内で悪魔の霊体構成を分析し、破壊する術を生成する。つまり、悪魔を祓うのではなく、消滅させるという方法だ。うちが呼ばれるのは、通常のエクソシストでは手に負えない、本当に最終手段としてだ。……一見すると最強の能力に見えるかもしれない。確かに、悪魔を消し去る技を使えるのは人類の中でも希少な存在だろう。だが……もちろん、それ相応のリスクがある」
場面転換。
詩乃「ああああああああああああー! う、うああああ! あが、あががががが!」
信也(N)「悪魔の一部を取り入れる。それは猛毒を食べるに等しい行為だ。悪魔の霊体は術者の体に確実に残り、蝕み、苦しめる。当然、術者の寿命は短い」
場面転換。
詩乃「はあ……はあ……はあ……」
信也「母さん、大丈夫?」
詩乃「ええ。もう大丈夫。落ち着いたわ」
信也「ねえ、母さん。……母さんはどうしてエクソシストを続けるの?」
詩乃「どうしてって……。それがお母さんの仕事……いえ、使命だからよ」
信也「わからないよ! 母さんはいつも苦しんでる。……そこまでして、他人を助ける意味があるの? 知らない奴のために、母さんが苦しむのは嫌だ!」
詩乃「信也、聞きなさい。世の中には悪魔に取り憑かれ、どうしようもない絶望の中、それでも諦めずに生きてる人たちがいるの。悪魔さえいなければ、普通の人生を生きれた人たち。その人たちを助けられるのは私たちだけなのよ」
信也「でも! そのせいで母さんの人生が犠牲になるのはおかしいよ!」
詩乃「私たちはそういう能力を持って生まれてきた。これは私たちにしかできないことなのよ」
信也「わからないよ! 母さんや……俺にだって、普通の人生を生きる権利はあるはずだ!」
詩乃「信也。いつかわかるときがくるわ」
信也(N)「それから数年後、母さんは死んだ。……そして、俺はエクソシストを母さんから引き継いだ。俺の最初の仕事は母さんの霊体を食べること。そうすることで、母さんが今まで作ってきた、悪魔への抗体を引き継ぐのだ……。そして、これからは俺がエクソシストとして仕事をしていくことになった」
場面転換。
信也「……でけえ家だな」
チャイムを鳴らす信也。
すぐに勢いよくドアが開く。
絵美里「いらっしゃいませ! エクソシストさんですか?」
信也「……ああ、そうだ」
絵美里「どうぞ、入って」
場面転換。
絵美里「散らかってて、ごめんなさい。その辺に座ってて。今、飲み物持ってくるね」
信也「……なあ、今は一人、なのか?」
絵美里「え? ずっと一人だよ。一人で暮らしてるの」
信也「……なんでだ?」
絵美里「だって、怪我させちゃうから。悪魔が出てきちゃったら危ないもん」
信也「……寂しくないのか?」
絵美里「んー。寂しいけど、お父さんとお母さんをケガさせちゃう方が嫌かな」
信也「……学校とかはどうしてるんだ?」
絵美里「あははは。行ってないよー。だから家で勉強してるの」
信也「ということは、本当にずっと一人か」
絵美里「でも、今日はとっても嬉しいの」
信也「なんでだ?」
絵美里「お兄ちゃんが来てくれたから。えへへ。人とおしゃべりしたの、すっごい前だから」
信也「……そっか」
絵美里「でも、私のことを怖がらないでお話してくれるのはお兄ちゃんが初めてかも」
信也「なあ、恨んだこと、ないか?」
絵美里「え?」
信也「なんで、私だけ、こんな目に遭わないといけないんだって」
絵美里「んー。時々、思うけど……。でも、まあ、考えてても仕方ないしね」
信也「随分と前向きだな」
絵美里「悪いこと考えてると、悪魔が出てきやすくなっちゃうからね」
信也「……一つだけ言っておく。お前は俺が来たから悪魔を消してくれるって期待してるかもしれないが、俺は悪魔を祓う気はない。悪魔祓いの仕事は拒否できるんだ」
絵美里「え? そうなの? どうして?」
信也「悪魔祓いは、俺の命が危ないんだ。他人のために、自分の命を危険にさらすのはおかしいだろ?」
絵美里「そっか……。それなら仕方ないね」
信也「は? おいおい。怒らないのか?」
絵美里「え? だって、私のせいでお兄ちゃんがケガするのは嫌だもん」
信也「……お前、ホントお人よしだな」
絵美里「ねえねえ、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
信也「なんだ?」
絵美里「時々、家に来て欲しいの」
信也「なんでだ?」
絵美里「普通にお話してくれるの、お兄ちゃんだけだから」
信也「……まあ、来るくらいなら」
絵美里「ホント! ありがとう!」
場面転換。
チャイムを押す信也。
勢いよくドアが開く。
絵美里「信也お兄ちゃん、いらっしゃい!」
信也「よお、前に絵美里が読みたがってた本、買ってきたぞ」
絵美里「ホント! わーい! ありがとう」
信也「ん? お前、腕から血が出てるぞ」
絵美里「え? あ、さっき、悪魔が出てきてたから。どこかにぶつけたのかも」
信也「早く手当てしないと」
場面転換。
信也「よし、これで大丈夫だ」
絵美里「えへへ。ありがとう」
信也「深く切れてるから無理するなよ」
絵美里「前にさ、お兄ちゃんが、私に悪魔を恨んでないかって聞いたよね?」
信也「ん? ああ……」
絵美里「今はね、ちょっとよかったって思ってるの」
信也「……どうしてだよ?」
絵美里「だって、信也お兄ちゃんに会えたから。悪魔がいなかったら会えなかったでしょ?」
信也「絵美里……」
絵美里「ねえ、お兄ちゃん。本読んでよ!」
信也「あ、ああ……」
場面転換。
絵美里「(寝息)すー。すー」
信也「……絵美里の体、傷だらけだ」
絵美里「(寝息)すー。すー」
信也「悪魔なんかに取り憑かれてなけりゃ、絵美里も普通の子供と同じ生活をしてたんだよな……」
絵美里「う……。うう……」
信也「絵美里?」
絵美里「うう……があああああああ!
信也「悪魔か!」
絵美里「消えろ! 消えろ! 消えろ! こいつは、俺のものだ! 消えろ!」
信也「なんで、こいつを苦しめる? お前さえいなければ、絵美里は……」
絵美里「消えろ! 消えろ! 消えろ!」
信也「ふざけるな! お前が、お前のせいで! うおおおお!」
ガブリと食いつき、食いちぎる音。
絵美里「がああああああ!」
信也「お前が消えろ! 斬!」
スパっと悪魔が斬れる音の後、弾ける音。
信也「ふう……。勢いで術を使っちまった……う、うああああああああああ!」
場面転換。
絵美里「もう、お兄ちゃんに会えないの?」
信也「ああ。もう悪魔はいないからな」
絵美里「……」
信也「絵美里。これからは普通に生きれるんだ。お父さんとお母さんと一緒に暮らして、学校にも行って、友達とたくさん遊んで、今までできなかったことをいっぱいするんだ」
絵美里「……信也お兄ちゃん」
信也「今まで、よく頑張ったな」
絵美里「う、うう……」
信也「……」
絵美里「お兄ちゃん。ありがとう……」
信也「ああ」
信也(N)「少しだけ、母さんが言っていた意味が分かった気がする。だけど、まだ、完全に納得したわけじゃない。母さん。……これからも、俺は俺の答えを探していくよ」
終わり。