■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
拓弥(たくや)
雅也(まさや)
信哉(しんや)
一平(いっぺい)
杏子(あんず)
その他
■台本
拓弥「おわっ!」
豪快に転ぶ音。
男子生徒1「拓弥はホントにどんくさいな」
拓弥「うるさいな。僕は運動が苦手なんだ」
男子生徒1「運動も、だろ?」
拓弥「……うるさいな」
場面転換。
雅也「……まあ、まずまずかな」
男子生徒2「お? 雅也、また赤点か?」
雅也「うるせえ! 俺は勉強が苦手なだけだ」
男子生徒2「勉強も、だろ?」
雅也「……うるせえぞ」
場面転換。
信哉「……う、うう」
ひそひそと噂話が聞こえてくる。
男子生徒3「また信哉が泣いてるぞ。あいつ、すぐ泣くよな」
信哉「(つぶやくように)うるさい……」
男子生徒3「ホント、紙メンタルだよな」
信哉「(つぶやくように)うるさい……うるさい……うるさい……」
場面転換。
ガラガラとドアが開き、拓弥が入って来る。
信哉「王手」
雅也「うおっ! そんな手あるか!?」
拓弥「おつかれー」
信哉「お疲れ様―」
雅也「おいーっす。信哉もう一回やろうぜ」
信哉「ダメだよ。拓弥が来たんだから、活動開始しないと」
拓弥「依頼、来てる?」
信哉「うん。警察の人からだよ」
雅也「警察!? どんな内容なんだ?」
信哉「なんかね、最近、ドロボーが流行ってるんだって」
拓弥「犯人を捕まえて欲しいってこと?」
雅也「んなの、警察の仕事だろ」
信哉「とにかく、話を聞きに行こうよ」
場面転換。
一平「いやあ、待ってたよ。君たちが三つ矢探偵団だね」
拓弥「依頼内容は泥棒の犯人の特定と聞きましたが」
一平「ああ。そうなんだ。この頃頻発していてね」
雅也「そんなのあんたら、警察の仕事だろ」
一平「あはは。耳が痛いなぁ。けど、警察だからこそ、あんまり動けないんだ」
拓弥「と言いますと?」
一平「盗まれるのは金品じゃないんだ。えーっと、今まで取られたのは、テレビのリモコン、風呂のカバー、靴の片方、ペットボトルのキャップ……とかなんだ」
雅也「なんだ、そりゃ?」
一平「そう思うだろ? 取られた人には一応は被害届を出してもらったけど……」
信哉「……事件としては小さい……ですね」
一平「そう。だから、調査してるのは俺だけだ。それに、上司にも、あんまりこの件に時間をかけるなって言われてね」
拓弥「……一応、被害にあった人に話を聞きたいんですけど」
一平「ああ、いいよ。案内しよ……」
女性が歩いて行く。
杏子「こんにちは」
一平「あー、杏子さんじゃないですかぁー。今、お帰りですか?」
杏子「ええ……。今日は早番で」
一平「あ、家まで送りますよ。人通りが多いって言っても、ストーカーがまた現れるかもしれませんからね」
杏子「ホント? ありがとう。助かるわ」
一平「安心してください!」
拓弥「あ、あの……被害者の方に……」
一平「ああ、ごめんごめん。この紙に印つけてあるから、自分たちで回って」
一平と杏子が歩いて行く。
雅也「なんだ、ありゃ……」
拓弥「なるほど。一人で調査をしてるのは、ああいうわけね」
信哉「とにかく僕たちで話を聞きに行こう」
場面転換。
雅也「さてと、情報はそろったな」
拓弥「えっと、工藤さんの家ではペットボトルの蓋。田所さんの家では片方の靴」
雅也「で、久保田さんの家はテレビのリモコンで、六角さんの家は風呂の蓋か」
信哉「……」
拓弥「家の位置的には法則性はなさそうだけど」
雅也「単なる愉快犯じゃないのか?」
拓弥「それにしては家の中に入るって、かなりリスクの高いことしてるんだよね」
雅也「確かに、大胆なことをしてるわけにはしょぼいもんしか盗まないのはなんでだろうな」
拓弥「目撃者もいないってことは、完全に地域の状況も把握した上での犯行だよね」
信哉「……」
拓弥「信哉? なにかわかったのか?」
信哉「事件があった順番に並べると、久保田さん、田所さん、六角さん、工藤さん」
拓弥「あ、しりとりになってる……」
雅也「ってことは、やっぱり愉快犯か?」
信哉「それは無いかな。緻密な計画の上でやってるから。何か意図があるんだと思う」
拓弥「盗んでる物には何か意味があるのかな?」
信哉「……身近なもの。……対となってるものばかり。ここはこだわりだと思う」
雅也「うーん。ますますわからんな」
スマホがなり、拓弥が取る。
拓弥「はい、もしもし……。え? また、泥棒が出たんですか? あの、どこの家ですか? ……はい。わかりました」
拓弥が通話を切る。
拓弥「信哉の予想通り。今回は上戸さんだ」
雅也「工藤……上戸……ってことは、次はと、で始まる家か」
拓弥「……と、と、と……って、あ!」
雅也「おい、犯人は墓穴掘ったぞ。町内で『と』で始まるのは東条さんの家だけだ」
拓弥「よし、さっそく、警察の人に言おう」
信哉「……」
拓弥「信哉、どうしたの?」
信哉「いや……その……なんでもない」
拓弥「信哉。自信を持て。信哉が気づいたことなら、きっと合ってる」
信哉「でも……失敗したら……大変だよ」
拓弥「大丈夫! まあ、そのときは謝ればいいさ」
雅也「拓弥は相変わらず肝が据わってるな」
信哉「……拓弥を信じるよ。あのね、今回の事件は……」
場面転換。
こそこそと話し声がする。
住民1「ホントに東条さんちに泥棒なんて現れるのかね?」
住民2「しっ! 犯人に気づかれる」
住民3「これだけ人がいれば、逃げられないさ」
場面転換。
静まり返った住宅街。
一人の男が家に忍び込んでいく。
がさがさと物を漁る音。
雅也「……信哉の推理通りだな」
一平「なっ! お前ら、どうしてここに?」
拓弥「犯行をしりとりに見せかけることで、次に東条さんの家に注目させて、その間に本命の物を盗る、という計画ですね」
一平「……くっ!」
拓弥「ここの家の周りは人通りが多い。いくら警察官でも家の中に入るのを見られてはマズイですよね」
一平「……」
拓弥「だから、なんとか家の周りから人を離れさせたかった。そこで、考えたのが僕たちに依頼すること。曲がりなりにも探偵と名乗るくらいだから、しりとりになっていることには気づく。さらに、『と』で終わるのは東条さんの家だけだってことも」
一平「……く」
拓弥「そうすれば、住民は東条さんの家の周りに集まる。逆に、ここの人気は少なくなるってことですね」
一平「くそ、くそ、くそ! もう少しだったのに」
拓弥「……あなたの本命は、その握りしめている、杏子さんって人の下着だったんですね!」
一平「うおお! クソガキどもめ!」
拓弥「雅也、頼む!」
雅也「警察殴って大丈夫なのか?」
拓弥「問題ない。今のやり取り録画してる」
雅也「よし! じゃあ、遠慮なく」
一平「どけええええ!」
雅也「うおおお!」
一平「ぐあああ!」
雅也が一平の顔面を殴り、一平が吹っ飛ぶ。
拓弥「よし、事件解決だ!」
場面転換。
拓弥「うわっ!」
男子生徒1「拓弥はホントドジだな」
場面転換。
雅也「……」
男子生徒2「雅也。お前、いい加減、ちゃんと勉強しないと留年するぞ」
場面転換。
信哉「うう……」
男子生徒3「また、信哉、泣いてるよ」
場面転換。
拓弥「はあ……」
雅也「どうした?」
拓弥「つくづく僕たちってダメダメだよね」
信哉「でも、三人いれば、どんな事件だって解決できるよ」
雅也「そうだそうだ」
拓弥「うん、そうだね。三人いれば、僕らは無敵だ」
終わり。