■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
リョウ
ノア
ギーク
その他
■台本
リョウ(N)「俺の記憶に残っている、一番古いものは……」
回想。
リョウが8歳。
ギーク「リョウ……。お前の才能は神に恵まれ過ぎた。この俺さえも上回るとは」
リョウ「……父さん、止めて」
ギーク「最強の傭兵は俺一人でいい。どんな奴でも、俺を超えることは許さん」
リョウ「止めて、止めてよ……」
ギーク「死ね!」
リョウ「うわあああああ!」
回想終わり。
8年後。リョウが16歳。
リョウ(N)「俺は辿り着く。絶対にあいつの元に辿り着いてみせる」
ノア「リョウ。リョウ……」
リョウ「ん? ああ……。ノア」
ノア「……凄いね。戦場で熟睡できるなんてリョウくらいだよ」
リョウ「あー、くそ。最悪の気分だ」
隊長「おい! 傭兵ども、仕事だぞ!」
リョウ「さてと。いっちょ、憂さ晴らしと行きますか」
ノア「……僕は死なないように頑張るよ」
隊長「よし! 突っ込め―!」
リョウ「うおおおおお!」
そこら中から怒号と剣戟の音が響き渡る。
場面転換。
リョウ「よお、ノア。生きてたな」
ノア「あはは。何とかね」
リョウがノアの隣に座る。
リョウ「ほら、エール。俺の奢りだ」
ノア「ありがとう。遠慮なく、もらうよ」
リョウ「やっぱ、戦いの後の酒は美味いよな」
ノア「……ねえ、リョウは怖いと思ったことはないの?」
リョウ「ん? 何がだ?」
ノア「戦いだよ。……死ぬかもしれないことに怖いと感じたことってないの?」
リョウ「いつも思ってるさ。死ぬのが怖いんだ、俺は」
ノア「……リョウでも思うんだ」
リョウ「俺は目的を果たせずに死ぬことが何よりも怖い」
ノア「……目的?」
リョウ「親父を……親父の胸に剣を突き刺すことだ」
ノア「ご、ごめん。なんか複雑な家庭環境みたいだね」
リョウ「いやあ、単純な話だ。親父も傭兵をやっていて、その親父に殺されそうになった。だから、復讐してやるって話だ」
ノア「……十分、複雑だと思うけど。リョウのお父さんって、傭兵なら、もしかしたらもう……」
リョウ「いや、それは絶対ない。あいつが死んだら、絶対に噂になるはずだからな」
ノア「リョウのお父さんって有名なの?」
リョウ「ああ。ノアも聞いたことあるんじゃないか? ギークって名前」
ノア「(エールを吹き出す)ぶはっ! ギーク? ギークって、あの……?」
リョウ「ああ。最強の傭兵と呼ばれたギークだ。……まあ、今は逆賊として懸賞首だけどな」
ノア「……一国落としのギークの子供か。リョウの鬼のような強さの秘密がわかった気がするよ」
リョウ「あいつの血が入っていると考えると死にたくなるけどな」
ノア「でも、どうしてリョウは、お父さんに殺されそうになったの?」
リョウ「俺が……親父を超える存在になりそうだったからだ」
ノア「え?」
リョウ「あいつは最強の傭兵という名前に取り憑かれてたんだ」
ノア「確かにリョウの強さは桁違いだよね」
リョウ「あいつは俺を捨てた。殺そうとした。だから、俺は再びあいつの前に立ち、あいつの胸に剣を突き立ててやるんだ」
ノア「ははは。リョウならきっとやれるよ」
リョウ「きっとじゃねえ! 必ずやり遂げてみせる!」
ノア「頼もしいね」
リョウ「けど、まだあいつには勝てない。もっともっと、俺は戦場で鍛え続けないとな」
ノア「まあ、相手は伝説級の傭兵だからね」
リョウ「ふん、あんな奴、傭兵じゃなくて逆賊だ、逆賊!」
ノア「あれ? そういえば、リョウが殺されそうになったのはいつ?」
リョウ「ん? 8年前だな」
ノア「……そっか」
リョウ「どうかしたのか?」
ノア「いや、ギークが国を襲って落としたのって、9年前だよね?」
リョウ「んー、まあ、そうなるな」
ノア「だったら、もう傭兵じゃなく賞金首になってたってことだよね?」
リョウ「それがどうした?」
ノア「そんな状態で、その……名前にこだわるかな?」
リョウ「どういうことだ?」
ノア「ごめん。あくまで可能性の話なんだけど……。ホントにギークはリョウを殺したかったのかな?」
リョウ「何言ってんだ、現に俺はやつに殺されかけたんだ」
ノア「……そのときの状況を思い出せる?」
リョウ「忘れもしねえ。あいつは俺に向かって剣を振り下ろした。防ぐことができず、俺は斬られたんだ。そして、その後、俺はそのまま道端に捨てられた。皮肉なことに、親父を追っていた国軍に拾われ、命を取り留めたってわけさ」
ノア「そっか……やっぱり」
リョウ「なにがだよ?」
ノア「やっぱり、ギークはリョウを殺す気じゃなかったんだと思う」
リョウ「はあ? 何を根拠に!」
ノア「だって、リョウは生きてる」
リョウ「……?」
ノア「伝説とさえ呼ばれた人だよ? そんな人が8歳の子供を斬るのを失敗するとは思えない」
リョウ「……」
ノア「それに一刀で仕留められなかったなら、首でも刎ねればよかったんだ」
リョウ「待て、待て、待て! 仮にノアの言う通り、親父は俺を殺す気がなかったとする。けど、何のためにそんなことをする必要がある? 単に俺が邪魔なら、そのまま捨てればいいじゃねーか」
ノア「自分を恨ませるため」
リョウ「どういうことだ?」
ノア「もし、そのまま捨てたとしても、もしかしたら自分を探し当て、戻って来るかもしれない。それなら、殺そうとすることで自分に対して恨みを持てば、戻ってくることはないって考えたんじゃないかな」
リョウ「そこまでして俺を遠ざける意味はなんだ?」
ノア「ギークは賞金首だ。もちろん、その一味にも懸賞金がかかってる」
リョウ「……俺を逃がすためか?」
ノア「もしかしたら、ギーグはリョウに殺されたいのかもしれない。逆賊を狩ればリョウは英雄として崇められるし、賞金や最強の傭兵の名も手に入る。いいこと尽くしなんだ」
リョウ「ま、待てよ! そんな……。あいつはそんなことを……するはずが……」
ノア「ギーグは、リョウの目から見てどんな人だったの?」
リョウ「……覚えてないんだ。殺されそうになってときのことしか……」
ノア「もしかしたら、何かの薬を使ったのかも。思い出があれば、きっとギークの嘘に気づく恐れがあるから」
リョウ「……けど、それはお前の想像だ」
ノア「ああ、そうだね。全然違って、本当にリョウを殺そうとしただけなのかもしれない。だけど……もしかしたら、僕が言った通りなのかもしれない」
リョウ「……結局、あいつ自身に聞くしかないってことか」
ノア「うん」
リョウ「ま、いいさ。結局、あいつにところに辿り着くという目的は変わらないからな」
ノア「僕も手伝えることがあれば手伝うよ。エールも奢ってもらったし」
リョウ「はははは。エール一杯で命をかけるってか。イカれてるな」
ノア「まあ、伝説の傭兵ギークを倒そうとするリョウほどじゃないけどね」
場面転換。
怒号と剣戟の音が響き渡る戦場。
隊長「おい! 傭兵ども、仕事だぞ!」
リョウ「よし、行くぜ、ノア」
ノア「うん。死なないように頑張るよ」
リョウ「うおおおお!」
戦場に駆けていくリョウ。
リョウ(N)「俺は辿り着く。絶対にあいつの元に辿り着いてみせる。そして、理由を問い詰めるんだ」
終わり。