【声劇台本】ドラゴンの卵

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
カイロ
グレイソン
その他

■台本

ドラゴンの咆哮。

カイロ(N)「ドラゴン。それは僕たちの生活には欠かせない生き物だ。移動はもちろん、狩りや農業の手伝い、そして何より、危険からを守ってくれる。今では一人に対して、一人のドラゴンを所有するといった状態だ。だから、ドラゴンが人に危害を加えないように育て、訓練するドラゴンマスターは、この世界では欠かせない職業だ」

商人「いやあ、カイロさんが育てたドラゴン、とても評判がいいですよ。どんなにお金を出してでも、カイロさんが育てたドラゴンを買いたいという貴族や王族は大勢います」

カイロ「ありがとうございます」

商人「カイロさんは、伝説のドラゴンマスター、グレイソンの再来だと噂です」

カイロ「あはは。大げさですよ」

商人「それではまたよろしくお願いしますよ」

カイロ「はい。もうすぐ大量に訓練が終わるので納入できると思いますよ」

商人「それはそれは。とても楽しみです」

カイロ(N)「ドラゴンマスターは人気の職業で、名声と大金を得られる。僕もこの業界ではトップクラスで、大陸で僕の名を知らない者はいないとまで噂になったほどだ。……だが、一度でも事故を起こせば、一気に落ちていくことになる。それはつまり、納品したドラゴンが人に危害を加えた場合だ。たったの一回でも起きれば、終わり。天国から地獄に落ちていく。……そして、僕もそれを味わうことになったのだった」

山道を歩くカイロ。

カイロ「ここか……」

ドアをノックし開けるカイロ。

カイロ「失礼します」

グレイソン「……こんな山奥に人が来るなんて、久しぶりじゃな」

カイロ「あなたが伝説のドラゴンマスター、グレイソンさんですね」

グレイソン「はは。その名を聞くのは何十年ぶりかのう」

カイロ「あの、僕を弟子にしてください」

グレイソン「……帰りなさい。儂が教えられることなんて、何もないさ」

カイロ「お願いします!」

グレイソン「時間の無駄じゃよ」

カイロ「帰るわけにはいきません!」

グレイソン「……若いの。儂に教わることで何を求める? 名声か? 金か?」

カイロ「……かつては、そのどちらも持っていました」

グレイソン「ドラゴンが人を傷つけたか」

カイロ「はい」

グレイソン「それなら、尚更、帰った方がいい。一度、汚名をかぶった人間が元の人気を取り戻すのは不可能だ」

カイロ「……汚名を挽回するのは無理というのはわかっているつもりです」

グレイソン「では、なぜだ? なぜ、儂に教わろうとする?」

カイロ「ショックだったんです。僕の育て方は完璧だと思ってました。……ですが、人に危害を加えた。僕の理論が間違っていたのか、知りたいんです」

グレイソン「理論……か」

カイロ「はい。僕は今までの人生の全てをドラゴンに捧げたと言っても過言ではありません。ドラゴンのことなら、なんでも分かっているつもりです!」

グレイソン「そう思っているうちは、無理だな」

カイロ「……どういうことでしょう?」

グレイソン「儂は、弟子はとらない」

カイロ「……」

グレイソン「だが、ここに住みたいというなら、好きにするがいい」

カイロ「あ、ありがとうございます!」

場面転換。

風が強く吹き、窓がガタガタと揺れる音。

グレイソンがベッドから起き上がる。

カイロ「……ん? 先生? こんな夜更けにどこに行くんです?」

グレイソン「……」

部屋から出ていくグレイソン。

カイロ「あ、待ってください!」

カイロも慌てて起きて、後を追う。

場面転換。

大勢の子供のドラゴンの泣き声が響く。

グレイソン「クー、平気か? 大丈夫だ、怖くないぞ」

カイロ「……先生?」

グレイソン「ミラも、怖かっただろう。体が震えてるな。ほら、毛布だ」

カイロ「あの、先生? 一体、何を?」

グレイソン「みんな。大丈夫だ。儂が一緒にいてやるからな」

外では豪風が吹き荒れ、飼育場小屋がぎしぎしと揺れる。

場面転換。

朝。スズメの鳴く声。

グレイソン「ふむ。風も止んだし、もう大丈夫そうだな」

カイロ「ふわあー……。先生、一体、何のために小屋で一晩を過ごしたんですか? あの程度の風では小屋が壊れることもないですし、もし、壊れたとしてもドラゴンなら平気だと思うんですが?」

グレイソン「……なんのため、か。理由がないと来てはいけないか?」

カイロ「え?」

場面転換。

ドラゴンの咆哮。怒り狂っている。

グレイソン「ギリ―。興奮するな。大丈夫」

ドラゴン「ぐがあああ!」

カイロ「先生、危ない!」

ガシュっとグレイソンがドラゴンに噛まれる。

グレイソン「ぐっ!」

カイロ「先生!」

銃を構えるカイロ。

グレイソン「カイロ、銃を降ろせ」

カイロ「しかし、このままだと肩が食いちぎられてしまいます」

グレイソン「大丈夫だ。……ギリ―。怖がるな。ここにはお前を傷つける人間はいない」

ドラゴンが落ち着き、穏やかな声を出す。

グレイソン「よし、いい子だ」

カイロ「先生、始末しないんですか?」

グレイソン「なぜだ?」

カイロ「一度、人間を襲ったドラゴンは、また遅く確率が高いです」

グレイソン「カイロ。儂は別にこの子たちを売るつもりじゃない」

カイロ「……ですが」

グレイソン「カイロ。お前は、子供の頃から今まで一度も失敗をしなかったのか?」

カイロ「え? い、いえ……」

グレイソン「だろう? だが、お前は今もちゃんとした人間として生きてる」

カイロ「……」

グレイソン「そういうことだ」

カイロ(N)「先生の元で学ぶようになってから、10年が経った。だが、今でも先生の言うことは半分も理解できない……」

場面転換。

嵐の音。横殴りの雨が窓を叩く。

カイロがベッドから起き上がる。

グレイソン「……カイロ、どこに行くんだ?」

カイロ「ちょっと、飼育小屋に」

グレイソン「そうか……」

場面転換。

弱弱しいドラゴンの泣き声が響く。

カイロ「フィー、大丈夫だ。ミラ、お前はお姉ちゃんなのに、一番、怖がってるな」

グレイソンが部屋に入って来る。

グレイソン「……カイロ。聞かせてくれ。何のために小屋に来たんだ?」

カイロ「いえ……その、みんなが嵐で怖がってる気がして……」

グレイソン「カイロ。お前にとって、ドラゴンとはなんだ?」

カイロ「家族……ですかね」

グレイソン「そうか……。お前になら……ごほ! ごほっ! ごほっ!」

カイロ「先生!」

カイロ(N)「体調を崩した先生は、床に臥せることが多くなった。今ではドラゴンはほとんど、僕が世話をする状態だ」

グレイソン「カイロよ。お前がここに来て10年以上が経った。どうだ? 少しはドラゴンのことはわかったか?」

カイロ「……いえ。正直に言うと、全然わからないです。ここに来たときよりも、わからなくなったような気がします」

グレイソン「はっはっは。そうかそうか。お前も、儂と同じところに立ったようだな」

カイロ「え? 先生もドラゴンのことがわからないということですか? 伝説のドラゴンマスターと言われた先生が?」

グレイソン「カイロよ。人を完全に理解することは可能だと思うか?」

カイロ「……いえ。思いません」

グレイソン「ドラゴンも同じだよ。ドラゴンの全てを知るなんて、それこそ、人間の寿命の中では到底無理だよ」

カイロ「……」

グレイソン「それでも諦めずに寄り添ってきた。誰よりもドラゴンに寄り添ってきたつもりだ。それでも、まだまだわからないことばかりだ。儂なんかはドラゴンから見たら、未熟も未熟。生まれてもいない卵だよ」

カイロ「長い、道のりですね」

グレイソン「ああ。果てはない。……それでも、歩み続ける覚悟はあるか?」

カイロ「はい」

グレイソン「はっはっは。後はお前に任せた。ゆっくりでもいい。進み続けてくれ」

カイロ「はい」

グレイソン「何も生み出せなかった儂だが、お前という弟子を育てられたのが、唯一の功績だな」

カイロ「先生……」

グレイソン「お前とドラゴンと過ごした日々、楽しかったよ……」

カイロ(N)「それからほどなくして、先生は息を引き取った。そして、僕は先生の後を継ぎ、ドラゴンを育て続ける。ドラゴンを理解するという長く果てない道を、進み続けていく」

終わり。

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