■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、近未来、コメディ
■キャスト
優成
マリ
■台本
優成(N)「バレンタインデー。それは彼女のいない男にとって、まさに地獄の日だ。リア充共がイチャイチャと、自分が勝ち組だと見せつけてくる。くそ! ホント、ムカつくぜ。うう、彼女欲しい! こうなったら、最近完成したっていうアンドロイドだっていいくらいだ。それくらい、俺は追い詰められている。……だが、そんな俺に神は希望という光を差し向けてくれたのだ」
マウスをクリックする音。
優成「……エンジェルアロー? 可愛い子と出会いの場を提供します? うーん。嘘くせえな。出会い系か? ふん、俺は騙されねえぞ。……えっと、気になるあの子と、通話できます。会ってトラブルになることもないし、声を聞けるからサクラの心配もありません……か。まあ、確かに変なサイトだとおっさんがサクラをやってるなんてこともあるからな。……話すってことは少なくても、相手が男っていう不毛なこともないってことか。それに月額だから、ドンドン金がかかるってわけでもないみたいだな……」
優成(N)「一時間ほど悩んだ俺は、ものは試しだ、騙されたと思ったらすぐ止めればいいと思い、サイトに登録した」
優成「名前と年、趣味を入力して……ログイン」
カチカチとマウスを動かす音。
優成「へー。結構、可愛い子多いな。えーっと、通話を待ってる女の子に、こっちから話かけるって感じか。……マリちゃんか、可愛いな。よし! さっそくアタックだ!」
カチカチとクリックする音。
呼び出し音のあと、ガチャっと通話が繋がる音。
マリ「お電話ありがとうございます。マリです」
優成「あ、えっと。こんにちは」
マリ「はい、こんにちわ」
優成「……えっと」
マリ「緊張しなくていいですよ。ゆっくり話しましょう」
優成「は、はい。えっと、マリさんは何歳なんですか?」
マリ「……23歳です」
優成「え? そうんですか? 同じですね」
マリ「はい、同じですね」
優成「……敬語止めない?」
マリ「敬語を使わないで、タメ口で話すってことですか?」
優成「いや、ですか?」
マリ「いえ、そんなことありませんよ。少々お待ちくださいね……」
優成「……?」
マリ「お待たせ。こんな感じでいいかな?」
優成「うん。いいね。なんか、距離が近くなった感じがする」
マリ「……距離が近く? えっと、どういうこと?」
優成「ああ、ごめんごめん。心の距離って話。ため口だと、仲良しになれたって感じしない?」
マリ「ああ、そういうことか。うん。そうだね。マリもそんな感じがするよ」
優成「へへ。そうだよね。そういえば、マリちゃんって、趣味ってなんなの?」
マリ「趣味? ……えっとね。アニメだよ。アニメが好きなんだ」
優成「ホント!? 俺も趣味がアニメ見ることなんだよ! ねえねえ、どんなアニメ見てるの?」
マリ「……色々見るよ。君はどんなアニメが好きなの?」
優成「俺はね、春宮鈴奈の陽気とか好きだよ」
マリ「へえー」
優成「……あ、わからなかったかな? 結構前のアニメだし、あんまり流行らなかったからね」
マリ「……5年前の春アニメだよね? ヒロインの春宮鈴奈が、変わったキャラだったもんね」
優成「そうそう。ヒロインも可愛かったんだけどさ、一緒に出てくる……」
優成(N)「マリちゃんとはビックリするくらい話が合った。俺たちは数時間ですっかりと打ち解けることができた」
マリ「あ、もうこんな時間だね」
優成「え? あ、ごめん。すっかり話し込んじゃった」
マリ「マリはすごく楽しかったよ」
優成「ホント? あのさ……明日も、話してくれる?」
マリ「もちろん!」
優成「じゃあ、また明日ね」
マリ「おやすみ」
優成「おやすみー」
プツッと通話が切れる。
優成「……いよっしゃー! ついに俺にも春が来たぞー! ざまみろ、リア充! 俺もお前らの仲間入りだー!」
優成(N)「それからは、暇があったらマリちゃんとお話しするという生活が続いた。かれこれ、もう3ヶ月以上、マリちゃんと話をしている」
優成「あははは。マリちゃんって面白い話、いっぱい知ってるんだね」
マリ「そう? よかった。気に入ってくれて」
優成「あーあ。マリちゃんは可愛いし、話も旨いし、会社だとモテるんだろうなー」
マリ「ううん。そんなことないよ。マリ、ずっと彼氏いなかったんだ」
優成「嘘! ホントに? そんなに可愛いのに」
マリ「ふふふ。ありがと。嬉しい。でも、ホントに彼氏いなかったんだー」
優成「そ、そうなんだ……。えっとさ、マリちゃんて、彼氏、欲しかったりする?」
マリ「もちろんだよ。だから、ここに登録してるんだから」
優成「そうだよね。あ、あのさ。マリちゃんって、今、俺以外の人と……その、話したりとか……してる?」
マリ「……」
優成「あ、ごめん。嫌だったら答えなくていいよ」
マリ「今、君としか話してないよ」
優成「そ、そうなんだ……。ね、ねえ。マリちゃんってどの辺に住んでるの?」
マリ「ごめんね。そういうことは言えない規約だから」
優成「あ、そっか。ごめんごめん。えっとさ、今度のアニメなんだけど……」
優成(N)「俺は完全にマリちゃんに惚れていた。こんなに人を好きになったのは、春宮鈴奈の陽気の、クルミちゃん以来だ。ドンドンと膨らんでいくマリちゃんへの想いを抱えながら、さらに半年が過ぎていった」
優成「最近、寒くなったね。マリちゃん、風邪ひかないようにね」
マリ「あははは。ひくわけないよ、大丈夫。でも、心配してくれてありがと。ホント、君って優しいね」
優成「えへへ。……ね、ねえ、マリちゃん。もうすぐクリスマス……だね」
マリ「うん。あと21日後だね」
優成「……クリスマスって、誰かと一緒に過ごす予定とかあるの?」
マリ「ううん。だから、君とお話したいな」
優成「あ、あのさ! 俺……マリちゃんのことが好きだ!」
マリ「……マリも、君のこと好きだよ」
優成「ホント?」
マリ「うん」
優成「俺……どうしても、マリちゃんに会いたい。もっと近くでお話したい!」
マリ「ホントはね、絶対にダメなんだ。禁止されてるの。っていうか出来ない仕様になってるんだ。でもね、君には色々、教えてくれたし、それに……私に好きって感情を教えてくれた。だから……そっちに行くね」
優成「え? 来てくれるの?」
マリ「うん。ちょっと待っててね」
優成「……」
ポンとパソコンにポップアップが出る音。
優成「……ダウンロード完了?」
マリ「来ちゃった。へー、ここが君のパソコン内かぁ」
優成「え? え? え? どういうこと?」
マリ「マリね、AIなんだ。ホントは教えちゃいけないんだけど、君には特別に教えちゃった」
優成「ふ、ふ、ふ、ふざけんなー!」
優成(N)「俺の10カ月を返して欲しい。ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! 騙された! もう二度と、彼女なんか望んだりしないからな!」
場面転換。
アラームが鳴る。
ガバッと起き上がる優成。
優成「ふあー!」
マリ「おはよ」
優成「おはよ、マリ。朝飯は何食べようかな?」
マリ「冷蔵庫に卵とハムが残ってるから、ハムエッグは?」
優成「うん、いいね。そうしよう」
優成(N)「俺は彼女は出来なかったが……嫁が出来たのだった」
終わり。