■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
友也(ともや)
良治(りょうじ)
優作(ゆうさく)
伽奈(かな)
■台本
ラジオのチャンネルを切り替えていく。
だが、どこもノイズしか流れない。
友也「あー、やっぱ、どこの番組もやってないか……」
それでもチャンネルを切り替えていくと、音楽が流れる。
友也「お、やってたやってた」
そのとき、カランカランと音がしてドアが開く。
良治「おーっす」
友也「おお、良治! 久しぶりだな」
良治「相変わらず、客がいねえな、この店は」
友也「こんなときだ、いるわけねーだろ」
良治「そんなこと言って、いつもいねーだろ」
良治が椅子に座る。
友也「うるせーな。店が潰れないくらいの客は来てたんだよ! ……で、何か飲むか?」
良治「お前のコーヒー飲みたいな。久しぶりに」
友也「コーヒーでいいのか? 酒もあるけど」
良治「あー、酒は止めてるんだ」
友也「はあ? 意味あるのか、それ?」
良治「いいから、コーヒー」
友也「はいはい」
良治「で? 他の連中は? 来るのか?」
友也「どうだろうな。一応は連絡したけど……。ま、お前が来ただけでも嬉しいよ」
良治「俺はさんざん、好き勝手やってきたからな。……結局、ここくらいしか、来るところがねーんだ」
友也「俺も似たようなもんさ」
良治「浮いた話の一つもなかったのか? ほら、お客さんとか、さ」
友也「……じいさんやばーさんしか、来てなかったからなぁ」
良治「40にもなって、恋愛の一つもなしかよ。悲しいなぁ」
友也「いいんだよ。俺にはこの店が全てだったんだから」
カランカランと音がしてドアが開く。
優作「よお! 友也! 良治!」
友也「優作! 来てくれたのか!」
良治「ふっ。俺以外にもバカがいたとはな」
ドカッと良治の隣に座る優作。
優作「ここは俺たちの原点だからな。最終的には戻ってきたくなるんだよ」
友也「来てくれたのは嬉しいけどさ、家族とか大丈夫なのか?」
優作「さあ?」
友也「さあってお前……」
優作「しゃーねーだろ。一年くらい連絡取ってなかったんだから」
良治「一年? お前、何やってたんだよ?」
優作「いやー、その、仕事が忙しかったんだよ。……それで、つい……な」
友也「ついって……」
良治「お前も、結婚していいタイプじゃなかったな」
優作「……否定できない」
友也「優作もコーヒーでいいか?」
優作「おう、頼む」
良治「……それにしても懐かしいよな。10年ぶりか、3人で集まるのって」
優作「正確にいうと12年ぶりだな」
良治「学生の頃は毎日のように集まっては、朝まで話してたよな」
友也「野望部……か。今、考えるとよくあんな恥ずかしいことを真面目にやってたよな」
優作「厨二臭かったよな」
良治「けど、俺はあの頃のことが役に立ったけどな」
友也「良治は人一倍熱心だったからな」
良治「いや、自分の夢を本気で叶えるための部活だったんだから、それが当たり前だろ」
優作「確かになー。中学の頃から、どうやったら夢を叶えられるかを本気で考えたから、今の俺たちがいるんだよな」
友也「ああ。おかげで、俺も店を持つことができた」
良治「流行ってないけどな」
友也「うるせー」
優作「友也の場合は、ある意味、夢を叶えなかった方がいい人生を歩んでたかもな」
友也「うるせー」
友也が二人の前にコーヒーを置く。
友也「ほら、人生の敗北者が淹れたコーヒーだ」
良治「お! どれどれ」
良治と優作がコーヒーを啜る。
優作「うまい!」
良治「ホントだ」
友也「だろ?」
優作「友也は昔からコーヒーを淹れることだけは天才的だったよな」
友也「だけ、は余計だ」
良治「そういえばさ、なんで友也ってコーヒーにハマったんだっけ? 中学の頃って、コーヒーマズいって言ってたくらいだよな?」
友也「……忘れた」
優作「伽奈に美味しいって褒められたからだよな?」
良治「ああ、なるほど」
友也「ちげーよ!」
優作「おいおい。この期に及んで、見栄なんか張るなって」
友也「……最後に、あいつにも飲んでもらいたかったなぁ」
良治「未練たらたらだな。それなら、伽奈について行けばよかっただろ」
友也「ついてったって、邪魔になるだろ。それに、俺は俺の夢を叶えたかったからな。夢を貫いてこその、野望部、だろ?」
優作「そうだな」
良治「伽奈のやつ、今、どこにいるんだろうな?」
友也「3年前は地球の裏側にいたみたいだけどな」
優作「相変わらず、行動力が半端ないな、あいつは」
良治「……じゃあ、来るのは難しそうだよな」
友也「ああ……」
カランカランと音がしてドアが開く。
伽奈「間に合った―!」
友也「伽奈!」
伽奈「良治も優作も来てたんだ!」
伽奈が歩いて来て、椅子に座る。
伽奈「えへへ。野望部、勢揃いだね」
友也「来てくれたんだな」
伽奈「あったり前じゃん。最後といえば、ここに決まってるでしょ」
良治「そうだな」
優作「同意だ」
友也「みんな……」
伽奈「ねえ、友也。さっそく、私もコーヒー飲みたい」
友也「すぐに淹れるよ」
伽奈「ねえねえ、全員が集まるのって15年ぶりくらいでしょ? みんなの話聞かせてよ! みんなが野望に向かって、どこまで進んだのか、さ」
良治「ああ、時間はたっぷりあるしな」
優作「じゃあ、俺から……」
場面転換。
伽奈「いやー、やっぱ、みんな凄いね。さすが野望部。ちゃんと自分たちの夢、叶えてるじゃん」
友也「……はは。俺くらいかもな。ダメだったの」
伽奈「何言ってるのよ。友也が一番じゃない。ね?」
良治「そうだな」
優作「同意だ」
友也「え?」
伽奈「世界中を回ったけど、こんなに美味しいコーヒー、飲んだことなかったよ」
友也「……伽奈」
伽奈「最後に美味しいコーヒーが飲めて良かった。ありがとね、友也」
良治「本当に美味しかった」
優作「同じく」
友也「みんな……」
ラジオから流れている音楽が乱れて、ノイズに変わる。
伽奈「さてと、そろそろかな」
良治「ここまで衝撃、来るのか?」
優作「地球のどこにいても同じだろ」
伽奈「北海道くらいの大きさだっけ? 落ちてくる隕石」
良治「四国くらいじゃなかったか?」
優作「どうでもいいだろ、今更」
友也「あのさ、みんな。今日は来てくれてありとう。最後に言わせてほしい。俺……いい人生だったよ。楽しかった」
伽奈・優作・良治「うん」
ゴーっという轟音が響く。
終わり。