■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「あら、いらっしゃい。久しぶりね」
亜梨珠「おっと、これは言っておかないとね。亜梨珠の不思議な館へようこそ」
亜梨珠「何よ、いいじゃない。これを言わないと調子が出ないのよ」
亜梨珠「さてと。今日も話を聞きに来たってことでいいのよね?」
亜梨珠「ねえ、たまにはあなたの方が話すっていうのはどう? 一つくらいは面白い話、持ってるでしょ?」
亜梨珠「え? 金を取るって? はあ……。はいはい。わかったわよ。まあ、あくまで仕事だものね」
亜梨珠「それじゃ、今日も、ちょっと不思議な話を聞かせてあげるわ」
亜梨珠「あなたは、今の自分のこと、好きかしら?」
亜梨珠「いきなり質問するなって? いいじゃない。減る物じゃないんだし。これからする話にも関係あるんだからさ」
亜梨珠「……ふーん。別に好きでも嫌いでもない、か。珍しいわね」
亜梨珠「あら、普通じゃないわよ。こういうときって、割とネガティブなことを言うことが多いんだから。好きでも嫌いでもない、普通っていうのは、割と少数派なんだから」
亜梨珠「普通なのに少数派って、なんか変よね」
亜梨珠「そのお客さんはね、やっぱり、自分のことがあまり好きじゃないって人だったわ。自分の顔、体型、性格、学力、ぜーんぶ嫌いだって言ってたわ」
亜梨珠「その人は学生だったんだけど、学校でいじめられてたんだって」
亜梨珠「いや、そこまで酷いものじゃなくって、どちらかというとからかいに近い感じだったんだって。でも、やっぱり、本人は嫌だったみたい。まあ、からかわれて、嬉しい人なんて少数派よね」
亜梨珠「でね、その人はその人で、努力はしていたって言ってたわ」
亜梨珠「ちゃんと勉強もしていたし、ダイエットもしていたし、自己啓発の本も読んでたんだって。でも、本人が思うほどの結果は得られなかったの」
亜梨珠「努力をすれば、必ず結果が出るというわけではないというのは、本人も理解していたみたいなんだけど、やっぱり、結果が出ないことに、モチベーションが下がってしまって、いつしか努力することを諦めてしまったの」
亜梨珠「私は、その人の話を聞いた時に、もう少し頑張ればよかったのに、思ったのよね。努力に対しての結果って、出るのに時間がかかるものだもの。ほら、よく言うでしょ。成功する秘訣は成功するまで続けることだって」
亜梨珠「あ、ごめんごめん。話が逸れたわね」
亜梨珠「とにかく、その人は努力を止めて、どうしたかというと、この世界自体を恨み始めたの」
亜梨珠「自分は努力したのに報われないのは、この世界が間違っているからだって」
亜梨珠「その気持ちもわからなくもないわ。結果が出なかったときって、誰かのせいにしたくなるものだもの」
亜梨珠「それでね、いわゆる、勝ち組の人を見ては、やっぱり恨み言を言ってたらしいわ。あいつは、たまたま、この世界に気に入られただけだ。大した努力もしてないくせに、幸せなのが許せないって」
亜梨珠「これも、何となくわかるのよね。ほら、こういう人ってちょっと天狗になってたりして、調子に乗っているように見えたりするからね」
亜梨珠「そういう人も、陰で努力したりしてるんだけどね」
亜梨珠「ある日のこと。その人はある占い師から、不思議な鏡を買ったの」
亜梨珠「その鏡を使えば、全てが逆になった世界に行けるって」
亜梨珠「つまり、今、この世界に気に入られていない自分が、今度は自分を愛してくれる世界に行けるってわけね」
亜梨珠「元々、この世界が嫌いだった、その人はさっそく、占い師から聞いた方法で、鏡を使って、別の世界へと行ったのよ」
亜梨珠「……あ、その顔は信じてないわね? まあ、いいわ。信じても、信じなくても。とにかく話をつづけるわね」
亜梨珠「この人が行った世界では、思った通り、全てが逆転していたわ」
亜梨珠「つまり、容姿も体型も、学力だって理想の状態だったの」
亜梨珠「テストを受けても、勉強してないのに、ぱっと答えが頭に浮かんで、どんなに暴飲暴食しても、太ることはなかった。そして、町を歩けば、色々な女の子に声をかけられたそうよ」
亜梨珠「もちろん、その人は凄く喜んだわ。今までどんなに望んでも届かなかったことが、この世界では簡単に手に入ったことにね」
亜梨珠「だけど、その人はいつも自分に有頂天にならないようにって言い聞かせてたの」
亜梨珠「自分は他の奴らとは違う、ちゃんと努力もして、謙虚でいるんだって」
亜梨珠「いい心がけよね。貧乏だった人がお金を持った時に、お金を大切にできるって感じに似てるわよね。……え? 全然違う? ……あなた、本当に面白くないわね」
亜梨珠「とにかく、その人は数か月は努力してたみたいよ。もっと上を目指すんだって。……でもね、努力しても努力しなくても結果が同じだったらどう? それでも努力できる人って少ないと思うわ」
亜梨珠「もちろん、その人もそう。途中で努力することを止めたみたいよ」
亜梨珠「そしてね、同時に、その世界に飽きてきたらしいの。何をやっても上手くいってしまう世界に、嫌気がさしてきたみたいよ」
亜梨珠「毎日がつまらなくて、つまらなくて、どうしようもなかった、この人が次になにをしたと思う?」
亜梨珠「他人をからかい始めたのよ。物事は何をしても、上手くいくから、やる前から結果が想像できたの。でも、他人のリアクションに関しては予想外のことをするから、すごく面白かったみたいよ」
亜梨珠「そしてね、ある時、その、からかっていた人から言われたの」
亜梨珠「お前なんか、単に世界に気に入られているだけだろ。それなのに勘違いして、愚かだって」
亜梨珠「そして、僕がその立場だったら、努力し続けるって」
亜梨珠「かなりのショックを受けたみたいよ。そりゃそうよね。元の世界にいたときの自分の台詞なんだから」
亜梨珠「その人はね、また鏡を使って、元の世界に戻ってきたわ」
亜梨珠「なにもかも上手くいかない、自分が愛されていない世界に、ね」
亜梨珠「もちろん、帰ってきてからは今度は何もかもうまくいかないみたいよ」
亜梨珠「でもね、今ではそれを面白いって思えるようになったんだって」
亜梨珠「そりゃ、頑張っても上手くいかなかったときは、はらわたが煮えくり返るくらい悔しいけど、その分、また頑張れるからって。そしてね、上手くいったとき、今までにないくらい、嬉しいんだってさ」
亜梨珠「それでね、私、最近、もう一度聞いてみたの。自分のことが好きかって」
亜梨珠「そしたら、嫌いだって」
亜梨珠「でもね、好きな部分も出来たって、笑っていたわ」
亜梨珠「上手くいかないから、上手くいったときに嬉しい。自分のことが嫌いな部分があるから、好きなところを見つけられる。失敗があってこその成功の喜びがあるってわけね」
亜梨珠「あなたも、自分のこと、好きでも嫌いでもないって言わないで、嫌いなところと好きなところ、見つけてみたらどうかしら?」
亜梨珠「これでお話は終わりよ。どう? 面白かったかしら?
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。