■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
増田 愛莉(ますだ あいり)
真(まこと)
■台本
愛莉(N)「3年前まで、私には好きな人がいた。その人は特に頭がいいわけでも、スポーツができるわけでもない。休み時間は他の男子と変わらないバカ騒ぎをしている。……ただ、時々、窓の外を眺めている目がどこか儚げで、寂しそうに見えた。そのギャップが私の中で引っかかったのだ。その頃はよく漫画を描いていて、その人の絵ばかり描いていた。だけど……」
真「増田! いっつも、何描いてるんだ?」
愛莉「あ、ううん。何でもない」
真「いいから見せろよ!」
愛莉「あっ!」
バッと紙を奪い取る。
真「へー。漫画描いてたのか。どれどれ? げっ! なんで、男同士で抱き合ってんだよ!」
愛莉「いや、えっとそれは……」
真「気持ち悪ぃ!」
ビリと紙を破る。
愛莉「あっ……」
愛莉(N)「こうして、私の初恋は紙と一緒に破られたのだった。中学を卒業して、高校に進学しても同じ学校にいる。だけど、あれ以来、一言も口をきいていない。可愛さ余って憎さ百倍。女心と秋の空とはよく言ったもの。今では学校内で一番嫌いな人になっている」
場面転換。
愛莉が走っている。
愛莉「はっ! はっ! はっ!」
プシューとバスのドアが閉まる。
愛莉「あ、待ってー!」
バスが行ってしまう。
愛莉「行っちゃった……」
歩いて、バス停の中に入って、椅子に座る。
愛莉「仕方ない。あと10分待つか」
そのとき、パラパラと雨が降って来る。
愛莉「あ、雨……。よかった。屋根のあるバス停で」
遠くから、真が走ってくる。
真「はっ、はっ、はっ」
バス停の中に駆け込んで来る真。
愛莉「げっ!」
真「ふう。間一髪」
ザーッと勢いよく雨が降る。
愛莉「……」
真「あ……」
愛莉「……」
真「……」
愛莉(N)「最悪。よりによって、あいつと二人きりなんて……。せめて雨が降ってなければ、外で待つのに」
真「……」
愛莉(N)「なんか、こっち、チラチラ見てるし。頼むから話しかけてこないでしょ。そっちはあのこと、忘れてるかもしれないけど、こっちはしっかり覚えてるんだから」
真「あ……あの、増田さん」
愛莉「……え? 私のこと、覚えてるの?」
真「うん。中学のとき、一緒のクラスだったでしょ」
愛莉「記憶力がいいんだね」
愛莉(N)「でも、あのことは覚えてないでしょうけど」
真「あのさ……」
愛莉「ごめん。私、今、誰とも話したくない気分なんだ」
真「え、あ……そっか。ごめん」
愛莉「……」
愛莉(N)「あと5分か。あーあ。最悪の時間って、過ぎるの遅いなぁ。早くバス来ないかな……」
真「……あのさ」
愛莉「……なに?」
真「ごめん」
愛莉「は? なに? 急に」
真「増田さんはもう覚えてないかもしれないけど……」
愛莉「……?」
真「中学生のとき、増田さんが描いた漫画を破いたことがあったんだ」
愛莉「え?」
真「ずっと……謝りたかったんだ。あんな最低なことをするなんて」
愛莉「……」
真「謝ろうって思って……でも、勇気が出なくて……時間が経てば経つほど言い出せなくて……気づいたら、中学、卒業になって……」
愛莉「……3年前のこと、急に謝られても」
真「そ、そうだよな。今更……遅いよな。でも、これだけは渡しておきたくて……」
カバンをガサガサと漁る真。
そして、一枚の紙を取り出す。
愛莉「これって……」
真「破った漫画……。テープでつなぎ合わせたものなんだけど……」
愛莉「ぷっ! あはははは」
真「増田さん?」
愛莉「今頃、このページ返してもらっても、他のページが残ってないわよ」
真「あ、そ、そっか……」
愛莉「でも、ありがとう」
真「え?」
愛莉「ねえ、もしかして、3年間、ずっとこれ、持ち歩いてたの?」
真「う、うん。いつでも渡せるように……」
愛莉「……」
愛莉(N)「女心と秋の空。……そう。女の心は秋の空のように変わりやすい。可愛さ余って憎さ百倍の逆のことわざはないのかな? 女心は複雑のようで単純。漫画を破られたことで、この人を嫌いになった。でも、その漫画を返してくれただけで、私の心はまた、ひっくり返ってしまった……」
そのとき、バスがやってきて、プシューとドアが開く。
愛莉「……」
真「……」
再び、プシューと音がして、バスが出発する。
愛莉「あ……。雨、止んだね」
真「ホントだ」
愛莉「行こっか」
真「うん」
愛莉と真が並んで歩く。
真「さっきまで、すごい雨だったのに、凄い晴れてる」
愛莉「ふふ。さすが秋。天気が変わりやすいね」
真「あ、見て! 虹だ」
愛莉「……綺麗だね」
愛莉(N)「私には好きな人がいた。すごく嫌なことをしてきたと思ったら、その逆をしてくる。そんなギャップに、私は二度目の恋をした」
終わり。