■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「ふふ。この台詞をあなたに言ったのは何回目になるんですかね?」
アリス「私にとって、あなたは常連というより長年の友人にすら感じます」
アリス「ふふふ。大げさですかね。考えてみると、あなたが、このアリスの不思議の館へ来るようになってから、まだ一年も経っていないのですよね。本当に不思議なものです。きっとそれだけ、あなたがここに来てくれるからでしょう」
アリス「そうですね……。出会いについてのお話をしましょうか」
アリス「春といえば、出会いの季節でもあり、また、別れの季節でもあります」
アリス「出会い。それは人によっていいことでも、悪いことでもあります。その人に出会ったことが、良かったのか、悪かったのか。それを決めるのは本人であるべきだと、私は思います」
アリス「別れ方がどうであれ、出会ったことの意味は、本人同士にしかわからないはずで、他者がどうこう言うことではないのではないでしょうか」
アリス「これはある、二人の少女の物語です」
アリス「それはまだ、二人が出会う前。どちらの少女も、貧困街の生まれでした。いわゆるスラムですね。幼い頃に親に捨てられ、その日を生きることすら難しい日々だったそうです」
アリス「……おそらく私たちが理解できないほどの壮絶な日々だったでしょう。私達では想像すらできないほどに……」
アリス「一人の少女は、生きていくためにギャングの組織に入り、盗みを覚えさせられました。食べ物やお金、ありとあらゆるものを盗み、組織に渡すことで、その日を生きるだけのギリギリの金額を得ていたそうです。……悲しいことですが、スラム街ではそういうことが、わりと普通のことらしいですね。ただ、その少女は盗みの技術は天才と噂されるほどだったそうです。そして、その腕を買われて、さらに多くの盗みを強要されることも多かったようですね」
アリス「そして、もう一人の少女は、知識こそが生き残る術だと考え、とにかく勉強をしたらしいです」
アリス「捨ててある本を探したり、図書館へ忍び込んだりして、とにかく知識を増やしていきました」
アリス「その甲斐もあり、小さな仕事を持つことが出来ていたそうです」
アリス「とは言っても、安い賃金でこき使われる毎日だったそうです。働いても働いても、その日を生きるのがギリギリという生活は、少女にとってはとても辛かったでしょう」
アリス「そんなある日のことでした。本当にふとしたきっかけで、その少女は、盗みが得意な少女と出会いました」
アリス「ふふ。不思議なことに、本人たちもどんな切っ掛けか、覚えてないそうですよ。気付いていたら、話していたということです。二人にとっては、出会い方よりも、出会ったこと自体に衝撃を覚えたみたいですね」
アリス「二人は生まれた境遇がとてもそっくりだったみたいです。父親の顔も知らず、母親からは邪魔とされて、捨てられたこと。それがどちらも7歳だったことなど、結構、共通点があったようです」
アリス「ですが、捨てられてからの人生は、全く違う生き方をしてきたことに、二人は衝撃的で面白かったそうです」
アリス「そして、二人には悩みがありました」
アリス「盗みが上手い少女は、いつか組織から裏切られてしまうのではないかという悩み。知識を積み重ねてきた少女は、このまま働き続けても、この生活からは抜け出せないのではないかという悩みです」
アリス「そんな悩みを打ち明ける仲になり、二人は頻繁に会うようになったそうです。そこから一緒に住むようになるのに、そう時間はかからなかったようですね」
アリス「一緒に暮らしていたある日、知識を持つ少女の方が、盗みの技術を持つ少女に、ある盗みをしないかと持ち掛けたそうです」
アリス「最初は、盗む技術を持つ少女の方は反対したそうです。知識を持つ少女には犯罪に手を染めてほしくない、自分とは違い、真っ当に生きて欲しいと」
アリス「ですが、知識を持つ少女も退きませんでした。盗む技術を持つ少女が、組織に裏切られる前に組織から抜け出して欲しいと思ったようです」
アリス「二人は長い時間、話し合いました。今までは、お互い、人に利用され生きてきたこと、そして、これからは自分のために生きていきたいこと。それが例え、犯罪に手を染めることになったとしても……」
アリス「そして、二人は、お互いが協力して盗みをする計画を立てます」
アリス「二人が狙ったのは、主に企業のトップで、脱税をしている人間……。つまり、裏金を作っている人ですね。その裏金を盗もうという計画です」
アリス「盗まれた方は、警察などの表の機関に届けることはもちろんできません。そして、警備を厚くした場合は、裏金があると公言するようなものですからね。表立って、警備を厚くすることもできない、といった計画だったようです」
アリス「ふふ。犯罪に対して、褒めるのはどうかと思いますが、なかなかうまい手だと思います。……あとは脱税という犯罪者に対して盗みを行うということで、精神的な負担も減らしていたのではないでしょうか」
アリス「そして、その計画はあっさりと成功します」
アリス「知識を持つ少女の計画は完璧で、入念に準備を重ねた上での決行だったため、簡単だったようです」
アリス「しかも、犯行後はニュースや噂にさえならなかったそうです」
アリス「そして、二人はこの成功に気を良くし、数々の計画を立てては、全て成功させていきました」
アリス「犯行の回数が二桁になる頃には、さすがに噂が立つようになったそうです」
アリス「汚い金を持つ人間から、華麗に盗みを働く、謎の窃盗団という、わりと良いほうの意味で世間に広がり、ちょっとした義賊のようにもてはやされたみたいです」
アリス「二人はその噂を聞いて、さらに気が大きくなっていきます。それからも、数々の盗みを働き、成功させ、二人の元には大金が積みあがっていきます」
アリス「二人はそのお金を使い、今までの分を取り返すように人生を楽しんだそうです」
アリス「ですが、それが仇になりました。いくら、完璧な犯行で捕まらなかったとしても、普段の生活で贅沢をしていれば、自分が窃盗団だと公言するものです」
アリス「案の定、二人の元には被害者から依頼された暗殺者が送り込まれ、二人は殺されてしまいました」
アリス「……どうだったでしょうか? この二人の少女の出会いは、他人から見たら決していいことではありません。少なくとも、知識を持った少女は、盗みの技術を持つ少女に出会わなければ、犯罪に手を染めることなく、もっと長い人生を送れたかもしれません」
アリス「盗みの技術を持つ少女もそうです。犯罪を犯し続けることになっても、組織から出なければ、殺されることはなかったかもしれません」
アリス「ですが、二人は出会い、大金を手に入れて、一時でも人生を満喫することができました」
アリス「どちらが本人にとって幸せだったのか? それはまさしく、本人にしかわからないことです」
アリス「人は、人と出会うことで良くも悪くも人生が変わっていきます」
アリス「その出会いが良かったのか、悪かったのか、それは本人にしかわかりませんし、結果を見るまでは判断ができません」
アリス「ふふ。私とあなたの、この出会いが良かったのか、悪かったのか、どちらになるでしょうね?」
アリス「春は出会いと別れの季節です」
アリス「あなたに、良き出会いがあることを祈っています」
アリス「これで、今回のお話は終わりです」
アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」
終わり。