■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」
亜梨珠「あら、どうしたの? 随分とお疲れのようね」
亜梨珠「へー。仕事が忙しくて、あんまり寝てない、か。それは大変ね。寝不足は集中力でなくなるし、体にも影響が出るのよ」
亜梨珠「肥満の原因は寝不足にもあるって話、知ってるかしら?」
亜梨珠「……ふふ。お腹を押さえて、どうしたの? 大丈夫よ。まだ目立ってないわ。……まだ、ね」
亜梨珠「今日はもう、帰って寝たらどうかしら?」
亜梨珠「え? 仕事だから、ちゃんと話を聞くって? ……あなた、本当に仕事熱心なのね。わかったわ。今日も、何かお話を聞かせてあげる」
亜梨珠「……とは言っても、どんな話が良いかしら?」
亜梨珠「そうだ。体型の話が出たから、それに関連したお話にしましょうか」
亜梨珠「これはかなり昔のお話よ」
亜梨珠「一人の自画像を描く画家のお話」
亜梨珠「その画家はもちろん、絵を描く技術は高かったんだけど、もう一つある噂があって、その噂のおかげで、とても人気の自画像の画家だったの」
亜梨珠「で、その噂というのが、その画家に描いた絵のような姿になることができるっていうものなの」
亜梨珠「……ふふ。どういうこと? って顔をしているわね。自画像なんだから、その姿になるのは当たり前だろ、って言いたいんでしょ?」
亜梨珠「こういう話を聞いたことないかしら? 現代に残っている偉人の自画像がは、かなり盛られたものだって」
亜梨珠「つまり、あれよ。画家が気を利かせて、実際よりも格好よく描くってものよ」
亜梨珠「昔でも客によいしょをするっていうのは当たり前に行われていたってことね」
亜梨珠「じゃあ、それを踏まえて、話を戻すわね」
亜梨珠「つまり、その画家が描いた、盛った姿に、実際になれるってものよ」
亜梨珠「おとぎ話で、自画像に呪いをかけて、自画像の中の自分が年を取っていって、実際の体は若いまま、なんてものがあるけど、それとはまた違う話よ。あくまで、描いた自画像に、近づいていくってものなの」
亜梨珠「それは人気になるわよね。現代でも、そんな画家がいれば、きっと大人気よ」
亜梨珠「え? その画家には何か、特殊な力があったのかって?」
亜梨珠「そうねえ。人よりも多い知識を持っていたけど、何か特殊な力や怪しい力、つまり超能力的なものは持っていなかったようよ」
亜梨珠「それじゃ、どうして、そんなことができたのかって? ふふ。それを今からお話するんじゃない」
亜梨珠「その画家はね、自画像を描く前にある、約束をするの」
亜梨珠「それは、毎朝、必ず、自画像を見た後に、鏡を見ること」
亜梨珠「その約束を守れると誓った相手にだけ、自画像を描いていたらしいわ」
亜梨珠「ふふ。その通り。その約束の中にからくりがあるってわけ」
亜梨珠「こういう話を知っているかしら?」
亜梨珠「筋肉トレーニングをするときに、理想の体型を想像しながらトレーニングするのと、全く想像しないでトレーニングした場合、同じトレーニング内容だったとしても、結果に違いが出るってものよ」
亜梨珠「ええ。もちろん、理想の体型をイメージしながらトレーニングした方が、いい結果が出るって話ね」
亜梨珠「え? いいえ。その画家は別に、相手に運動をするようには言わなかったわ。あくまで、朝に、自画像と鏡を見ることだけよ」
亜梨珠「ふふ。あんまり引っ張る話でもないから、ネタ晴らしをするわね」
亜梨珠「まず、前提条件として、その画家に自分の自画像を描いてほしいと依頼するということは、自分を変えたいと思っている人ってこと。もちろん、その思いの強さは人によってバラバラだけどね」
亜梨珠「でも、毎朝、自分の理想の姿と、今の変えたいと思っている自分の姿を交互に見るのよ。実は、結構、精神的にきついわよね。なんていうか、常に理想の自分と比べるのよ?」
亜梨珠「まだ、他人の姿だったら、他人は他人で、自分は自分と割り切れると思うけど、自画像だから、自分と比べることになるわ。こうなると、割り切るのは難しいわ。だって、自分と自分を比べるってことになるのよ?」
亜梨珠「そんなことを毎日、続けてみるとどうなると思うかしら?」
亜梨珠「そう。本人たちは自主的に、頑張ろうと努力を始めるの」
亜梨珠「例えば、暗い顔をしていたのを、少しだけ笑顔を意識する、とか、いつもよりほんの少しだけ食べる量を減らす、とかね」
亜梨珠「しかも、毎朝、起きたらモチベーションを再確認することになら、効果はてきめんよ」
亜梨珠「そうしていく中で、常に自分の中には理想の姿が刷り込まれていく。無意識にその姿になろうとするわ。そして、知らず知らずに小さな努力を始める。さらにそれを続けるモチベーションを毎朝、起きたときに刷り込まれるの」
亜梨珠「そして、ある日、気付くの。自分はこの理想の姿に近づいていっているって。そうなれば、本人はさらに努力をしていくわ。で、努力をすれば、また結果が出る」
亜梨珠「気づけば、理想の姿……つまり、自画像の姿になっているってわけね」
亜梨珠「もちろん、全員が全員、成功するわけじゃないけど、成功の確率はかなり高かったみたい」
亜梨珠「自画像を描いてもらった本人は画家にお礼を言うの。でも、画家はこう返すらしいわ」
亜梨珠「理想の姿になれたのは、私のおかげではなく、あなたの努力のおかげだって。そして、私は理想の姿を描いているのではなく、本当の姿を描いているだけだって」
亜梨珠「この方法が優れているところが、常に理想の自画像を見るという習慣が出来れば、それからも無意識に持続させようとするというところね」
亜梨珠「だから、また、自画像を描いてもらった当初に戻ることは少ないって話よ」
亜梨珠「その人間の人生は習慣が作る。どこかの偉い人の言葉よ」
亜梨珠「え? 誰かって? ……忘れたわ。いいじゃない、そんな細かいことは」
亜梨珠「さあ、今回の話はどうだったかしら? ほんの少し変えることで、そして、それを続けることで人間は変われるってことよ」
亜梨珠「……はいはい。わかってるわよ。オチがないのかってことよね?」
亜梨珠「でも、このオチはあまり話したくないのよね。……それでも聞きたいかしら?」
亜梨珠「え? 余計、気になるって? まあ、そりゃそうね」
亜梨珠「じゃあ、最後に、その画家の最後についてよ」
亜梨珠「その人気だった自画像の画家だけど、最後はある貴族の怒りを買って殺されたらしいわ」
亜梨珠「それはどうしてか……」
亜梨珠「その貴族はどうやら、周りに内緒で少しずつ整形をしていったみたいなの。つまりは、手術で強引に変えてたってわけね」
亜梨珠「……つまり、その画家は、その人の真実の姿……手術を受ける前の姿を描いたってわけね」
亜梨珠「そのことで、自分が整形をしていたことが周りにバレたことで、怒りを買ったってわけよ」
亜梨珠「つまり、オチは真実の姿を描くことは必ずしもいいことだけじゃないってことよ」
亜梨珠「ふふ。聞かなきゃよかったって、顔してるわね。でも、聞きたいって言ったのはあなたよ」
亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。